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 物憂げを演じるのが得意になってきた。私にとって、コンビニの喫煙所でタバコを咥えるだけで、それがサマになるようになってきた。私は紙タバコを辞め、電子タバコに最近変えた。

 最先端の機械スイッチをBOOSTモードにし、心で「ブースト!!」と叫び、電子タバコを加熱する。

 待ち時間は、15秒だ。

 この15秒で、私は私を整える。左足を少しだけカラダの前に置き、右手は腰に添える。この時、私の右手の指先は腰の曲線に沿って密着させる。少し出っぱったチャームポイントのお腹を、少しも出っぱってはいないように密着させる。

 そういう自分を愛らしくすら思う。

 視線は、コンビニから見える高架の高速道路に斜めに向ける。上目遣いと言えるものだと思う。時折上部だけ見える車の車種が何かを想像し、そこに乗っている女性はどんな女性なのかを考える。

 この日は、大型トラックが高架の高速道路を通っていた。

 運転しているトラック女子が、今まさにBOOSTしていたら同時BOOSTだなと思い、少しだけ嬉しくなっていた。

 私のBOOSTが終わり、吸えるタイミングになると、だいたいいつもそれは起こる。私の目の前には、錆びたチェーンの古びた自転車を枠からはみ出して停めて、サイズの合わないヘルメットを被り、ランニングシャツにカーキのハーフパンツの老人が現れた。

 私の前には、だいたい老人が現れる。

 老人は、私を認めるとすぐに私に近付いてきた。BOOSTが終わる頃になると、代わりに老人にも火が点く。私は、前に置いた左足をもとに戻し、一口吸って老人の登場を待った。

「SASAKIさんが、骨折したんだよ」

 老人は、だいたい私に話しかけることを知っていたので、特に驚くことはなかったのだが、私はSASAKIさんが誰なのかは分からなかった。それでも、骨折だけはオオゴトだと感じた。

 私は、視線を老人に向けて私に対してSASAKIさんの報告をしているのか確かめるために、大きく頷いた。私がよく出会う老人は、私に話しているようでいて、独り言の老人も多い。大きめの物憂げなリアクションは、双方にとってのとても平和的なリアクションとなる。

 老人は、頷く私を見て私の横に並びヘルメットを脱いだ。私はヘルメット型のカツラじゃなかったことに安堵し、私を認めてくれたことを確認した。

「SASAKIさんはな、横着な人で自分の家から道路に出ないで、裏の家の柵を越えて道路に出るのが日課なんだ。その方が近いからな。それで、柵を越えてからその家の裏口の段差に躓いたんだな。コケたんだよ」

 私には不思議と、その情景がハッキリ浮かんできた。

 いつもなら私の影だけを残し、立ち去るところだったのだが、影では決して見えない本物の笑みをプレゼントし、続きを促すことにした。

「それでな。SASAKIさんは、その段差に座り込んだままになったんだ」

「おじさんは、その家の人なんですか」

 私は、まずSASAKIさんと老人の関係性を知りたくなった。私の物語の主人公を誰にするのか決め兼ねていたからだ。

「俺は違うよ。SASAKIさんが動かないんだけどって、俺に連絡が来たんだ」

 私には理由が何となく想像できた。それでも続きを待ちながら、私は頷く前にタバコを吸った。

「その家の人はな、SASAKIさんのことが嫌いなんだよ」

 直球だった。

「それでな、呼ばれた俺はSASAKIさんのところに行ってな、SASAKIさんに聞いたんだ。『大丈夫か?』ってな。SASAKIさんは、『大丈夫』って言うんだよ。だからそのまま置いていこうかと思ったよ」

 老人は、放置プレイをしようとしたボケを挟み、私に笑いを誘ってきていた。笑うか迷っている私を見て、老人の方から誘い笑いをしてきたので、私はつい笑ってしまった。

 人から笑いを誘われたのは、いつぶりだろうか。そんなことを考えていた。

 私は、誘い笑いも悪くない気がしていた。私の笑顔を見て、老人はさらにノッた。

「でよ、起こしてあげようと手を引っ張って立たせたんだよ。そしたら右手と、右の腰が痛いって言うんだよな。それを見て俺はすぐ、右側からコケたと思ったね。そして、これは折れてるって分かったね」

 私は、この老人が本当に骨折を見抜いたのかどうかよりも、そう信じ切っていることに驚いていた。

 骨折を見抜く老人に出会ったのは初めてだった。私は、この老人の次の一言が聞きたくなっていた。

「でな、これは救急車だってなって、俺が連絡したんだよ。SASAKIさんが人の家でまったく動かないってな」

 その伝え方ならば、警察に連絡した方が良いような言い方だが、この老人はどうやらSASAKIさんを助けたことを私に伝えたかったみたいだった。

「それは、良いことしましたね。SASAKIさんも骨折しながらおじさんに感謝しかないですね。今ごろ病院でも泣いてるんじゃないですか。他人の家で転んでも、誰かが助けてくれる世の中も捨てたもんじゃないわとね」

 私は、私にできる最大限の老人褒めをした。

「それがよ、3日で退院したんだ」

「骨折じゃなかったんですか?良かったですね」

「いや、骨折なんだよ。腕と腰とよ」

 私には、この老人がおかしなことを言っている気がしてならなかった。骨折をして歩くのもままならないSASAKIさんが、3日で退院できるとは到底思えなかったからだ。私の中のSASAKIさんは、すでにベッドで「ありがとう」とおじさんを拝んでいる。

「あれはな。病院でも嫌われたんだ」

 この老人は、SASAKIさんを助けたことを私に褒めて貰いたかったのではない。SASAKIさんが嫌われていることを私に教えたかったのだ。

「そんなに、嫌われているなら今どうしてるんですか?」

 私は、もうSASAKIさんがどうなっているのか知る権利があると思い聞いていた。

「今な、介護の車が毎日来てる。きっと介護の人に託されたんだな」

 世の中は、きちんと出来ているものだなと、私は社会に少しだけSASAKIさんの代わりに感謝した。

「でな、介護の人に聞いたんだよ。SASAKIさんは、骨折だったのかって。個人情報だから教えられないって言われたんだけど、右手と右腰、あれ折れてるだろって言ったら濁すんだよ。だから、あれは骨折だね」

 再びの骨折ループに私は、やはりこの老人は骨折を見極めた自分を私に褒めてほしいように見えた。

 瞬時に骨折を見極めた老人は、「あれは骨折だね」と私に再度伝えると、コンビニの入口に向かおうとした。私は、見極め老人に私の中のコケたSASAKIさんの思い出を語ろうとしたが、私の思い出のSASAKIさんに無粋だなと思い直し、見極め老人に声をかけた。

「で、何買うんです?」

 老人は、少しだけ笑みを浮かべて答えた。

「SASAKIさんに差し入れだよ」

 「全然嫌われてないじゃん」

 私は、思わず言ってしまった。

「嫌われてんだよ」

 老人は、言いながらもコンビニへと入っていった。私は、老人にウインクしながら、老人の自転車のチェーンに注油してあげたくなったのだが、再び電子タバコをBOOSTし、心の中で「ブースト!!」と叫び、再び15秒の待ち時間を堪能することにした。

 そして高架の高速道路を走るトラック女子にも、差し入れを持ってきてくれる誰かがいるといいなと思った。願わくば、その役目は私でありたい。そのためにも、まずは彼女の名前くらい知っておきたい。

なんのはなしですか

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クラファンは、8月1日5時55分。
8月1日(ハイ)になって5時55分ゴーゴゴー!!より開始。
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