関ヶ原。三成、最後の采配 第四話『迫る内府、揺らぐ均衡』

第四話『迫る内府、揺らぐ均衡』

「蒲生備中殿、細川隊の側面を強襲!」
「宇喜多様、銃に槍に、敵の福島隊を圧しております!」
「大谷刑部様、藤堂・京極の両隊を押し返し、前線を維持!」

伝令がもたらす報告に、三成は静かに頷いた。
盤面の駒は、まだこちらの優位を告げている。

しかし――

それまで桃配山の頂にあった徳川本陣の旗が、
にわかに、山を降り始めた。

金扇の馬印。
あろうことか、徳川家康の本陣そのものが、前線へと進んでいく。
遮るもののない丘陵へと、その身を晒しながら。
やがて、その金扇が、前線の将兵のすぐ背後で、止まった。

「なっ……! 内府、本陣を前へ!」

その報は、激震となって駆け巡った。
盤面は、こちらの優位を告げていたはずだ。
そこに、あの男は、踏み込んできたのだ。

好機か、罠か
いや、違う

(この戦、一歩も退かぬ、か……)

三成は采配を強く握りしめた。
あの金扇が物理的に近付いただけだ。
だというのに、戦場の空気が熱を帯び、じりじりと張り詰めていく。

傷の手当てを終えた左近が、ふと、鼻をひくつかせた。
まるで、獲物の匂いを嗅ぎつけた獣のように。
彼は、内府の本陣と、沈黙する松尾山を、交互に睨みつける。

「殿」
左近が、絞り出すように言った。
「……どうにも、鉄臭い。嫌な風ですな」

三成は答えなかった。

ただ、その横顔の眉間に、これまでなかった深い皺が刻まれていた。



新たな登場人物
徳川家康 通称、内府。東軍の総大将。
大谷吉継 通称、刑部。病の身を押して、友のために参陣する。


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