アオハル放課後ラボ・番外編③『Mother Nature’s Son』
ChatGPTと一緒にアオハル放課後ラボの番外編を制作しました。
イラストもChatGPTに作ってもらいました。
『Mother Nature’s Son』
昼休み、二年A組の教室は相変わらずの雑然とした平和に包まれていた。
窓際では誰かが英単語カードをめくり、後ろのドア近くではバスケ部の二人がミニボールを回して先生に睨まれ、前列では演劇部の子が文化祭の台本に赤を入れている。購買のパンは出遅れたせいで完売、仕方なく結衣は自販機のミルクティーを買って、慎也の席に小走りで戻ってきた。
「ね、体育祭のリレー、アンカーどうするの?」
「まだ決まってないだろ」
「先生、今日の放課後に選考やるって」
「え、聞いてない。しかも俺、持久走タイプなんだけど」
「スタートダッシュ弱いの、知ってる」
「……手厳しいな」
そんな取り留めのないやりとりをしていたところで、チャイムが鳴る。田村先生がホームルームに現れ、教壇にプリントを置いた。
「二年生は来週、三クラス別の日程で特別授業を行います。視聴覚室で映画を一本観て、自由テーマのレポートを提出してもらう」
教室に「映画?」「マジ?」というざわめき。
「作品は**『風の谷のナウシカ』**。観る前に知識を詰め込み過ぎる必要はありません。感じたこと、考えたことを、それぞれの言葉で書いてください」
放課後、片づけの手が止まった慎也がぼそっと言う。
「なんでアニメなんだろ。授業で」
結衣が首をかしげて笑った。
「私は面白いと思うけど。ナウシカって海外だと“環境アニメ”として授業で扱われたりもするみたいだし、日本でも実例あるらしいよ」
「へえ。ジブリって、そういうの向いてるのか」
「たとえば『もののけ姫』は森と人の衝突だし、『トトロ』は戦後の里山の暮らしがそのまんま教材になる。『ラピュタ』は技術と欲望の話。……まあ、明日観れば分かるよ」
結衣は肩をすくめ、鞄の口を閉めた。
視聴覚室の灯りが落ちる
翌日。A組は列を作って視聴覚室へ移動した。厚手のカーテンが閉まり、スクリーンに白い光が満ちる。タイトルが浮かぶ瞬間、ざわめきは水に沈むみたいに消えた。
二時間。
王蟲の群れが唸り、瘴気の砂塵が渦を巻き、風が草を渡っていく。ナウシカが蟲に手を差し出す場面で小さな息が漏れ、最後、群れが静まって金色の触手に抱かれると、教室のどこかで鼻をすする音がした。
照明が点く。現実の白が戻る。
田村先生が言う。「はい、十五分、自由ディスカッション。テーマは自由。感じたこと、言葉にしてみよう」
最初の沈黙を破ったのは後列の男子だった。
「巨神兵、やべぇ。アレ、核のメタファーっしょ」
「わかる。でもナウシカは兵器を“否定”ってより、“扱えない人間”を描いてた気がする」
「腐海の毒、PM2.5とかスモッグ連想した。現実味ある」
「蟲に愛されるなんて現実じゃ無理だけど、あれ“境界をまたぐ勇気”の象徴じゃない?」
「『トトロ』みたいな優しさは薄いけど、壊れた世界の優しさって感じ」
「『もののけ姫』で森が怒るのと、こっちは森が“治す”。似てるけど違う」
「王蟲、最初は怪物だったのに、途中から“秩序”に見えてきた」
意見は脈打つように広がり、十五分は一瞬で尽きた。
「レポートは来週のホームルームで回収します」田村先生が締めると、ざわざわと椅子が鳴った。
放課後・科学準備室
夕方。静まり返った科学準備室で、試薬瓶のガラスにオレンジの光が差している。
慎也は椅子に倒れ込むように座り、「俺、めっちゃ泣いた」と顔を覆った。
「でもさ、腐海って結局なんなんだ? ただの死の森じゃないだろ」
結衣は頷き、タブレットを立てる。
「一回で咀嚼は難しいよね。私の解釈だけど――腐海は“浄化装置としての森”。人間が汚した大地から、毒を吸って、時間をかけて土を清める」
「浄化装置……」
「バイオレメディエーションって概念があってね。生物の力で汚染を片づける。菌、植物、時には動物や微生物群集の“寄せ集めの知性”で」
結衣は指で図を送る。
「例えば――
① 水銀:水俣病のあと、水銀耐性菌が見つかった。菌が持つmerオペロンって遺伝子セットで、有機水銀や二価水銀をHg⁰(単体水銀)へ還元する“メルカリックリダクターゼ”を作るの。毒性を下げて気化しやすい形にする。
② カドミウム:富山・神通川流域の田んぼは、土を入れ替えたり、植物(カラシナやイネ)に吸わせて収穫物を処理したりして、長年かけて回復した。
③ 油汚染:海では石油分解菌(たとえばAlcanivoraxやMarinobacter)が増えて、炭化水素を細かく分解していく。
