Dr.もさりラボQ&A 第1回
メンバーシップを始めて、さっそく質問箱に質問をいただきましたので回答しました。 メンバーは質問箱で質問ができます。週1で自分がピックアップして回答します。(質問が多い場合は次回に回るかもしれません) 今回は初回なので、無料で公開しますね。
※本記事の内容は一般的な医学情報に基づくものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言ではありません。質問者の情報のみに基づく推論を含んでおり、実際の診断には対面での問診・検査が必要です。健康上の判断は、必ずかかりつけ医にご相談ください。
Q1:日常に筋トレを組み込む方法(階段以外で)
もさり先生、いつもありがとうございます!本格的なトレーニングの他に、日常に筋トレを組み込むのにおすすめの方法があったらご教授頂きたいです!早歩きやエレベーター系禁止2段飛ばし縛り等でだいぶ足は鍛えられているのですが、他の部位にも効かせられるようなものがあればいいなぁと日々考えております!何卒宜しくお願い致します!
ご質問ありがとうございます。階段2段飛ばしを習慣にしている時点で、かなり意識が高いですね。
上半身・体幹を日常に溶け込ませて鍛えるなら、自分がおすすめしたいのは「Grease the Groove(GtG)」という考え方です。直訳すると「溝に油を差す」。神経回路という"溝"を、繰り返し動かして滑らかにしていく、という意味です。元はロシアのトレーナーPavel Tsatsoulineが広めた概念で、要は「一度に限界まで追い込まず、1日の中に刺激を散らして鍛えていく」方法です。

普通は「週に1〜2回、まとめて追い込む」のが筋トレの常識ですよね。GtGはその逆をいきます。
たとえば、1度に3セットやるのではなく、朝食後、昼食後、仕事の休憩、夕食後など時間を散らして1セットずつやります。1日トータル5〜6セットくらい。各セットでかなり負荷はかけるけど、毎回限界まではやらない。これを毎日繰り返します。
具体的な種目と、なぜそれを選ぶかを説明します。
☑︎ 腕立て伏せ(プッシュ系)
大胸筋・三角筋・上腕三頭筋・体幹に入ります。壁に手をついてやる壁腕立てから始めて、壁→膝つき→床、と角度を変えれば負荷は段階的に上がりますので誰でもできます。
自重で余裕が出てきたら「降ろすのを4秒、上げるのを1秒」のテンポでやってみてください。エキセントリック過負荷といって、ゆっくり降ろすフェーズで筋肉への刺激が跳ね上がります。降ろすときは少数の筋線維で支えるので、1本ごとの機械的ストレスが増える。この刺激が筋肥大のシグナル経路を活性化し、筋タンパク合成につながると考えられています。トレーニング歴が長い自分でもかなりきついです。普通の腕立て伏せなら40回以上できますが、このやり方だと10回でかなりパンパンになります。さらに慣れてきたら、後述のバンドを使って負荷を強くしましょう。
回数やセット数は自分の体力に合わせてください。大事なのは限界まではやらず、余力を残して終わること。自分の場合はバンドで負荷をかけて1セット8〜10回を1日5〜6セットくらいやっています。
☑︎ バンド(チューブ)での背中トレ(プル系)
日常動作で意外と鍛えにくいのが背中です。胸はプッシュ系で入りますが、プル系の動きって日常にほとんどない。ドアノブにゴムチューブを引っ掛けてローイング動作をやると、広背筋・僧帽筋・菱形筋に入ります。バンドの特性として、伸ばすほど負荷が上がる「漸増負荷」になるので、収縮ポジション(引ききったところ)で最も強い刺激が入ります。これはフリーウェイトとは違う刺激パターンで、ジムでのトレーニングとの補完関係にもなります。バンドはかさばらないので、自宅でもオフィスでもできます。バンド1本あれば上半身も下半身もカバーできるので、とても便利です。自分は以下のバンドを使っています(アフィリエイトではありません)。
ちなみにバンドは本当に最高に便利です (二回目)。
昔はよく病院の24時間当直をしていたのですが、このバンドを持ち込んで隙間時間でひたすらトレーニングをしていました。翌日は本当に全身バキバキになるまで鍛えることができます。普段はベンチ140kg スクワット180kg ワンハンドローイングは50kgでやっている自分ですが、バンドで負荷を調節すると自分でもきついくらいです。腕立てだけでなくスクワットにも使えます。足で踏んで肩にかければ、立ち上がるときにバンドの張力が加わって、自重スクワットの負荷を手軽に上げられます。
