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接待を減らさず経営者の数値を下げた、引き算の食べ方

「先生、接待を減らせって言われても無理です」

パーソナルドクターをしていると、この言葉を月に何回聞くかわからない。

週2〜3回の接待。
取引先との会食。
社内の懇親会。

減らせない。断れない。
それが経営者の現実だ。

だから自分は「接待を減らしましょう」とは言わない。
代わりに、何を加えるかではなく、何を引くか。接待の中身を"引き算"で組み立て直す方法を一緒に考える。

その結果、接待や飲み会の頻度はそのままで、中性脂肪を半分にした経営者もいる。体重が半年で4kg落ちた人もいる。全員がうまくいったわけじゃなくて、3ヶ月経っても数値が動かなかった人もいた。経営者2人+自分の友人1人、合計3人分の、失敗も含めた半年を書く。

※プライバシー保護のため複数の事例をもとに再構成しています。数値・背景・セリフはいずれも実在の特定の個人とは関係ありません。


Aさんの数値

去年から担当している経営者を、仮にAさんとする。

40代後半。従業員150人規模の会社の社長。週3接待が標準装備で、酒は強い。身長172cm、体重83kg。

初回の血液検査を見たとき、自分はちょっと黙った。

- 中性脂肪 149 mg/dL
- BMI 28
- ALT 52 U/L
- LDL 158 mg/dL
- HbA1c 5.9%

糖尿病の一歩手前で、脂肪肝もあって、脂質異常症もあって。メタボの診断基準そのものを厳密に満たすかは微妙なところだけれど、動脈硬化に向かう線が何本も重なっている、そういう数値だった。

「先生、わかってますよ。でも接待を減らせって言われても、無理ですから」

初対面の外来で、向こうから先に言われた。
自分は、減らしてくださいとは言ってない、と答えた。
代わりに、3つだけやってほしいことがある、と伝えた。


最初に渡した3つ

1. 席についたら、最初の一皿は野菜かたんぱく質から
2. 締めのラーメン・お茶漬けはカット(代わりに味噌汁で終わる)
3. 翌朝はサバ缶とサラダで胃腸を休める

「できそうですか」と聞いた。
「余裕です。簡単じゃないですか」とAさんは笑った。

3ヶ月後に再検査、と伝えて初回は終了。


3ヶ月後、数値はほぼ動かなかった

3ヶ月後の外来。

- 中性脂肪 149 → 141
- BMI 28 → 27.8
- ALT 52 → 50
- (LDL・HbA1cもほぼ変化なし)

誤差レベル。
自分も、Aさんも、数値を見て無言になった。

「先生、ちゃんとやってるんですけどね」
Aさんは首をかしげていた。

考えてみれば、初診で自分は「3つ渡してできそうか聞く」で終わっていた。現場で何が起きているかを、確認していなかった。


1週間の食事を書き出してもらった

その場で、直近1週間の食事を時系列で思い出してもらった。

最初の一皿ルールは、ほぼ機能していなかった。
取引先より先にメニューを決められない。サラダから行こうとしても、相手が刺身を頼めば合わせる。パンが先に出てくればとりあえず手を出す。「最初の一皿を選ぶ権利」が、接待の席には存在しなかった。

翌朝のサバ缶も、ほぼできていなかった。
二日酔いの朝にラーメンを食べる習慣は、Aさんが大学時代から続けてきた20年物。これを「今日からサバ缶」に切り替えるのは、意志の力で勝てる相手じゃなかった。

できていたのは「締めカット」だけだった。
「これは胃の容量の問題なので、意識しなくても無理でした」とAさんは言った。

できていたのが1/3なら、数値が動かないのは当然だった。


2つに絞って、やり方を変えた

自分が現場の話を聞き逃していたことを謝って、プランを作り直した。

「最初の一皿」と「翌朝サバ缶」、どっちも店の中・自宅に期待しすぎていた。Aさんの現場は店の自由度が低すぎ、二日酔いの朝に冷蔵庫を開ける気力もなかった。

だから、発想を変えて「店の外」と「コンビニ」だけで戦うことにした。

ひとつ目:席に着く前に、お店の近くのコンビニで無糖ヨーグルト1個とゆで卵1個を食べる。

たんぱく質と脂質を先に胃に入れておけば、接待の席で何が出てきても血糖スパイクはゆるやかになる。「最初の一皿」は店の外で済ませておく、という発想。

ふたつ目:接待の翌朝は、出社前にオフィスビルのコンビニでサバ缶1つと千切りキャベツを買って、自分のデスクで食べる。

自宅で用意するのは諦めた。出社ルートに組み込めば、意志の力はいらない。

締めカットはすでにできているので、新しいルールはこの2つだけ。
「シンプルすぎませんか」とAさんは言ったが、半年やってみましょう、と伝えた。


半年後、数値は全部動いた

半年後の外来。

- 中性脂肪 149 → 98 mg/dL
- BMI 28 → 26.5
- ALT 52 → 34 U/L
- LDL 158 → 138 mg/dL
- HbA1c 5.9 → 5.7%
- 体重 83kg → 79kg