④ 放射性物質:ヒマワリを植えてセシウム・ストロンチウムを吸わせる実験が行われたし、地下水のウランはGeobacterやShewanellaが溶けやすい形から沈殿しやすい形へ“還元”して移動性を下げる。
⑤ 窒素・リン:下水処理では、脱窒菌が硝酸を窒素ガスにして大気へ返し、リン蓄積細菌が余剰リンを体内にためてくれる。水の富栄養化を抑えるんだ」
慎也は身を乗り出す。
「そんなにいろいろあんのか」
「ある。しかも、象徴的な光景として今も語られる場所がある。
— 熊本の水俣湾は、浚渫した底質を埋め立ててエコパークになった。芝生の向こうで海鳥が舞うその風景は、“負の遺産からの再生”の象徴。
— 富山の神通川の田んぼは、風に稲穂が揺れている。あの金色は“戻ってきた暮らし”そのもの。
— 海外だと、チェルノブイリで咲くヒマワリの列が“人の手と自然の再生力が交わる場所”として写真に残るし、アラスカのプリンスウィリアム湾では原油流出で黒く染まった浜が、いまはカモメやラッコが戻る浜になっている。痕跡は完全には消えないけど、戻る力も確かにある、っていう景色」
「……腐海、ただの敵じゃないな」
「うん。怖いけれど、治している。ナウシカはそこに気づく。だから“環境アニメ”と呼ばれるのも分かるんだけど――」
結衣は言いさし、言葉を選んだ。
「宮崎駿さん自身は、多分“レッテル”は好きじゃないと思う。『もののけ姫』でも自然は人を簡単に殺すし、『ポニョ』は海の圧倒的な力を可愛い顔で出してくる。自然=善、人間=悪、みたいな単純化を避けてる。人と自然がどう折り合うかを物語にしてるんだと思う」
「折り合うって、例えば?」
「日本の里山。人が山に手を入れて、取り過ぎず返すサイクルで暮らしてきた。薪をもらい、落ち葉で畑を肥やして、また森に返す。多様性は、人の手入れと共存して維持されてきたんだよ。……なのに今、場所によってはメガソーラーのために山を削って、“守るため”に壊すことが起きてる。私はそれには反対。エネルギー転換自体は必要だけど、立地と設計をまちがえたら本末転倒だよね」
慎也は腕を組み、天井の蛍光灯を見上げた。
「人間、愚かだな」
「愚かだし、でも工夫もできる。だからナウシカは“説教”じゃなくて“問い”として残るんだと思う。君はどう生きるか、って」
結衣はタブレットを閉じ、ふっと笑った。
「それと――授業で“映画としての文法”も観てほしいな。腐海の音響設計とか、光の使い方。『トトロ』の田んぼの湿った光と、『ナウシカ』の腐海の乾いた光は、同じ“自然”でも意味が違う。『ラピュタ』の空も。“飛ぶ”って何?っていう問いがずっと地続きである気がする」
夕焼け、校門まで
校門を出ると、太陽は校舎の向こうへ傾いて、運動部の掛け声が細くなる。
「……やっぱり科学者は考えることが違うな」慎也が呟く。
結衣はむっとして足を止めた。
「いやいや、私が言いたいのはね――メーヴェだよ、メーヴェ!」
「そこ!?」
「だって最高でしょ。あの翼、高アスペクト比っぽいのに翼端がきれいに処理されてる。翼端渦を減らして、低速でも失速しにくいように前縁のカーブが工夫されてるし、機体の翼面荷重が低いから、上昇気流をつかんだらソアリングできるはず。推進は小型ジェットかダクテッドファンっぽいけど、推力方向が重心線と合ってるからピッチングが少ない。操縦は体幹で迎角を微調整して、足元で方向舵を入れてるよね? あとあの座り姿勢、視界が広くて、乱気流の前兆が雲の縁の“ちりちり”で読める。あの形ならフラッターも許容できる範囲……あ、でも強度確保のためにカーボンハニカムは必須で――」
「ま、待て待て待て。言語が物理」
「つまり、乗りたいってこと!」
「要約、そこかよ」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。風が校門の並木を渡って、落ち葉を一枚持ち上げては落としていく。結衣はその葉の動きに目を細めた。
「ね、風、見える?」
「見えないけど、感じる」
「それ。見えないものをどう掴むかが科学の仕事で、同時に、物語の仕事でもあるんだと思う」
「……やっぱり結衣は結衣だな」
慎也が言うと、結衣は横顔のまま小さく笑った。瞳の奥で、まだ空を滑る夢の光が揺れている。
校門の外、バス停に人が集まり始める。夕焼けの色は少しずつ褪せ、街の灯りが一つ、また一つと点っていった。
アオハル放課後ラボ・番外編③『Mother Nature’s Son』 ーーー 終
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