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オウンドメディアって必要なんですか?――「それ、社長が自分で言ってください」

「オウンドメディアを立ち上げよう」

経営会議で、そんな方針が決まります。

会社の認知度を高めたい。

採用を強化したい。

自社の商品や技術を、もっと多くの人に知ってもらいたい。

会社の理念や取り組みも発信したい。

そこで、自社のウェブサイトの中に、新しい情報発信ページがつくられます。

広報担当者が社内を取材し、記事を書きます。

社員インタビュー。

開発秘話。

社会貢献活動。

働き方改革。

社長メッセージ。

記事の本数も、更新頻度も決められます。

そして、数か月後。

広報担当者は、アクセス数の報告を求められます。

「それで、何人に読まれたの?」

「問い合わせは増えたの?」

「採用に効果はあったの?」

あれだけ社内調整をして記事をつくったのに、思ったほど読まれていない。

やがて、社内からこんな声が聞こえてきます。

「オウンドメディアって、本当に必要なんですか?」

その疑問は、もっともだと思います。

いまはSNSがあります。

YouTubeもあります。

企業が情報を発信する場所は、自社サイトだけではありません。

わざわざ大きな予算をかけてオウンドメディアをつくらなくても、SNSや動画で発信すればよいのではないでしょうか。

しかも、その発信を広報社員にやらせる必要があるのでしょうか。

会社を代表するトップが、自分の言葉で発信すればよいのではないでしょうか。

広報の現場からは、こんな嘆きが聞こえてきそうです。

「それ、社長が自分で言ってください」

社長の言葉を、広報が社長に取材する

企業のオウンドメディアでは、よく社長インタビューが掲載されます。

広報担当者が社長の予定を押さえ、インタビューをします。

話を録音し、文字に起こし、記事にまとめます。

社長に内容を確認してもらいます。

経営企画や人事、法務にも確認してもらいます。

何度も修正を重ね、ようやく公開されます。

ところが、完成した文章を読んでみると、こうなっています。

当社は今後も、持続可能な社会の実現に向けて、さまざまな社会課題の解決に貢献してまいります。

間違ったことは書かれていません。

誰も反対しない文章です。

しかし、どの会社でも言えそうな文章でもあります。

社長が本当に言いたかったことは、社内調整を重ねるうちに、少しずつ薄まっていきます。

尖った言葉は丸くなります。

具体的な話は抽象的になります。

社長の人柄が見える表現は削られます。

そして最後には、誰にも怒られない代わりに、誰の心にも残らない文章が完成します。

広報担当者は、それを会社の公式発信として公開します。

でも、少し不思議です。

社長が考えていることを世の中へ伝えるために、広報担当者が社長へ取材し、その言葉を広報担当者が書き直し、再び社長へ確認してもらう。

それなら最初から、社長が自分で発信すればよくないでしょうか。

イーロン・マスク自身が、メディアになっている

イーロン・マスクの発言は、たびたびニュースになります。

新しい事業について語る。

将来の構想を語る。

自社の商品について説明する。

ときには、批判や反論もする。

その発言には、当然、賛否があります。

発言内容によっては、批判を受けることもあります。

つまり、トップが自分で発信すれば、すべてうまくいくわけではありません。

それでも、イーロン・マスクの発信には、企業広報を考えるうえで分かりやすい特徴があります。

彼は、SNSを使って広報しているというよりも、

イーロン・マスク自身が、ひとつのメディアになっている。

ということです。

トップが何を考えているのか。

会社をどこへ向かわせようとしているのか。

いま何を重要だと考えているのか。

本人の言葉から、それが見えてきます。

もちろん、すべての社長がイーロン・マスクのように、強い言葉を発信する必要はありません。

毎日、世の中へ意見を述べる必要もありません。

しかし、会社を代表するトップが何も語らず、広報担当者だけが「当社の考え」を発信し続ける状態は、少し不自然ではないでしょうか。

会社の考えを最もよく知っているはずの人が黙り、その人の考えを広報担当者が推測しながら文章にする。

そして、その文章を本人に承認してもらう。

それは、本当に合理的な情報発信なのでしょうか。

オウンドメディアは「場所」でしかない

ここで、問いを変えてみます。

オウンドメディアは必要ですか?

