経営者に「徹夜前に飲んでください」と渡しているものがある。クレアチンの話をさせてほしい
※2026年6月28日アップデート
クレアチンは脳のサプリだ。
いきなり何を言っているんだと思うかもしれない。自分も2年前までそう思っていた。17年間クレアチンを飲み続けて、ずっと「筋肉のサプリ」だと信じていた人間が言っているのだから、説得力はあると思う。
きっかけは、ある40代の経営者に言われた一言だった。
「最近、徹夜明けの翌日が本当にきつい。頭が回らない。30代の頃はこんなことなかったのに」
この手の相談はパーソナルドクターをやっていると本当に多いのだけど、このときたまたま読んでいた論文が、クレアチンと脳の関係を扱ったものだった。
読み込んでいくうちに気づいた。
「これ、筋肉の話とまったく同じ仕組みじゃないか…?」
そこからクレアチンの見え方が完全に変わった。今回は、クレアチンが脳のエネルギー源として認知機能──とくに睡眠不足時のパフォーマンス回復にどう効くのか、2024〜2026年の最新論文をベースに書いてみる。
まずコーヒーの話をさせてほしい
順番としては脳のエネルギーの仕組みから説明すべきなんだけど、先にこっちを書く。こっちのほうが全員に刺さるから。
経営者を診ていて一番多いセリフが「コーヒー3杯飲んで乗り切ります」だ。
気持ちはわかる。自分もそうだった。でも、カフェインとクレアチンは仕組みが根本的に違う。
カフェインは 「マスキングテープ」。 クレアチンは 「電池の充電」。

カフェインがやっていることは、脳にたまった疲労物質(アデノシン)の受容体をブロックして「疲れていない」と錯覚させること。眠気は消える。でも脳のエネルギーは減ったまま。いわば エネルギーの前借り だ。
一方でクレアチンは、枯渇したATP(脳と筋肉の燃料)そのものを直接再生する。眠気を誤魔化すんじゃなく、実際に脳の処理能力を回復させる。
この違いをある経営者に説明したら、「それ、出張のたびに持っていきますわ」と即答だった。1ヶ月後に「時差ボケが明らかに軽くなった」と報告がきた。
これがクレアチンのおかげなのか、出張前の体調管理が良かっただけなのかは、本人にも自分にもわからない。n=1の体験談だ。でもこの後に紹介する研究を読むと、理屈としてはつじつまが合う。
ちなみにカフェインが悪いわけじゃない。使い方次第で薬にも毒にもなる。そのあたりは別で書いた。
→ カフェインは毒か薬か。医師が辿り着いたカフェインの最適解
脳もATPで動いている(クレアチンと脳のエネルギー代謝)
脳の重さは体重のたった2%。 なのに、全身のエネルギーの約20% を持っていく。
このエネルギーの正体がATP(アデノシン三リン酸)で、筋肉を動かすのも脳で思考するのもまったく同じ燃料を使っている。

筋肉にクレアチンが効く理由はシンプルだ。使い終わったATPを素早くリサイクルしてくれる。クレアチンがリン酸基を渡して、使用済みのADP(アデノシン二リン酸)をATPに再生する。この反応は酸素を使ったエネルギー生産よりずっと速い。瞬発的にATPを再生できるのが強みだ。
脳にもまったく同じ仕組みがある。脳内にもクレアチンとリン酸クレアチン(PCr)が存在していて、神経細胞のエネルギー供給を支えている。
自分が何年もクレアチンを飲んでいたのに「筋肉にしか効かない」と思い込んでいたのは、単純に不勉強だった。
これは1本の論文の話じゃない。2024年に発表された16件の臨床試験(計492名)を統合したメタ分析では、クレアチン補給群で 記憶力・注意力・情報処理速度のすべてが統計的に有意に改善 している[1]。特に 18〜60歳の働き盛りの世代と、女性でより効果が大きかった。
積み上がったエビデンスが、ようやく「筋肉のサプリ」から「脳のサプリ」への再定義を後押ししている。
寝不足の脳をクレアチンで回復させた実験(睡眠不足と認知機能)
睡眠不足のとき頭がぼーっとする、あのぼんやり、原因は脳内のATPとリン酸クレアチンの枯渇だ。睡眠中にリセットされるはずのエネルギー貯蔵が、回復しきらないまま翌日を迎えている。
2024年、ドイツの研究チームがこれを正面から検証した[2]。
21時間の睡眠不足状態の被験者に、クレアチンを体重1kgあたり0.35g(70kgの人で約25g)を1回だけ飲ませた。
結果。
睡眠不足で起きるはずだった脳内リン酸クレアチンの低下が防がれた。脳内pHの低下も防がれた。記憶テストのスコアが改善した。情報処理速度が上がった。ニューロイメージング(脳画像)で、その変化まで捉えている。
寝不足で削られるはずだった脳のエネルギーの落ち込みを、クレアチンが食い止めて、認知機能を保った。しかも1回の摂取で。

筋肉とまったく同じ原理だ。対象が筋繊維か神経細胞かの違いだけ。
ただし留保もある。対象は健常若年成人21名。中高年や慢性的な睡眠不足で同じ効果が出るかはまだわからない。25gという用量も研究用の高用量で、普段飲む量とはかなり違う。それでも、クレアチンが脳内のエネルギー動態を直接変えたことが画像で確認された意義は大きい。