☑︎ なぜプッシュとプルをセットにするか
デスクワークが多い人は、胸の筋肉(大胸筋)が縮んで肩が前に巻き込まれる「巻き肩」になりやすい。胸だけ鍛えると巻き肩がさらに悪化します。背中側の僧帽筋中部・菱形筋を同時に鍛えることで、肩甲骨が正しいポジションに戻り、姿勢が改善する。見た目の問題だけでなく、肩のインピンジメント(挟み込み)を予防する意味でも、プッシュとプルのバランスは大切です。
自分も実際にやっています。 診察の合間や昼休憩に、バンドで負荷を足した腕立て伏せを降ろし4秒・上げ1秒で限界の少し手前までやって、そのまま強めのバンドでバンドローを左右。これで胸と背中に一通り入ります。数分で終わるので、仕事のリズムも崩れない。
ここからは、なぜこの「ちょこちょこ」が効くのか、メカニズムの話です。
筋力が上がるプロセスには大きく2つあって、1つは筋肉そのものが太くなる「筋肥大」、もう1つは脳から筋肉への指令が効率よくなる「神経適応」です。GtGは後者に特に強い。限界まで追い込まない代わりに、同じ動作を1日に何度も繰り返すことで、脳→脊髄→運動神経→筋線維という回路が太くなる。ピアノの練習と同じで、正しいフォームで何度も繰り返すほど、体がその動きを覚えます。
Edith Cowan大学の研究が面白くて、1日6回のエキセントリック収縮を週5日続けた群と、週1回30回まとめてやった群を比べたところ、毎日やった群だけが筋力(遠心性筋力+13.5%)と筋肉の厚み(+10.4%)の両方で有意に向上しました。週1回群は筋厚こそ+8.0%だったものの、筋力は変わらなかった。
なぜこうなるかというと、筋タンパク質合成にはタイムリミットがあるからです。1回のトレーニング刺激で筋タンパク合成が上がるのはだいたい24〜48時間。週1回だと残り5日間は合成が基礎レベルに戻っている。毎日少しずつやれば、合成が常に少し上がった状態をキープできます。つまり頻度を上げることで、筋肉が「作られている時間」の総量が増える。
しかも、最大筋力の2/3程度の力で十分という後続の研究もあります。全力を出す必要がないので、日常のスキマに入れやすい。
「追い込まないで本当に効くの?」と思うかもしれません。実はGtGで起きている神経適応は、限界まで追い込んだトレーニングとは質が違います。疲労が少ない状態でフォームが正確に保たれるため、運動単位の発火パターンが最適化されやすい。疲労困憊だと代償動作(別の筋肉で補う動き)が増えて、狙った筋肉への信号が散ってしまう。フレッシュな状態で繰り返すからこそ、正しい回路が強化されるわけです。
階段で下半身、腕立てで胸と腕、バンドで背中。この3つを日常のスキマに入れるだけで、全身のバランスがかなり良くなりますよ。
Q2:腸活を頑張っているのに便が緩い人に共通する、見落とされがちな原因
腸活を頑張っている(朝納豆ご飯、味噌汁、善玉菌サプリ)のに便が緩い人に共通する、見落とされがちな原因はなんですか?お酒は週末だけ(量は多い)。
これ、外来でもかなり多い相談です。 発酵食品を毎日食べている。整腸剤も飲んでいる。よく噛んで、運動もして、睡眠も確保している。やるべきことを全部やっているのに便が緩い。
こういうケースで自分が真っ先に聞くのは、「お酒はどのくらい飲みますか?」です。
原因1:飲酒「週末だけ」でも腸は壊れる
腸活を頑張っている人でも、お酒はそこそこ飲んでいるケースが多い。「平日は飲まないから大丈夫」と思っている。ここが最大の落とし穴です。
腸の内壁には、細胞同士がジッパーのように噛み合った「バリア」があります。このバリアが、腸の中にいる細菌や毒素が血液に入り込むのを防いでいる。
ところがアルコールの代謝産物(アセトアルデヒド)は、このジッパーを構成するタンパク質を本来の位置からずらしてしまう。ジッパーが壊れるというよりも、ずれて隙間ができるイメージです。隙間から細菌の成分が血液に漏れ出します。

Bala et al.(2014)の研究では、健常者25名にある程度の量を飲ませたところ、たった1回の大量飲酒で血液中に細菌の成分と細菌DNAが急上昇しました。
