健診オールAで、終わらせない理由
オールA判定の健診結果を患者さんが持ってきたとき、自分は気を引き締める。
患者さんに「え、A判定ですよね?」と言われることもある。
たしかにLDLはA。HbA1cもA。ALTもA。eGFRも大きな異常なし。
健診票だけを眺めるとパーフェクト。
でも、そこで終わらせない、ここからが始まりだと思っている。自分がパーソナルドクターとして気にかけているのは、「大きな病気がないか」だけではない。相手がただ病気を避けたい人ではなく、最高の健康とパフォーマンスを目指している人なら、A判定はゴールではなくスタートだ。
異常がないことは大事。ただ、その先がある。健診票の数字を組み合わせて見たり、時系列で比べたりすると、浮かび上がってくることがたくさんある。この記事で書くのは、A判定を疑えという話ではない。A判定は入口として使うけれど、そのうえで、数字を並べたり、去年と比べたりして、より深く体の中を見ていく。
扱うのは、主にこの5つ。
LDLがAでも、中性脂肪とHDLの比をとる
HbA1cが正常でも、腹囲、血圧、中性脂肪を見る
ALTが基準値内でも、前年差とγ-GTP、腹囲をチェックする
BMIが正常でも、肝臓と脂質からTOFIを疑う
eGFRが60以上でも、その下がり方の傾きと尿蛋白を追う
全部読むと、健診票から見える景色が一気に広がって見えるはず。
A判定は「その項目だけ」の話
健診のA判定は便利だ。異常があれば拾える。医療者側も説明しやすい。ただ、A判定には弱点もある。項目ごとにバラバラに判定すること。そして、去年からどう動いたかという時系列までは反映しにくいことだ。
そもそも、身体は項目ごとに分かれていない。中性脂肪が上がる背景には、糖質、アルコール、内臓脂肪、運動不足、睡眠不足がある。血圧が上がる背景にも、同じものがある。ALTがじわじわ上がる背景にも、同じものがある。HbA1cがまだ正常でも、その裏で膵臓が頑張っていることがある。
健診票は、1項目ずつ丸をつけて終わるものではない。数字を横に並べ、去年の数字と重ねると、身体の流れが見えてくる。

LDL、HDL、中性脂肪、HbA1c、腹囲、血圧、ALT、γ-GTP、eGFR、尿蛋白。ひとつひとつの単語は普通でも、文章として読むと「これは代謝が少しずつ崩れ始めているな」と分かる、みたいなことがある。
日本のメタボリックシンドロームの診断基準¹⁾も、この発想だ。腹囲をとっかかりにして、そこに血圧・血糖・脂質の異常が2つ以上重なるかで判断する。単体の数字ではなく、組み合わせで拾い上げる考え方だ。
LDLはA。でも中性脂肪とHDLを並べる
当然ながらLDLはもちろん見る。動脈硬化リスクを考えるうえで、外せない数字だ。ただ、自分ならそれに加えて中性脂肪とHDLの比を必ず見る。

中性脂肪が高めで、HDLが低め。この組み合わせは、自分の中では黄色信号。内臓脂肪、インスリン抵抗性、動脈硬化リスクのサインだ。
インスリン抵抗性とは、ざっくり言えば、血糖を下げるインスリンが効きにくくなっている状態だ。血糖はまだ正常でも、その裏で身体が多めのインスリンを出して帳尻を合わせていることがある。
中性脂肪をHDLで割ったTG/HDL比は、その状態をざっくり掴むための簡易指標として研究されてきた²⁾。
ここは注意がいる。TG/HDL比は、診断に使う数字ではない。万人共通の絶対カットオフがあるわけでもない。これだけで「あなたはインスリン抵抗性です」と決める数字ではない。
ただ、自分はすごく大事な指標だと思っている。
1.5未満ならまず悪くない、2を超えたら少し注意、3を超えたらはっきり黄色信号。日本人データでも、インスリン抵抗性の目安として、非肥満では1.5以上、過体重では2.2以上は注意すべきという報告がある⁸⁾。
例えばTG: 129、HDL: 43 くらいの患者さんはたくさんいる。
健診ではこれは全部A判定だ。でも、TG/HDL比は3。黄色信号だ。
A判定だと思って放っておくと代謝異常が進行する。

