関ヶ原。三成、最後の采配 第二話『鬼の先駆け、敵を割る』

第二話『鬼の先駆け、敵を割る』

「かかれぇぇぇええええ!」

左近の咆哮が、戦場を震わせた。
霧を突き破り、黒田長政の陣へ襲いかかる。
槍がぶつかり、肉を裂き、血が舞う。

凄まじい。
左近の武威は、まさに鬼神のそれだった。

大きく槍を一閃。
肉を裂く。骨を砕く。血飛沫が、左近の頬を濡らす。
槍。槍。槍。
槍を振るたびに兵たちが消え、恐怖に叫ぶ。

霧の中に鬼がいた。

彼の突撃を受けた黒田隊の陣形が、目に見えて揺らいだ。
兵たちの顔に動揺が広がる。

「もろいっ!」

左近の口の端が、勝利を確信して吊り上がる。

黒田の兵を左右に割り、前へ前へと突き進んでいく。
左近隊は、笹尾山から続く丘陵地帯の裾まで達していた。

薄れゆく霧の向こうに、何かが見えた。

――その時。

待ち構えていた鉄砲隊が一斉に姿を現した。
高所から、ずらりと並んだ銃口が、死の宣告のようにこちらを向いている。

罠だ

「――っ! 伏せろ!」

左近が叫ぶ。
だが、遅い。

轟音。

耳をつんざく一斉射撃が、頭上から抉った。
――そして、左近自身の肩も。

咄嗟に身を庇う暇もなかった。
焼けるような衝撃。鉛玉が、骨を砕くほどの鈍い感触。

視界の端で、兵たちが血煙となって、崩れ落ちていく。

「ぐ……っ!」

熱いものが肩から溢れる。
槍を握る腕に力が入らない。馬上で、ぐらりと体勢が崩れる。

左近は、唇を噛み締めた。
血の味がする。
これが己の血の味か。それとも、屈辱の味か。

もはや、前を見ることはできなかった。

「……退くぞ!」

敵に、背を見せる。
その屈辱に耐え、肩の激痛に耐え、
兵たちの殿《しんがり》を務める。

そして、
大一大万大吉の旗印へと戻っていった。



新たな登場人物
黒田長政 東軍の有力武将。島左近と激闘を繰り広げる。


#創作大賞2025 #オールカテゴリ部門  #島左近 #関ヶ原


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