マウスの実験ですが、2025年のHarvard/Beth Israel Deaconessの研究(Minchenberg et al.)では、大量飲酒1回で小腸の表面にある「絨毛」(栄養を吸収する突起)が短くなり、炎症反応が急激に起きることが確認されています。絨毛の構造は24時間後に部分的に回復し始めましたが、炎症反応はそれ以降も持続していた。ヒトの腸の細胞を使った実験でも一部確認されていますが、ヒトでの完全な再現はこれからです。
さらに厄介なのが、慢性的な大量飲酒による腸へのダメージは、お酒をやめた後も長期にわたって持続するという動物実験の報告です(Fonseca-Pereira et al., 2024)。しかもこの腸の脆弱性は、糞便移植で別の個体にも伝達可能だった。つまりアルコールが腸内細菌の顔ぶれそのものを変えてしまい、その変わった菌たちが腸のバリアを弱くし続けるという悪循環です。
では「週末だけ飲む」パターンだとどうなるか。飲酒をやめた後、腸のバリアがどのくらいで回復するかは個人差がありますが、動物実験の知見を総合すると、数日〜2週間程度は脆弱な状態が続く可能性が示唆されています(直接検証したヒトの臨床試験はまだ限られています)。
この回復スピードを踏まえると、毎週末の飲酒量が多いと腸が十分に回復しきらないまま次のダメージが入る可能性があります。直接検証した臨床試験はないものの、平日の腸活の効果が部分的に相殺されている可能性があると思います。
そしてここが見落とされがちなんですが、アルコールによる腸のダメージは「便が緩くなる」だけにとどまりません。
☑︎ 膵臓の消化酵素不足(膵外分泌機能不全):大量飲酒は膵臓にもダメージを与えます。膵臓から出る消化酵素が足りなくなると、食べ物が十分に消化されず、未消化の脂肪が便に混じって軟便になる。下痢型の過敏性腸症候群と診断された患者の約4.6%にこの問題が見つかったという報告もあります。
☑︎ 小腸の細菌異常増殖(SIBO):アルコールは小腸の運動機能も低下させるので、本来は菌が少ないはずの小腸に細菌が過剰に増えてしまうことがあります。過敏性腸症候群の患者の13〜49%に認められるとされています。この状態があると、整腸剤(乳酸菌・ビフィズス菌製剤)がかえって逆効果になる可能性もある。
つまり、飲酒は腸のバリア破壊だけでなく、膵臓の機能低下や小腸の細菌異常増殖まで連鎖的に引き起こしうる。「週末だけだから大丈夫」というのは、少なくとも腸の観点からは当てはまらないようです。
原因2:発酵食品の「FODMAP」負荷
ここで聞き慣れない言葉が出てきますが、大事なので少し説明させてください。FODMAP(フォドマップ)というのは、小腸で吸収されにくい糖類の総称です。要は「腸内細菌にエサとして一気に発酵されやすい糖」のこと。
なぜこれが問題になるかというと、腸に良いとされる発酵食品そのものが、このFODMAPを含んでいることがあるんです。
納豆には大豆由来の糖類(ガラクトオリゴ糖)が含まれています。Monash大学のデータではタレなし40g、タレ付き45g程度までは問題ないとされますが、量が増えるとFODMAP負荷が上がる。味噌はMonash大学のデータで12gがLow FODMAPの基準ですが、Moderate(黄)に移行するのは約70gなので、味噌汁1杯(味噌18g程度)は大多数の人にとって問題ないレベルです。

ただ知っておいてほしいのが「FODMAPスタッキング」という概念。同じ食事で同じ種類のFODMAPを含む食品を複数食べると、単品では問題なくても合計で負荷が上がることがあります。納豆+味噌汁の組み合わせは、ほとんどの人には問題ありませんが、過敏性腸症候群の傾向がある人では症状につながるケースもある。Monash大学自身は「多くの人はスタッキングを心配する必要はない」としていますが、FODMAPを減らす食事法で改善する人は複数の研究で50〜80%と報告されています。原因1の飲酒でダメージを受けた腸は感度が上がっている可能性があるので、普段は平気な量のFODMAPでも症状が出る、ということも考えられます。
原因3:飲酒とは無関係に見逃されやすい器質的原因
お酒を飲まない人でも慢性的な軟便が続く場合、以下の原因も考慮すべきです。
