歯科治療を家づくりに例えると治療現場の狂気がわかりやすく見えてきた話
こんにちは、はぐれゴリラです。
普段は高気密・高断熱住宅の重要性(C値やUA値がいかに大事か)や、現実的な資産形成について発信していますが、今日は珍しく僕の本業である「歯科医師」としての話をさせてください。
実は自分の家づくりを猛勉強し始めた頃から常々思っていたことがあります。
「歯科治療の構造って、家づくりに例えるとめちゃくちゃ分かりやすいんじゃないか?」
そして同時に、「日本の歯科保険診療がいかに狂った構造をしているか」という問題も浮き彫りになってきます。
最近でこそ資材高騰など色々な要因が絡まってそんな「歯科の闇」的なニュースを目にする機会も増えました。
今回は、住宅愛好家である僕だからこそできる「ダークな歯科の世界」を家づくりに例えてのおはなしです。
保険診療は「建築基準法スレスレ」の超ローコスト住宅
日本の保険診療はスーパー高品質!そう思われている方が多いと思います。
まず結論から言うと、保険診療の目的は「最低限の機能回復」です。
家づくりで言えば、「とりあえず雨風がしのげて、建築基準法さえ満たしていればOK」という状態。
そこには気密性や断熱性といった概念は存在しません。
極論、隙間があろうが詰め物が入ってりゃOK。そんな世界です。
その上、家の予算(診療報酬)は国によってガチガチに決められています。
例えば銀歯(インレー)の治療なんて、やればやるほど赤字になるレベルの単価です。
最近貴金属の高騰で知ってる方も多いのではないでしょうか?
実は最近その逆ザヤが激しくなってきただけで「銀歯が利益にならない」というのは結構前から言われています。
つまり、いかに時間とコストをかけずに家を建てるか。
これが至上命題になります。
保険診療では、患者さんのためにと細部までこだわる意識高い工務店(歯科医)も、利益至上主義の大手も、どこまで頑張ったって得られる報酬は同じ。
「え、誰が頑張るのこれ?」という、とんでもない世界線で僕らは生きています。
地盤改良には100万円払うのに、歯の基礎工事は「スズメの涙」
家づくりにおいて、基礎中の基礎である「地盤改良」や「基礎工事」。
ここに100万円、200万円かかると言われても、家を建てるために絶対必要な経費として施主は納得して払いますよね。
地盤が緩んでいたら家が建たないことを誰でも知っているからです。
でも、歯科における地盤、基礎工事である「根管治療(歯の神経・根の治療)」はどうでしょう。
建物を支える一番大事な工程であり、ここを適当にやると上にどれだけ立派な被せ物をしても数年でダメになります。
それなのに、日本の保険診療でもらえる根管治療の費用はまさに「スズメの涙」笑。
時給換算したらアルバイト以下、いや人件費等コストを引くと僕らは赤字のボランティアです。
まともな地盤改良を、タダ同然のボランティア価格でやらされる世界。
それでも僕ら歯科医師が日々必死になって根管治療に向き合っているのは、ひとえに「職人の良心」でしかありません。
構造としては完全にバグっています。
「治療が長い=ヤブ医者」という大いなる誤解
ここで一つ、患者さん側にも持っておいてほしい視点があります。
それは「あそこの歯医者は何回も通わされて時間がかかる」という不満についてです。
家づくりで基礎のコンクリートをしっかり乾かしたり、丁寧に地盤を固めるのには絶対に時間がかかりますよね。
それを「工期が長い!早く建てろ!」と怒る施主はいません。
基礎工事の手を抜かれたらまともな家は建ちません。
歯科も全く同じです。
特に基礎工事である根管治療などは、丁寧にやればやるほど回数も時間もかかることも多いです。
先ほど言ったように、時間をかけても報酬は増えません。
むしろ医院側からすれば赤字を垂れ流している状態です。
つまり「時間がかかる歯医者」というのは、手際が悪いのではなく、
「患者のために、利益を削り、自分の納得できる治療をするために時間をかけてくれている職人気質な先生」
である可能性が高いのです。
逆に「1回でサクッと終わらせてくれる歯医者」が、実は腐った地盤の上に適当なフタをしているだけの悪徳業者かもしれない……という視点を持つことは、自分の身を守るために非常に重要です。