数値は全部、予想以上に動いていた。
「全然ダイエットしてないんですけどね、先生。」とAさんは笑っていた。
接待の頻度は、この半年で一度も減っていない。


でも、きれいな直線ではなかった

全部スムーズに下がったわけじゃない。

海外出張が2週間続いた月、中性脂肪が130台まで戻った。
決算前で会食が増えた月、体重が一瞬82kgに戻った。

でも、出張や繁忙期が終われば、また下がった。
「席前ヨーグルト」と「翌朝サバ缶」が、いわば"戻るポイント"として機能していた。

完璧な直線じゃない。波があって、平均すると下がっている、という形だ。

「2つだけだから、戻すのも簡単だったんですよ。ルールが10個あったら、たぶん全部やめてました」


この半年で自分が学び直したこと

1つ目:プロトコルは現場で壊れる。

自分が最初に渡した3つは、医学的にはどれも正しかった。でも、Aさんの現場では1つしか実行できなかった。残り2つは、机上では正解で、現場では無理なルールだった。

「正しいこと」と「続くこと」は別の議論だ。パーソナルドクターの仕事は、正しい知識を並べることじゃなくて、その人の現場で回る形に翻訳することだと思った。

2つ目:ルールは「店の中」から「店の外」へずらせる。

最初の一皿を店の中で守る、というルールは、接待という場の構造と噛み合わない。だったら、ルールの発動タイミングを、場の外側にずらせばいい。席に着く前、帰り道、翌朝のコンビニ。接待の席そのものには、ルールを置かない。

これは経営者だけじゃなく、付き合い飲みが多い友人にも応用が効く気がしている。

3つ目:足し算ではなく、引き算で考える。

「3つだけ」で始めて、実行できたのは「1つだけ」だった。
「2つだけ」にして、「2つとも」実行できた。

ルールを増やせば増やすほど、実行率は下がる。
3つを完璧に目指すより、2つを確実に回した方が、半年後の数値は大きく動く。

健康の話になると、人はだいたい何かを"足そう"とする。サプリを増やす、運動を加える、検査項目を増やす。リストはどんどん長くなる。でも、足したものを続けられなければ、結局ゼロに戻る。

自分は逆を選んでいる。何を足すかではなく、何を引くか。続かない3つを2つに、2つを1つに。それでも数値は動く。むしろ動く。

これは17年かけて自分が行き着いた"引き算の健康"そのものだ。


Aさんに渡した2つを、手順まで書く

席前ヨーグルト+ゆで卵(接待の直前)

タイミング:接待の開始30〜45分前
場所:お店の近くのコンビニかカフェで完結させる(自宅からは持ち歩かない)

何を選ぶか
- 無糖ヨーグルト 1個(100〜150g):プレーンタイプを選ぶ。加糖タイプ・フルーツソース入り・ハチミツ付きのフレーバータイプは添加糖が7〜10g前後入っているので避ける
- ゆで卵 1個:コンビニのゆで卵コーナーで、塩味・半熟・味付きなど好みのもの

なぜ効くか
たんぱく質と脂質が先に胃に入ると、胃の排出速度が遅くなる。その後に炭水化物が入っても、血糖スパイクがゆるやかになる。複数の小規模RCTで、たんぱく質を先に食べる(プロテインプリロード)と、食後血糖のピークが20〜30%下がる報告がある(Ma 2009 Diabetes Careなど)。
食べる順番でいうと、野菜とたんぱく質を先にして、炭水化物を最後にする「カーボラスト」が、2型糖尿病で食後血糖のピークを30〜37%下げるという研究もある(Shukla 2015 Diabetes Care)。

もうひとつ、効く理由としてプロテイン・レバレッジがある。たんぱく質を先に入れると食欲そのものが落ち着く現象で、接待の席での食べすぎ予防にもなる(詳細はプロテイン・レバレッジ仮説に書いた)。

量は軽めでOK。目的は「胃に何か入れておく」ことで、満腹にすることではない。

NGパターン
- 席前バナナ → 果糖が先に入るので逆効果
- 席前プロテインバー → 多くの製品で糖質が15g以上入っている


翌朝サバ缶+千切りキャベツ(接待翌朝)

タイミング:接待翌朝、起床後1〜2時間以内
場所:出社ルート上のコンビニで買って、オフィスのデスクで食べる(自宅で作らない)

何を選ぶか
- サバ水煮缶 1缶(190g程度):水煮を必ず選ぶ。味噌煮・醤油煮は砂糖・みりんが入っているので避ける
- 千切りキャベツ:コンビニのカット野菜パック(150〜200g)

なぜ水煮なのか
- 味噌煮・醤油煮は糖質・塩分が上乗せされる
- 水煮1缶(190g)でEPA+DHAが合計約4,000〜5,000mg取れる(マサバ水煮缶の標準値で約4,200mg、原料魚種・脂のりにより幅あり)。中性脂肪を下げる方向のエビデンスがある量を1食で大きく上回る

味付け:レモン・ポン酢・わさび・しょうがで軽く。マヨネーズは、現代の食事でただでさえn-6脂肪酸が過多になりやすい中で、さらに上乗せになるので避ける。

NGパターン
- 翌朝プロテインシェイク → たんぱく質しか入っておらず、食物繊維とEPA/DHAが足りない
- 翌朝おにぎり+味噌汁 → 炭水化物が先に入る。リカバリー目的には逆向き


Aさんに関する話はここまで。実はこのプロトコル、Aさん以外にも、経営者1人と、自分の友人1人に試した。

そのうち1人(50代の商社勤めの友人)は、3ヶ月経っても数値が動かなかった。
60代の創業社長には、食事介入だけでは足りなくて、別のものを足す必要があった。

ここから先は、2人それぞれのケース、接待翌日の血液検査で見る3つの数値、接待頻度別の強度調整を出す。

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