医者が2週間リブレをつけて気づいた「血糖値の意外すぎる真実」
糖尿病じゃないのに、血糖センサーを腕に貼って2週間過ごしてみた。
完全に興味本位だった。FreeStyleリブレという血糖センサーがある。腕につけると血糖値をリアルタイムで測ることができる。こういう機器を総称してCGM(持続血糖モニター)と呼ぶ。もともとは糖尿病の患者さんが使うものなんだけど、最近は健常者でも自費で購入できる。
500円玉くらいのパッチを二の腕にパチンと貼る。「針を刺す」と聞くと怖そうだけど、実際やってみると装着は一瞬で、痛みもほぼない。上からシャツを着れば目立たないし、シャワーもそのまま入れる。
5分ごとに血糖値がスマホに飛んでくる。食事するたびにリアルタイムでグラフが動く。
これが想像以上に面白かった。そして、医者として17年やってきた自分の「常識」がいくつかひっくり返された。
今回は2週間で気づいたことを、そのまま書いてみる。
パンと白米で全然違う(食後血糖値の個人差)
同じ炭水化物でも、自分の体ではパンと白米で反応がまるで違った。
白米を普通に食べても、血糖値はそこまで上がらない。ピークで130〜140 mg/dLくらい。ところがパンを食べるとめちゃくちゃ上がる。同じ量の炭水化物を摂っているはずなのに、パンのほうが150〜160 mg/dLまで跳ねる日があった。
食後血糖は140 mg/dL以下が正常とされているから、160というのはかなりでかい数字だ。健診で「血糖正常」と言われている自分でも、パンを食べた日はスパイクしている。
理由はいくつか考えられる。パンは小麦粉を粉砕して焼いているぶん消化吸収が速い。白米のほうがデンプンの構造がゆっくり分解される。あとは食べ方の違いもある。パンは単品で食べがちだけど、白米はおかずと一緒に食べるから、タンパク質や脂質が吸収を遅らせている可能性もある。
ただ、これは自分の体の場合の話だ。CGMの面白いところは、血糖の反応が人によってかなり違うこと。Zeevi et al.(2015, Cell)の800人規模の研究でも、同じ食品に対する血糖応答の個人差が極めて大きいことが示されている。パンで上がらない人もいれば、白米で爆上がりする人もいる。 自分の体で試してみないとわからない。

フルーツは意外と上がらない、ただし条件つき
「果物は糖分が多いから血糖が上がる」と思っている人は多いと思う。自分もそう思っていた。
ところがリブレで見ると、果物を食べた後の血糖は思ったほど上がらなかった。りんご、キウイ、ブルーベリーあたりは食後のグラフがかなり穏やかだった。
メカニズムとしては、果物に含まれる食物繊維がブドウ糖の吸収を遅らせること、果物の糖の大部分を占める果糖(フルクトース)は小腸と肝臓で代謝されて血糖を直接上げにくいこと、そしてポリフェノールがα-グルコシダーゼを阻害して糖の分解を遅らせる可能性があること。この3つが重なっている。
ここからが面白いのだが、皮ごと食べた場合と皮を剥いた場合で、血糖の動きがかなり違った。

皮ごと食べる習慣は、リブレより前からのものだ。キウイの丸かじりを妻にドン引きされた話から、りんごの皮が今の糖尿病薬(SGLT2阻害薬)の原型になった180年の発見史まで書いた記事がある。
見た目はちょっとした奇行なのだが、CGMで見ると理にかなっていた。果物の食物繊維やポリフェノールは皮に集中している。皮を剥くと、果肉の糖だけが残る。そりゃ血糖の動きが変わるわけだ。
そしてフルーツジュースは話が全然違う。
オレンジジュースをコップ1杯飲んだ日、血糖がパンと同じくらい跳ね上がった。ジュースにすると食物繊維が除去されて、果糖もブドウ糖も液体の状態で一気に吸収される。果物を「食べる」のと「飲む」のでは体の中で起きていることが全く違う。
これは身をもって実感した。フルーツジュースは「健康的な飲み物」のイメージが強いけど、 血糖的にはほぼ砂糖水だと思ったほうがいい。
脂質はマジで上がらない
これも意外だった。
バターたっぷりのスクランブルエッグ、MCTオイルをかけたサラダ、焼肉の脂身。脂質メインのものを食べても、血糖のグラフがほとんど動かない。
考えてみれば当たり前だ。脂肪酸は消化されてもブドウ糖にはほとんどならない。肝臓でのケトン体合成の材料にはなるが、血糖を直接上げる経路がない。
ただし脂質はインスリン抵抗性に影響するので、「脂をたくさん食べても大丈夫」という話ではない。翌日以降の食後血糖が高くなりやすくなる可能性はある。あくまで「食べた直後の血糖グラフ」が動かないという話だ。
食べる順番で血糖カーブが変わった(ベジファースト)
同じ定食でも、野菜から先に食べた日と白米から食べた日で、食後のグラフが全然違った。
野菜→おかず→ご飯の順で食べると、ピークが明らかに低くなる。Shukla et al.(2015, Diabetes Care)の研究でも、同じ食事内容で野菜とタンパク質を先に食べた群はピーク血糖が有意に低いことが示されている。食物繊維が糖の吸収を遅らせるのと、GLP-1(腸から出るインスリン分泌を促すホルモン)の分泌タイミングが変わるためだと考えられている。
食べる量を変えなくていい。順番を変えるだけ。 これは患者さんにも伝えやすい。

ただ、自分の場合は厳密にやると食事が楽しくなくなったので、今は「とりあえず最初の一口はサラダか味噌汁」くらいのゆるさでやっている。それでもグラフには違いが出る。ベジファーストは議論が分かれることもあるけど、少なくとも自分の実践データでは、効果があった。このように実際に自分でやってみないとわからないことはたくさんある。
睡眠不足の翌日、同じ食事でも血糖が跳ねた
これが2週間でいちばん怖かった発見だ。
たまたま当直明けの日があって、同じコンビニのおにぎり2個を食べたのに、普段より20 mg/dLくらいピークが高かった。食べたものは全く同じ。違うのは睡眠時間だけ。
Spiegelらの古典的研究(1999, Lancet)では、4時間睡眠を6日間続けただけで耐糖能(グルコースクリアランス速度)が約40%低下している。40%というのはかなりの数字で、食事内容をどれだけ気をつけていても、寝不足の前にはほぼ無力だということだ。
寝不足の日は食事内容が同じでも、血糖的にはハンデを背負っている状態。忙しい経営者の外来でこの話をすると、たいてい黙る。食事より睡眠のほうがよっぽど血糖に効くケースがある。
ストレスが高い日も上がりやすかった
これは定量化が難しいのだが、明らかに忙しくてイライラしていた日のほうが、食後血糖のピークが高い傾向があった。
メカニズムとしては、ストレスでコルチゾールが出ると肝臓からの糖放出が増えて、インスリン感受性も低下する。交感神経が優位な状態では末梢の血流分布も変わるので、筋肉でのブドウ糖取り込みが落ちる可能性もある。
食事の内容だけ気をつけていても、睡眠とストレスが壊れていたら血糖はコントロールできない。 結局、体は全部つながっている。CGMをつけて初めて、それが数字で見えた。

朝食前のコーヒーで血糖スパイクが跳ね上がった(カフェインと血糖)
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