その「量」の問題に、同じグループが2026年に続けて答えを出した[8]。今度は体重1kgあたり0.2g(70kgで約14g)と、前回の半分強の単回投与。29名を同じ21時間の断眠にかけたところ、睡眠不足で落ちるはずの認知機能が、最大で12%ほど持ち直していた。効きは0.35gのときよりやや穏やかになるが、それでも残る。守られたのは論理と数値の処理、それに言語のスピード。徹夜明けの仕事で最初に削られる部分そのものだ。今回も恩恵は女性のほうが大きかった。
25gはさすがに研究用の量だけど、その半分強でも効果が残るというのは、実用にぐっと近づいた話だと思う。
2025年のレビュー論文でも「クレアチンの脳への効果は、睡眠不足や低酸素など代謝ストレスがかかっている状況でとくに発揮される」と結論づけられている[3]。
十分に寝て健康な人よりも、寝不足で追い込まれている人のほうが恩恵を受けやすい。経営者のための成分、と言いたくなる所以だ。
脳の研究が一気に広がっている
これは自分の反省なんだけど、ここ2〜3年のクレアチン×脳の研究の広がりは、もっと早く追いかけておくべきだった。全部書くと論文紹介になるので、インパクトが大きかったものだけ絞る。
アルツハイマー患者で史上初の臨床試験(2025年)
カンザス大学が、アルツハイマー患者20名に1日20gを8週間投与した[4]。脳内クレアチン濃度が 11%上昇。ワーキングメモリが 約10%改善 した。
認知症治療は通常「悪化を遅らせる」のが精一杯で、「改善」が確認されること自体が異例だ。プラセボ群なしの20名パイロット試験なので結論を出すには早いけど、筋トレのサプリが認知症研究の最前線に出てきたこと自体がちょっと信じがたい。
うつ症状への改善効果
クレアチンが抗うつ効果を示すという報告が複数ある[5]。脳のエネルギー代謝が気分障害にもプラスに働く可能性が指摘されていて、抗うつ薬との併用で治療効果が早まったという報告もある。ただしどれも初期段階の知見だ。
「やる気が出ない」の原因が性格じゃなく 脳のバッテリー切れ かもしれない、という視点は頭の片隅に置いておいていいと思う。
他にも、低酸素環境での認知機能維持、脳震盪への神経保護(アメリカ国防総省が2025年に情報ペーパーを出している)、2026年2月に出たばかりの高齢者の認知機能レビュー[6]など、研究の裾野がどんどん広がっている。
経営者のためのクレアチン実践チェックリスト(摂取量・タイミング・注意点)
じゃあ具体的にどう摂ればいいか。
日常(メンテナンス)
☑︎ クレアチンモノハイドレートを1日3〜5g
☑︎ タイミングはいつでもいい。食後のほうが吸収は良い
☑︎ 水にしっかり溶かす。溶け残りは胃腸に負担がかかる
☑︎ 毎日続ける。脳のクレアチン貯蔵は数週間かけて徐々に増える
ここぞの場面(急速チャージ)
プレゼンや商談の前日〜当日は5〜10gに増量する手もある。論文では0.2〜0.35g/kg(14〜25g)の単回投与で睡眠不足時の効果が確認されているが、これは研究用の量だ。日常的には5〜10gで十分。海外出張の時差ボケ対策にも。 一気飲みはしないこと。分割しないと浸透圧性の下痢を起こす。
注意点(ここは真面目に読んでほしい)
⚠️ 高用量の単回摂取は腎臓に負担がかかる可能性がある。持病がある方は必ず主治医に相談を
⚠️ おなかがゆるくなる人もいる(特に空腹時の高用量)
⚠️ 水分を十分に。クレアチンは細胞内に水を引き込むので脱水に注意
⚠️ 安いクレアチンは不純物リスクがある。「Creapure」認証のものを選ぶと安心
⚠️ 健康診断でクレアチニン値が高く出ることがある。これはクレアチンの代謝物であるクレアチニンが増えただけで腎機能低下ではないケースが多い。ただし、他の腎臓病を見落とす可能性があるので、医師にクレアチンを摂っていることは必ず伝えてほしい。クレアチンと腎臓については以下の記事でまとめた。
特に向いている人
・慢性的に睡眠が足りない経営者、ビジネスパーソン
・海外出張が多い人
・すでにクレアチンを飲んでいるトレーニー(脳への恩恵を意識するだけでいい)
・40代以上で「頭の回転が落ちた」と感じている人
・女性(メタ分析で女性のほうが認知機能への効果が大きい)
17年飲んできて、やっとわかったこと
自分は17年間クレアチンを飲んできた。 でもそのほとんどの期間、脳のことなんて1秒も考えていなかった。
脳にも効くと知ってから、クレアチンを飲む意味がまるで変わった。ジムで追い込むためだけじゃない。翌日の仕事のパフォーマンス、長期的な脳の健康、認知症の予防、もしかしたらメンタルの安定まで。1日たった5gの粉で。
もし今飲んでいない人がいたら、まず1日5gから始めてみてほしい。筋トレをしていない人でも関係ない。脳もATPで動いている。
もし今すでに飲んでいるなら、「脳にも効いている」と知っておくだけで十分だ。
1日5g。水に溶かして飲むだけ。 筋肉と脳、両方の燃料補給がこれ1つで済む。
本当はメンタル面の話やBDNFとの関係ももっと書きたかったけど、さすがに長くなりすぎたのでここまでにしておく。そっちはまた別で。
ただ1つだけ。「飲んでいるのに効いている気がしない」という人は、そもそもクレアチンが脳まで届いていない可能性がある。腸の状態次第で吸収効率がまるで変わるので、心当たりがある人はこっちも読んでみてほしい。