☑︎ 甲状腺機能亢進症:甲状腺ホルモンが過剰になると腸の蠕動運動が亢進して、軟便〜下痢になります。動悸、体重減少、手の震えなどを伴うことが多い。血液検査で簡単にわかるのに、「腸の問題」だと思い込んで見逃されがちです
☑︎ 潰瘍性大腸炎:大腸の粘膜に慢性的な炎症が起きる疾患です。軟便に加えて血便や粘液便があれば疑いが強まりますが、軽症では「ちょっと便が緩い」程度のこともある。日本では患者数が増加傾向で、30代〜40代の発症も多い。大腸内視鏡で診断します
心当たりがある場合の一般的なアプローチ
☑︎ 飲酒習慣がある場合、まず2〜3週間やめてみて便の形状が変わるかを観察する。これが一番インパクトが大きいです。Bristol便形状スケール(ネットで画像が出ます)でType 4(表面滑らかなバナナ状)が理想
☑︎ 禁酒で改善しない場合は、発酵食品を2週間減らしてみる(低FODMAP食の簡易版)。代わりにテンペや乳糖除去ヨーグルトなど、低FODMAPの発酵食品に切り替える。Monash大学のFODMAPアプリが食品検索に便利です
☑︎ 整腸剤に含まれる乳酸菌・ビフィズス菌が排便頻度を増やす方向に働くデータもあるので、上記を試す期間は一旦やめて変数を減らすのが近道
☑︎ 改善しない場合は、消化器内科で基本的な検査を。
甲状腺機能、潰瘍性大腸炎の可能性あたりは確認しておきたいですね。
ちなみに「慢性の軟便」で一番多い診断はIBS(過敏性腸症候群)です。日本での有病率は約13%とかなり高い。ただしIBSは「除外診断」で、上に挙げた器質的原因を全部調べて異常がなかった場合に初めてつく診断です。逆に言うと、原因1〜3を検査せずに「IBSですね」と言われた場合は、本当にIBSなのかを一度疑ってもいいかもしれません。
Q3:腸内細菌の観点から「これだけは摂るべきサプリ」
もさり先生、いつも有益な情報ありがとうございます! 楽しく学ばせていただいています。 先生の記事を拝見して、腸内細菌の観点からは、複数の食材から栄養を摂ることが大切なのかなと感じました。 そこで質問なのですが、食事からの摂取が難しい場合や不足しがちな場合に、"これだけは補った方がいい"というサプリがあれば教えていただきたいです!
ありがとうございます。「複数の食材から栄養を摂ることが大切」、まさにその通りです。
サプリの優先順位を話す前に、なぜ「複数の種類」がそんなに大事なのか、メカニズムを少し深掘りさせてください。
腸内細菌は、種類によって「食べられるエサ」が違います。ビフィズス菌はイヌリンやフラクトオリゴ糖が大好物ですが、酪酸を作ってくれるFaecalibacteriumやRoseburiaはサイリウム(オオバコ)の方を好む。全粒穀物のアラビノキシランは、また別の菌群を増やします。22種類の食物繊維を比較した研究でも、繊維の種類ごとに増える菌のプロファイルが全然違うことが示されています。
ここで大事なのが「クロスフィーディング」という現象です。菌Aがエサを食べて短鎖脂肪酸を出す。その短鎖脂肪酸を菌Bがエサにして、また別の代謝物を出す。こうやって菌同士がリレーのように代謝物を受け渡して、腸内環境全体が安定する。特定の繊維だけを大量に摂ると、その繊維を好む菌だけが異常増殖して、多様性がかえって下がることがあります。Stanford大学のSnyder研究室が報告しているように、イヌリンを1日30gと高用量で摂ると炎症マーカーがスパイクしたケースもある。5〜15g/日が安全圏です。
では優先順位を整理します。

第1位:食物繊維(プレバイオティクス)、しかも複数の種類
腸内細菌にとって食物繊維は「エサ」です。食事で野菜・豆・海藻・きのこ・全粒穀物と、いろんな繊維源を摂れていればベスト。ただ「毎日そんなに種類を食べられない」というのが現実だと思います。
サプリで補う場合のおすすめは、イヌリン(5〜10g/日)+サイリウム(5g/日)の2種類の組み合わせです。イヌリンは急に増やすとお腹が張るので、最初は3g/日くらいから始めて2週間かけて増やしてください。サイリウムは便を適度に固める方向にも働くので、便が緩い人にも向いています。
繊維系のサプリが一番強い理由は単純で、腸内細菌が食物繊維を発酵して作る「短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸)」が、腸のバリア機能強化、制御性T細胞の分化促進(免疫の暴走を防ぐ)、腸管上皮細胞のエネルギー源として直接使われるからです。腸の健康を支える物質の供給源として、食物繊維に勝るサプリは今のところありません。
