クレアチンを飲んでも脳に届かない人がいる。腸の話をさせてほしい。
以前「クレアチンは脳のサプリだ」という記事を書いた。あれは間違っていなかった。ただ、大事なことを1つ見落としていた。
クレアチンを飲んでも、腸で吸収されなければ脳には届かない。
3月31日にCell Metabolism(代謝研究のトップジャーナル)に出た論文が、まさにこれを証明した。うつ病の患者さんの便にはクレアチンが余っていて、血液と脳では足りなかった。飲んだのに、素通りしていた。
クレアチン、腸で止まっていた
研究チームはうつ病患者と健常者の便・血液・髄液を網羅的に調べた(髄液41名、血液53名、便35名)。数百種類の代謝物を一気に測定する手法(メタボロミクス)を使っている。
で、出てきたパターンが面白かった。
うつ病の患者さんでは便中のクレアチンが高い。ところが血液と髄液のクレアチンは低い。便では余っているのに、血液と脳では足りない。
口から入ったクレアチンが、腸で吸収されずに素通りしている。
以前の記事で「脳もATP(脳や筋肉を動かすエネルギー通貨)で動いている」と書いた。クレアチンはそのATPを再生する燃料だ。
その燃料が、腸で止まっていた。

脳のエネルギー代謝がうつ病で落ちていることは以前から知られていた。ただ「そもそもエネルギーの原料が腸から届いていなかった」という切り口は新しい。
マウスのうつ病モデルでも同じパターンが再現された。ヒトとマウスで一致するということは、偶然ではなく生物学的に何か起きている可能性が高い。
腸内細菌がいないとクレアチンは効かない
研究チームはまず「クレアチンを外から入れたらうつに効くのか?」を確認した。マウスにクレアチンを1回飲ませるだけで、抗うつ効果が出た※1。
ところが、抗生物質で腸内細菌を一掃したマウスでは、この効果が消えた。

もっと決定的なのが糞便移植の実験だ。うつ病患者の便を移植されたマウスでは、クレアチンを飲んでも血中クレアチン濃度が上がりにくく、行動試験でも抗うつ効果が出なかった。健常者の便を移植されたマウスではちゃんと効いたのに。
クレアチンの効果は、腸内細菌がいてはじめて成立する。自分も以前のクレアチン記事でこの視点が抜けていた。
犯人はビフィズス菌の減少だった
48名の腸内細菌を網羅的に調べると、うつ病で最も減っていたのがビフィズス菌の一種(B. pseudolongum)だった。
このビフィズス菌をマウスの腸に定着させてからクレアチンを飲ませると、血中のクレアチン濃度が上がった。ビフィズス菌がいないマウスでは上がらなかった。
つまり、ビフィズス菌がクレアチンの吸収を助けている。

クレアチンを飲んでいるのに「効いてる気がしない」と思ったことはないだろうか。食物繊維は十分に摂っているか。超加工食品が食事の中心になっていないか。慢性的にストレスを感じていないか。ひとつでも心当たりがあるなら、せっかく飲んでいるクレアチンが吸収されていない可能性がある。
ただし、すでに腸内環境が崩れてしまっている人は、ビフィズス菌を足すだけでは間に合わない可能性がある。
ここから先では、すでに崩れた状態からどう立て直すか、ヒト臨床試験で使われた具体的なプロトコル、自分の腸が大丈夫かを判定する5項目のチェックリストを書いている。
特に、すでにうつ状態のマウスではクレアチン単独では効かなかったというデータがある。クレアチンを飲んでいる人全員に関係する話だ。
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