→ クレアチンを飲んでも脳に届かない人がいる。腸の話をさせてほしい。
まとめ
カフェインは「マスキングテープ」、クレアチンは「電池の充電」。仕組みが根本から違う
2024年メタ分析(16試験492名)で記憶が改善、注意と情報処理は「反応の速さ」で改善。働き盛りと女性で特にはっきり
21時間の睡眠不足の脳に25g単回投与で、リン酸クレアチンの低下が防がれ認知機能が改善(ニューロイメージング確認)。半分強の14gでも最大12%ほど持ち直した(2026年の追試)
アルツハイマー病の患者さん20名にも1日20g×8週でワーキングメモリ約10%改善(パイロット)
日常は1日3〜5g、ここぞの場面は5〜10g。Creapure認証を選ぶと安心
ここまで読んでくださってありがとうございました。
「スキ」を押してもらえると、めちゃくちゃ励みになります。
フォローしてもらえると新しい記事が届きます。
もっと深く知りたい方へ(関連記事)
クレアチンを「どう飲むか」を、もう一段だけ。
▼ 朝のコーヒーに、クレアチンを足していいか
「毎朝どう飲むか」でつまずく人は多い。コーヒーやMCTオイル、カフェインと混ぜていいのか、お腹を壊さない増やし方はどこか。外来でよく聞かれるこの質問に、1問じっくり答えたメンバー限定のQ&A。
▼ クレアチンを活かす筋トレ
クレアチンは筋肉と脳の両輪に効くが、筋トレ側の設計が雑だと宝の持ち腐れになる。米国最新ガイドラインから「追い込まずに伸ばす」週あたりの最適セット数を整理した。
メンバーシップ「Dr.もさりラボ」のお知らせ
メンバーシップ『Dr.もさりラボ』を運営しています。X・無料noteでは出せない、もう一段踏み込んだ話を書いています。
経営者の主治医として、外来で実際に話している内容
論文を読みながら自分の体で試した、効いた・効かなかった記録
検査数値の読み方、サプリ・薬の選び方
メンバー限定の掲示板Q&A
月額1000円で全記事読み放題です。合わなかったらすぐ解約できます。気になった方は、覗いてみてください。
⚠️ この記事は特定のサプリメントの購入・使用を推奨するものではありません。持病がある方、服薬中の方は必ず主治医にご相談ください。
参考文献
[1] Xu C, Bi S, Zhang W, et al. The effects of creatine supplementation on cognitive function in adults: a systematic review and meta-analysis. Front Nutr. 2024;11:1424972.
[2] Gordji-Nejad A, Matusch A, Kleedörfer S, et al. Single dose creatine improves cognitive performance and induces changes in cerebral high energy phosphates during sleep deprivation. Sci Rep. 2024;14(1):4937.
[3] Fabiano N, Candow D. Creatine Supplementation: More Is Likely Better for Brain Bioenergetics, Health and Function. J Psychiatry Brain Sci. 2025;10(4):e250006.
[4] Smith AN, Choi IY, Lee P, et al. Creatine monohydrate pilot in Alzheimer's: Feasibility, brain creatine, and cognition. Alzheimers Dement (N Y). 2025;11(2):e70101.
[5] Han ES, Yancey JR, Yurgelun-Todd DA, et al. The role of brain creatine in behavioral health conditions. Front Psychiatry. 2025;16:1667639.
[6] Marshall S, Kitzan A, Wright J, et al. Creatine and Cognition in Aging: A Systematic Review of Evidence in Older Adults. Nutr Rev. 2026;84(2):333-344.
[7] Forbes SC, Cordingley DM, Cornish SM, et al. Effects of Creatine Supplementation on Brain Function and Health. Nutrients. 2022;14(5):921.
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 