第2位:ビタミンD(不足している人限定)
ビタミンDは腸の免疫に深く関わっています。腸管上皮細胞にはビタミンD受容体が高密度に発現しており、この受容体が活性化すると抗菌ペプチド(体が自前で作る抗菌物質)の分泌が増えて、病原菌の侵入を防ぐ一方で共生菌には影響しない。この選択的な防御が腸内細菌の多様性を安定させるメカニズムの一つです。
ビタミンDが欠乏している女性80名に12週間補充した研究では、AkkermansiaやBifidobacteriumが増え、腸内細菌のα多様性・β多様性が有意に改善しました。567名の高齢男性コホートでは、活性型ビタミンDの血中濃度が腸内細菌の多様性やバランスと有意に相関し、その寄与は年齢や地域などの他の因子よりも大きかった。
ただし、もともと充足している人に追加しても効果は限定的です。5年間月60,000IUを投与した大規模介入試験(D-Health Trial)では有意な効果なし。まず血液検査で25(OH)Dを測って、30ng/mL未満なら1,000〜4,000IU/日で補充する、というのが合理的です。日本人は不足している人が多いので、該当する方は多いと思います。
第3位:オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)
876名の女性コホートでオメガ3の血中濃度と腸内多様性の相関が報告されています。メカニズムとしては、オメガ3が腸管上皮の受容体に結合して炎症シグナルを抑制し、腸の慢性炎症を軽減する。炎症が下がると、炎症に弱い嫌気性菌(多様性に寄与する菌群)が生存しやすくなるという間接的な経路です。
ただ介入試験では多様性そのものよりも、Bifidobacteriumなど特定の菌を増やす方向の効果でした。魚を週2〜3回食べていれば食事で十分ですが、魚を食べない方はサプリで500mg〜2g/日のEPA+DHAを検討してもいいと思います。
「あれ?プロバイオティクスは?」という疑問が出ると思います。2026年のBMC Medicine誌のメタアナリシス(47研究、うち22研究1,068名でメタ解析)では、健康な成人におけるプロバイオティクス摂取で腸内細菌の多様性は有意に改善しなかったと報告されています。
なぜかというと、外から入れた菌は既存の腸内細菌叢との競合に負けて定着しにくいからです。プロバイオティクスの効果は、菌が腸を「通過」する際に代謝物を出すことによる一過性のものが多い。一方、プレバイオティクスは「すでに住んでいる菌」のエサになるので、定着済みの菌を増やせます。畑に種を蒔くより、すでに生えている作物に肥料をやるほうが確実、というイメージです。ただし、高齢者(60歳以上)では29件の介入試験で腸内細菌の多様性の有意な改善が出ているので、年齢による使い分けも重要です。
もう一つ補足しておきたいのが別の記事でも書いた「単一菌株に賭けない」という話です。2026年にScience誌に掲載された研究で、腸内細菌が互いに競争している状態のほうが健康で、特定の菌群が仲良く協力し合っている状態のほうがむしろ病気と関連していた、という報告が出ました。論文の共著者はこれを「マフィア」に例えています。少数の菌が連携して腸内の利権を握り、他の菌を締め出してしまう構造です。「この乳酸菌がいい」と言われて1種類だけ大量に入れると、その菌を中心にした閉じたネットワークが形成されるリスクがある。プロバイオティクスが悪いという話ではなくて、「1種類だけに賭けない」ほうが生態系としては安全です。これは食物繊維でも同じで、1つ目で話した「種類を増やす」というのは、まさにいろんな菌がそれぞれのエサをめぐって健全に競争できる環境を作ることにつながります。
まとめると、食物繊維の「種類を増やす」のが最優先。そのうえでビタミンD不足の是正、魚が足りなければオメガ3、という順番です。
Q4:長時間サイクリング+スプリントは筋トレの代替になるか