ちなみに自分の場合は、HDL92、TG45なので、TG/HDL比は45÷92で約0.49になる。ここまで低い数字を目標にする必要はないが、ベストの健康状態を目指すなら、TGを低く、HDLを高く保つことが大切だ。
比率そのものより大事なのは、推移だ。
中性脂肪が去年より上がってきた。その人のベースラインより高くなってきた。HDLも下がってきた。腹囲も増えている。
この流れがあるなら、LDLがAでも「脂質は問題なし」と片づけないほうがいい。LDL単体では、糖質過多、内臓脂肪、インスリン抵抗性の匂いまでは拾いきれないからだ。
ちなみに血管リスクをさらに深掘りしたい場合は、ApoB、sdLDL、Lp(a)、頸動脈エコーの話になる。ただ、これは標準健診票に載っている数字の読み方とは、少し別の話なのでここでは割愛する。LDLがAなのに血管リスクをもう一段深く知りたい人向けには、別記事でまとめている。
HbA1cは正常。でも腹囲、血圧、中性脂肪を並べる
次に血糖。HbA1cも空腹時血糖も基準値内。それだけなら、血糖は大丈夫に見える。でも、意外とそうとは限らない。
人間ドックで空腹時インスリンが入っているなら、それも見たい。HbA1cが正常でも、インスリン側が高めの人がいる。血糖を正常に保つために、身体が裏で頑張ってインスリンを出している可能性がある。
水面では涼しく浮いているカモが、水面下では足をバタバタ動かしている。あれに近い。水面の数字(HbA1c、空腹時血糖)は静かでも、水面下では必死だ。
HOMA-IRという簡易指標もある⁷⁾。ただ、これも診断には使わない。検査法や集団でカットオフが変わるし、単独で「抵抗性」とは決められない。
ここで効いてくるのが、ほかの数字との並びだ。インスリン抵抗性は、たいてい単独では出てこない。腹囲、血圧、中性脂肪、HDLが同じ方向に動いていることが多い。
腹囲が増えてきている。血圧も少し上がっている。中性脂肪も上がってきた。HDLは下がってきた。これらはインスリン抵抗性のサインだ。
自分はこの状態を、会社の資金繰りに近いと思っている。
売上はまだ落ちていない。決算書も黒字。でも借入が増え、支払いサイトが伸び、在庫が積み上がっている。「黒字だから大丈夫」で済ませる人はいない。
血糖も同じだ。HbA1cだけなら黒字に見える。でも腹囲、血圧、中性脂肪、HDLを並べると、裏で何かが回りにくくなっている。
HbA1cが正常なうちに、他の数字の並びで気づけるか。気づけると、病名がつく前に生活を戻せる。
ALTは基準値内。でも前年から上がっていないか
肝機能も、単体だと見逃しやすい。AST、ALT、γ-GTP。
酒を飲む人はγ-GTP、脂肪肝を言われたことがある人はALTを気にする。
ただ、自分が気にするのは今年の数字だけではない。去年との変化だ。
ALTが数年でじわじわ上がってきた。施設の基準値内なら、健診票はAかもしれない。それでも、上がっている流れは無視したくない。
脂肪肝(いまはMASLDという呼び方に変わってきているが)の文脈では、検査会社の一般的なALT正常範囲が高めに設定されすぎていることがある、と海外のガイダンス(AASLDのPractice Guidance³⁾)でも触れられている。つまり、初期の脂肪肝が見落とされやすい。
日本でも、2023年に日本肝臓学会が「奈良宣言」を出した⁹⁾。健診のALTが30を超えたら、慢性肝疾患が隠れている可能性を考えて、まずかかりつけ医に相談する。それが日本の専門学会としての立場だ。施設の基準値が40で「正常」でも、30を超えていれば注意すべきラインだ。

ALTは、基準値を超えたかだけでなく、前年差を比べる意味がある。基準値内でも上がっていて、そこに中性脂肪、HDL、腹囲、γ-GTPの変化が重なるなら、脂肪肝や代謝異常が始まりつつある根拠になる。
特にBMIが正常なのにALTがじわじわ上がる人。体重計は静かでも、肝臓側に脂肪が先回りしていることがある。サプリを増やす前に、夜の食事、酒、内臓脂肪、運動不足疑いたい。健診票は、そこまで読める。
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BMIは正常。でも肝臓と脂質を並べる
BMIが正常だと、多くの人は安心する。自分も昔はそう思っていた。BMI22前後。見た目も普通。スーツも似合っている。それなら大丈夫そうに見える。
ただ、BMIは体重と身長の計算でしかない。筋肉量も内臓脂肪も肝臓の脂肪も映さない。外形だけの数字だ。
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