※もちろん全部がそうであると言っているわけではありません。
「予算は建売、要望はフルオーダー」という無理難題
さらに現場の僕らを疲弊させているのが、「口は出すけど金は出さない」施主(患者さん)の存在です。
「銀歯は絶対に嫌だ、真っ白にしてくれ」
「絶対に長持ちする最高の治療をしてくれ」
「でも、絶対に保険の範囲内で、一番安くやってね!」
これ、家づくりで言えば、
「予算はローコスト建売の基本料金しか払わないけど、キッチンは海外製のオーダーメイドで、床は高級な無垢材、窓は樹脂トリプルサッシにしてね!」
と要求しているのと全く同じです。
保険診療というのは、国が定めた「標準仕様」の超厳格なパッケージプランです。
使える材料から、治療のステップまで、ルールで縛られています。
当然かけられる時間も縛られてきます。
僕らが意地悪をして「安くやってあげない」わけではありません。
制度的にもコスト的にも「その予算でその仕様は物理的に不可能」なのです。
ローコスト住宅の契約で、オプション料金も払わずに
「俺の家への熱意が足りない!」
と営業や監督、職人に詰め寄って無理難題を押し付けているのと同じ構造です。
現場ではどうすることもできません。

自費診療=超高気密高断熱住宅…でも「シロアリ」はやってくる
「じゃあ、お金をかけて自費診療(セラミックやインプラントなど)にすれば万事解決!」と思った方。実はそこにも罠があります。
確かに自費診療は、設計から素材までこだわり抜いた「超高気密・高断熱住宅」のようなものです。見た目も美しく、性能も段違いです。
でも、忘れてはいけないのが「シロアリ(虫歯や歯周病)」の存在です。
どんなに性能の良い家を建てても、住人の使い方が悪かったり、定期的な防蟻処理を怠れば、シロアリ(虫歯菌・歯周病菌)は容赦なくやってきます。
超高気密高断熱住宅だろうが、定期検診とメインテナンス(毎日の正しい歯磨きとプロのケア)をサボれば、名建築もいずれ廃墟になります。
「高いお金を払ったからもう一生安泰!!」というのは大きな勘違いなのです。
なぜ歯科医療は「ローコスト住宅」が当たり前になってしまったのか
ここまで崩壊した構造なのに、なぜ多くの歯科医院は保険診療ベースで生きていくしかないのか。
答えはシンプルです。
「ほとんどの患者さんが、ローコスト住宅であることが当たり前の世界で生きているから」です。
家を建てる時はあんなに一生懸命性能について猛勉強するのに、一生使い続ける、しかも二度と生え変わらない自分の歯となると、なぜかリテラシーがリセットされてしまう。
患者さんが「安かろう悪かろう」を望んでいる以上、そこに合わせてビジネスを展開せざるを得ないのが、今の歯科業界のリアルです。
#最後に
この記事で言いたいのは、「だから全員、高いお金を払って自費診療を受けろ」ということではありません。
そして「ボヤくなら今すぐ保険診療なんてやめて自費オンリーで戦え!」なんて声も聞こえてきそうですね。
でもそうもいかない。僕ら業界が対応できないというのもありますが、患者さん側にバブル崩壊クラスの経済的負担がくるからです。
虫歯一本治すことができない。そんな人で溢れかえることになります。
結局のところ、「自費と保険、畑は別」という制度で生きていくしかないんですよね…
ただ、自分が今受けている治療が「どんな家づくり」に相当するのか。そして、その裏で医療従事者がどんな思いで「スズメの涙」の基礎工事に向き合い、無理難題に葛藤しているのか。
その構造を知った上で、ご自身の「歯という一生の資産」と向き合ってほしいなと思います。
家も歯も、一番大事なのは「見えない基礎」と「日々のメインテナンス」です。
〜終〜
あわせて読んでください、お願いします、誰か読んでください!
住宅攻略 断熱編最新話!
今回初動が悪くて凹んでます。笑
前半にめちゃくちゃ大事なこと書いてあります。
別に有料部分なんて買わなくていいです!無料部分だけでいいから、むしろそっちだけでいいから食わず嫌いせずに読んで欲しい!!そんな一品↓
僕歯医者なので歯ブラシも紹介します。
初めての方はどうぞ↓(いつものあれ)