もさり先生、こんにちは。 例題としても挙げられている、筋トレと有酸素についてお伺いしたいです。 先生の投稿でも筋トレをおすすめされているのは拝見しているのですが、「筋トレ≒筋収縮が必要」と読み替えております(間違っていたら申し訳ございません)。 「筋収縮が必要」という点であれば、有酸素運動中のショートインターバルでも代用可能という認識で良いのでしょうか。 例を挙げますと「6~7時間のサイクリング中に、短い登り坂で複数回、全力で漕ぐ(HIIT?)」となります。 または有酸素運動(Z2~Z3程度)でも、数時間単位で運動するのであれば十分な筋収縮を稼げるため、HIIT区間は不要でしょうか。 本来であれば筋トレも行った方が良いとは思うのですが… よろしければご回答いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
とても良い質問ですね。6〜7時間のサイクリングをこなせる方なので、持久力は相当高いと思います。
率直に言います。サイクリング+スプリントは、筋トレの代替にはなりません。
「筋収縮さえあれば筋トレの代わりになるのでは」という発想は自然ですが、ここを分子レベルで見ると全く違う景色が見えてきます。少し突っ込んで説明させてください。
筋肉の中で起きている「2つの合成」
筋肉には大きく2種類のタンパク質合成経路があります。1つは「筋原線維タンパク質合成」。これはアクチンやミオシンといった収縮装置を作る経路で、筋肥大に直結します。もう1つは「ミトコンドリアタンパク質合成」。これはエネルギー工場であるミトコンドリアを増やす経路で、持久力向上に直結します。
筋トレ(レジスタンス運動)は前者を強く刺激し、サイクリングのような持久運動は後者を主に刺激します。同じ「筋肉に効いている感じ」でも、体の中で作られているものが違う。坂でのスプリントも、主にミトコンドリア系の合成を促進する刺激です。
「筋肥大スイッチ」vs「省エネスイッチ」:分子レベルの綱引き
筋肥大のマスタースイッチはmTORという酵素です。筋トレによる機械的ストレスやアミノ酸の供給がmTORを活性化し、筋原線維タンパク質の合成が加速します。
一方、持久運動で優位になるのがAMPK。これは細胞内のエネルギー状態を監視する酵素で、ATPが枯渇すると活性化します。6〜7時間のZ2〜Z3ライドはグリコーゲンをほぼ完全に枯渇させるので、AMPKが強く活性化されます。

ここが核心なんですが、AMPKは間接的にmTORのスイッチをオフにします。つまりAMPKが強く活性化している間は、筋肥大のスイッチが実質的にオフになっている。長時間の持久運動は筋肉を「作る」どころか「分解する」方向に環境を傾けます。6〜7時間のライドとなると、この「筋肉を分解する方向」の状態がかなり長時間続くことになります。
メタアナリシスのデータでは、筋肥大の効果量は筋トレ単独1.23に対して、持久運動単独0.27。ざっくり5倍の差があります。
なぜHIITスプリントでも代替にならないか
「Z2〜Z3は筋肥大に向かないとして、坂での全力スプリントなら筋トレに近い刺激になるのでは?」という疑問もあると思います。確かにスプリントではTypeII線維(速筋線維)がある程度動員されます。ただ問題は、スプリントで動員されるのは主に速筋のうち持久寄りのタイプ(TypeIIa)であって、最も筋肥大に寄与する純粋な速筋(TypeIIx)の動員は限定的だということ。そしてペダリングという反復動作では、機械的張力(メカニカルテンション)がレジスタンス運動と比べて圧倒的に低い。筋肥大の主要なトリガーは機械的張力であり、代謝ストレス(乳酸が溜まるキツさ)だけでは筋原線維の合成を十分に上げにくい。血流制限トレーニングのように代謝ストレスで肥大を起こす方法もありますが、それは特殊な条件下の話です。
もう一つ、6〜7時間ライドの中でスプリントを入れるタイミングも問題です。すでに数時間走ってグリコーゲンが減っている状態では、AMPKが活性化しています。その状態でスプリントを入れても、mTORの活性化がAMPKに打ち消されてしまう。仮にスプリントが筋肥大刺激を持っていたとしても、文脈が悪すぎます。
サイクリングで肥大するのは一部の筋肉だけ
範囲の問題もあります。高齢男性6名の12週間自転車トレーニング後に17の下肢筋をMRIで調べた研究では、肥大したのは大腿四頭筋群(外側広筋・中間広筋・内側広筋の複合体: +7%)と縫工筋(+6%)のみ。大腿直筋、ハムストリングス、内転筋群、ふくらはぎの7筋すべてに変化なしでした。上半身と体幹は言うまでもなく刺激ゼロです。
