【創作大賞感想】亜麻布みゆの「楽しい」を1ヶ月も味わえた。
「楽しい」その一言で足りる小説を読んだ。シンプルな感想を持てるほど、小説としての強さを証明していると思っている。
誰にでも分かりやすくとか、誰にでも読みやすくするというのは、簡単に思えて一番難しい。その選択をすると、小説を書くうえで、自分の表現を捨てる部分が少なからず出てくるはずだからだ。
私には、それが出来ない。自分の言葉や表現を探すことを目的として書いているからだ。亜麻布みゆは、おそらく意図的に分かりやすく書いている。それは読み手に全力で「楽しんで読んでもらう」ことを決めて取り組んでいたからだと感じる。
私は、亜麻布みゆの文章を今までも読んできている。だから、これは狙って書いていると分かる。もっと説明したいはずのものや、自分の表現を、誰にでも楽しく読んでもらうという、その目的のためだけに、文章を簡略化し、削ぐ作業は、どれだけ怖かったのだろうかと考えてみた。
起きたことを端的に読ませる。感情の機微や情景描写を極力抑える。リズム、テンポ、話の構成、物語の中心を正面に捉えて、それをきちんと分かりやすく描く。その裏には、自分の登場人物や設定を細かく、矛盾なく説明出来る根拠があるように思えてくる。
誰にでも読みやすくするということは、誰にでも展開が予測しやすくなる。それでも、ここまできちんと楽しめるように作れたのは、亜麻布みゆ本人がきちんと「面白い」と作品を信じていたからこそだと思います。
そして、世の中に小説が溢れている中で、こうして振り切って勝負出来る人を私は、羨ましくも思う。
どれだけの時間をかけて創作したのか分からないが、読みやすい文章の中の随所に、読者に対して分かる人には分かる「くすぐり」をたっぷり入れ込んでいる。
だから、分かりやすいのに楽しい。
語りかけてくるように、きちんと一話一話が練られていて、一話の終わり方。人の興味の惹き付け方の妙を知る。続きが読みたいと純粋に思わせるのは、亜麻布みゆの技術に他ならない。
そして、何よりも議事録の演出の仕方。noteというプラットフォームの記事構成の要素を利用出来るところを最大限利用して、目で見ても、飽きさせないように、楽しめるようになっている。視覚でも、演出効果を狙っているのは、センスとしか言いようがない。
ただの議事録だったノートは、読み終えると誰もが読みたい魔法のノートに変化している。
主人公、真田雪乃は不動産会社に勤める人事部付の主人公だ。一話を読めば、この議事録で活躍していくのね。とハッキリ分かる。
主題がハッキリしてるなかで、読み手を置いていかない。会社の中で起こること、社会問題として現在も起こっていることを等身大の目線で描いている。
人生経験を積んだ先輩や、同期、それぞれの立場のそれぞれの悩みをきちんと描いている。
今現在に起こっていることは、当たり前として受け入れられていて、見逃されがちであり、表現としてされないものが多い。
それでも、リアルな現実を突き、悩み葛藤させ、解決に導き、お仕事小説のエンターテイメントとして成立させている。真田雪乃が成長する過程に、見聞を広めること、偏らないこと、相手の立場になってみること、自分の意見を持つこと。その一つ一つが、現在求められている社会の一つだと思う。
真田雪乃と関わった人間が、成長していくように、真田雪乃も自分の矜持というものが生まれてきてしっかりと成長していく。
物語に大きな展開はない。だけど、人生に大きなことなど滅多に起きない。小さな日常を皆で積み上げているからだ。
その小さな日常を全力で向き合う主人公の真田雪乃が素敵だと思う。
主人公を、主人公として好きになれる小説は何より楽しい。何が起きても、読み手として応援出来てしまうからだ。
私は、毎日読んで応援していた。それだけに、恋愛展開だけはちょっと待ってくれと叫んでしまったことは、報告しておきたい。まだ、その真田雪乃は、知りたくなかったと心から思えるくらい魅力的だったのだ。
この作品が、きちんとした形になっていくのだとしたら、きっと亜麻布みゆは、如何様にも書き変えてくれると思う。もっと大きな物語を入れ込んだり、喜怒哀楽すべてを入れ込んだりだ。
なぜなら、亜麻布みゆは、狙って書ける。
それは、きっと作品の題材を問わないことを意味している。分かりやすく面白くがリクエストならその通りに書ける。難解なら難解に書ける。これは、作家として書いていくのなら強味でしかないと思う。
この作品は、おそらく亜麻布みゆが「楽しく読んでもらう」を表現した作品なのだと思う。物語が予測出来るのも「分かりやすく」を追及しているからだと思う。
その分かりやすさの効果は、日々感想を書く人がいたり、楽しんでいる人が多かった反響を読めばすぐに分かる。読める人を増やすことが出来る小説なのだと思います。
十万文字を超える小説を、毎日飽きさせなかったことの凄さを体感して欲しい。もし、本になるのならおそらく、この小説はもう少し形を変えていくと思う。現在の形は、毎日飽きさせないように書いているからだ。だから私は今の形で読めて良かったと思っている。
きっと、本になるから自由に書いて良いと言われる時が、本当の彼女のエンターテイメントを読める時な気がする。
楽しかったです。
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