中年サイクリスト28名の3D MRI研究では、大殿筋と中殿筋は非活動者より有意に大きく、筋内脂肪浸潤も低かった(大殿筋: 14.8% vs 21.6%)。サイクリングには下肢の筋量を「保持」する効果はあります。ただ、これは「何もしない人よりマシ」であって「筋トレの代わり」ではない。
見落としがちな骨密度の問題
サイクリングは非荷重運動なので骨密度を維持しません。マスターサイクリストの大腿骨頸部骨密度が有意に低いという報告があります。骨は荷重がかかることで「もっと強くなれ」というシグナルを出して自分を補強する仕組みがあるんですが、サイクリングではこのシグナルが入らない。これは筋トレ(荷重運動)でしか補えません。長時間サイクリングを続ける方にとって、筋トレは将来の骨折予防という意味でも重要です。
具体的な提案
アメリカスポーツ医学会(ACSM)もアメリカストレングス&コンディショニング協会(NSCA)も、全成人に「全主要筋群のレジスタンス運動を最低週2日」を推奨しています。自分の提案は、サイクリングを減らすのではなく、週2回×30〜40分の筋トレを追加すること。
プロトコル例としては、スクワット or レッグプレス、ベンチプレス or 腕立て伏せ、ラットプルダウン or 懸垂。各種目2〜3セット、8〜12回。これくらいあっさりでいいと思います。ライドの日と筋トレの日は分けるのが理想ですが、同日なら筋トレを先にやると「筋肥大スイッチ」が先に入るので、有酸素の干渉が減ります。少なくとも3時間は間を空けたいです。
ライドのパフォーマンスにもプラスに働きますし、将来のサルコペニア・骨粗鬆症の予防にもなります。
Q5:登山中の体に優しいエネルギー補給
もさり先生はじめまして!いつも最強でワクワクする情報をありがとうございます!お陰様で毎日に活気が戻りました。 一つお伺いでございます。 趣味で登山をしています。登山中にエネルギーチャージをしますが、コンパクト且つ即効性のあるパワージェルなど塩分糖質等かなり摂取しています。行程によっては1500-2000kcal必要な場合もあります。 身体に優しいチャージ食などヒントあれば教えていただきたくお願いいたします!
いつもありがとうございます。1500〜2000kcalを行動中に摂るとなると、補給戦略が登山の快適さを大きく左右しますよね。
まず安心してほしいのは、登山の運動強度(最大酸素摂取量の40〜60%程度)では、胃の排出速度がむしろ安静時より速いということです。胃排出が遅れ始めるのは最大酸素摂取量の75%以上。つまり登山では固形食がちゃんと消化される。マラソンやロードレースとは事情が全然違います。
なぜジェルで胃腸トラブルが起きるのか
ジェルの問題点は「浸透圧」です。少し専門的な話をすると、腸管は浸透圧の差で水分を移動させます。ジェルは糖質が高濃度に凝縮されているので浸透圧が高く、腸管内腔に水分を引き込む。これが腹部膨満感や下痢の原因です。
トライアスリートを対象にした研究では、ジェル使用者の9人中7人が消化器系の不快感を訴えたのに対し、液体糖質(適切な濃度に薄めたもの)では0人でした。高強度の競技スポーツではジェルの「素早い吸収」が必要な場面もありますが、登山のような中低強度ではそのメリットが薄れ、胃腸トラブルのデメリットだけが残ります。

マルチトランスポータブルカーボハイドレート:ジェルの原理を自然食品で
ジェルの中身は実は「ブドウ糖+果糖の2糖ミックス」という設計になっています。なぜかというと、ブドウ糖の腸管吸収には専用の吸収口(SGLT1)が使われるんですが、これには酸化速度の上限があり、ブドウ糖単独では約60g/時程度が限界です。ここに果糖を加えると、果糖は別の吸収口(GLUT5)で吸収されるので、2本のレーンを同時に使えて、糖質の利用速度が約55%上がる(0.8g/分→1.26g/分)。飽和しないから未消化の糖質が腸管に溜まらず、胃腸トラブルも減る。
この原理、自然食品でも完全に再現できます。
☑︎ おにぎり(ブドウ糖源)+デーツ(ブドウ糖+果糖+ショ糖の天然ミックス)を交互に食べる。おにぎりのデンプンは消化されてブドウ糖になり、デーツは果糖とブドウ糖を含む天然のマルチトランスポータブル食品です。これだけで2つの吸収経路を同時に使えます
自分も昔トレイルランニングにハマっていた時期があるんですが、おにぎりとデーツの組み合わせは体感がすごく良かったです。塩味→甘味の切り替えで味の飽きが来ないし、ジェルのような胃の重さもなかった。
☑︎ 干し芋は100gで約300kcal、糖質65〜70g。デンプン+天然糖の混合で、寒冷環境でも食べやすく、日本の伝統的な行動食として実績があります。
☑︎ ナッツ類を2時間目以降から追加。登山の中盤以降は体脂肪の動員が活発になります。運動生理学では、中程度の強度で運動時間が長くなるほど体脂肪の動員比率が高まることが知られています。後半は糖質だけでなく脂質源も入れたほうが体の燃料選択に合う。ナッツは100gで550〜650kcalとエネルギー密度が圧倒的に高く、登山のザック容量を考えるとコスパが良い。ただし、少し消化負担がかかるので、ここは個人差があるかもしれません。
☑︎ 味噌汁を魔法瓶で持っていくと、水分・電解質(ナトリウム)・体温維持を一度にカバーできます。高度が上がると低酸素で基質利用が糖質優位にシフトし、寒冷環境では体温維持のための糖質動員も増えます。温かい飲料は胃の血流を維持して消化機能を助ける効果もあります
高度と電解質の話
標高が上がると、もう一つ注意したいのが電解質です。低酸素環境では呼吸が速くなり(過換気)、呼気から水分が通常より多く失われます。しかも高所では口渇感が鈍るので、気づかないうちに脱水が進行する。ナトリウムの補給は意識的にやる必要があります。おにぎりの塩や味噌汁はナトリウム補給としても理にかなっている。中程度の強度・穏やかな環境では、汗で失われるナトリウムは1時間あたり約300〜700mg程度なので、梅干し入りおにぎり1個(ナトリウム約500mg)でほぼカバーできます。
それから、標高2,500m以上では低酸素の影響で胃排出が遅延し、嘔気も増すことが報告されています。高山では「1回の量を減らして頻度を上げる」のが鉄則で、平地で食べていた量のおにぎりを半分に割って倍の頻度で食べる、くらいの感覚が良いです。
補給の具体的プロトコル(8時間行動・1800kcal目標の例)
アメリカスポーツ医学会など主要3団体の共同声明では、1時間超の持久運動で30〜60g/時の糖質補給を推奨しています。8時間行動で1800kcal目標なら、1時間あたり約225kcal(糖質50〜55g)。
☑︎ 出発30分以内に最初の補給を開始。空腹を感じてからでは遅い
☑︎ 前半(0〜3時間):おにぎり1個(180kcal)+デーツ2〜3粒(60kcal)を1時間ごと。塩味と甘味を交互にすると味の飽き(フレーバー疲労)を防げます
☑︎ 中盤(3〜6時間):おにぎり or 干し芋+ナッツ一掴み(30g≒200kcal)を追加。脂質源をちょっと増やす
☑︎ 後半(6〜8時間):消化が楽なデーツ・バナナ中心に切り替え。疲労で胃腸機能が落ちてくるので消化の良さを優先 ☑︎ 全体を通して水分は15〜30分ごとに150〜250mL。高度2,500m以上では口渇感が低下するので意識的に飲む。ここら辺はどれくらいガチでやっているかで調整をお願いします。
腸のトレーニングが決定的に重要
腸も「トレーニング」できます。練習中に本番と同じ補給食を使うと、わずか数日でブドウ糖の吸収口の密度が増加し、糖質の吸収能力が向上。胃腸トラブルも大幅に減少することが報告されています。
新しい行動食は必ず事前に山行や長時間ウォーキングで試してから本番に持っていくことをお勧めします。腸が慣れていない食品は、どんなに理論的に優れていても本番で胃腸トラブルの原因になります。
今回は初回なので全問無料で公開しました。次回からはメンバー限定です。
メンバーになると、掲示板で自分に直接質問できます。「筋トレのフォームが合ってるかわからない」「このサプリどう思いますか」みたいな話、大歓迎です。気になった方はお気軽にどうぞ!
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※具体的な症状が続く場合は、必ず医療機関を受診してください。
参考文献
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