この問いに対しては、必要だという会社もあれば、必要ではないという会社もあるでしょう。

しかし、この問いだけでは、議論がすぐに媒体の比較になってしまいます。

自社サイトがよいのか。

SNSがよいのか。

YouTubeがよいのか。

noteがよいのか。

文章がよいのか。

動画がよいのか。

でも、オウンドメディアもSNSもYouTubeも、情報を載せる「場所」にすぎません。

場所を比較する前に、考えるべきことがあります。

誰が、誰に、何を伝えるのか。

そして、

その情報によって、誰のどんな「お困り事」を解決するのか。

です。

仕事とは、お客様のお困り事を解決することです。

これは、情報発信でも同じです。

読者は、企業の記事を読むために生活しているわけではありません。

会社が毎週記事を更新したからといって、読まなければならない理由はありません。

読者には、読者のお困り事があります。

この商品は、自分の問題を解決してくれるのか。

この会社は、信頼できるのか。

他社の商品と何が違うのか。

問題が起きたとき、どのように対応する会社なのか。

この会社で働いたら、どのような経験ができるのか。

この会社は、これからどこへ向かうのか。

そうした疑問に答える情報であれば、読者にとって価値があります。

反対に、会社が発信したいことを、会社の都合で記事にしただけなら、読者にとって読む理由はありません。

「毎週更新する」は、誰のお困り事ですか?

オウンドメディアを立ち上げると、運営目標が決められます。

毎週一本、記事を公開する。

月間のアクセス数を増やす。

検索結果の上位を目指す。

社員インタビューを毎月掲載する。

もちろん、運営上の目標は必要です。

しかし、いつの間にか、記事を公開すること自体が仕事になってしまうことがあります。

今週も一本、記事を出さなければならない。

取材できそうな社員を探す。

社内イベントを記事にする。

新しい制度を紹介する。

内容よりも、更新を止めないことが優先されます。

その結果、社内では重要でも、社外の人にはほとんど関係のない情報が増えていきます。

そこで、基本の問いに戻ります。

その記事は、誰のどんなお困り事を解決していますか?

「毎週更新すること」は、読者のお困り事ではありません。

「広報部の活動実績をつくること」も、読者のお困り事ではありません。

「他社もやっているから自社もやること」も、読者のお困り事ではありません。

それは、すべて会社側の事情です。

オウンドメディアが読まれないのは、記事の本数が少ないからとは限りません。

デザインが悪いからとも限りません。

SNSでの告知が足りないからとも限りません。

そもそも、読者が知りたいことに答えていない可能性があります。

トップの日常的な発言には、広報価値がある

会社のトップは、日常的に多くのことを話しています。

経営会議で話す。

社員集会で話す。

取引先に話す。

採用候補者に話す。

社内メールを書く。

現場を訪れて社員と話す。

そこには、本来、多くの広報価値があります。

なぜ、この事業を始めたのか。

いま、何に危機感を持っているのか。

顧客から何を学んだのか。

失敗をどう受け止めたのか。

どのような会社にしたいのか。

社員に何を期待しているのか。

トップが普段話していることの中には、完成された「社長メッセージ」よりも、会社の実像が見える言葉があります。

ところが、それらの言葉は社内だけで消費され、社外へは出てきません。

代わりに、広報担当者が新しい企画を考え、社内を取材し、記事を一からつくります。

広報担当者からすれば、言いたくなるでしょう。

「新しい記事をつくらせる前に、普段話していることを自分で発信してください」

これは、広報が仕事をしたくないという話ではありません。

むしろ、広報の仕事を、もっと価値のあるものに変えたいという話です。

広報の仕事は「代わりに話すこと」ではない

トップが自分で発信するなら、広報部は必要ないのでしょうか。

私は、そうは思いません。

トップが発信するほど、広報の仕事は重要になります。

ただし、その役割は変わります。

トップの代わりに無難な文章を書くのではなく、

  • どのテーマを発信するのか

  • 誰に向けて発信するのか

  • 事実関係に誤りはないか

  • 誤解を招く表現はないか

  • どの媒体で伝えるのか

  • 一つの発言を、記事や動画へどう展開するのか

  • 社外からどのような反応があったのか

を考える。

つまり、広報はトップの「代筆者」ではなく、

トップの言葉を社会へ届けるための、編集者になる。

ということです。

トップが話した内容を、そのまま無加工で公開する必要はありません。

短いSNS投稿にする。

背景を加えて長い記事にする。

社員との対話を動画にする。

顧客から寄せられた質問への回答にする。

報道機関に伝える。

トップが持っている言葉を、受け手に伝わる情報へ変換する。

そこに、広報の専門性があります。

それでも、オウンドメディアが必要な理由

では、トップがSNSやYouTubeで発信すれば、オウンドメディアは不要なのでしょうか。

そうとも限りません。

SNSは、情報が流れていきます。

短い言葉は広がりやすい一方で、背景や理由までは伝えにくいことがあります。

動画は、人柄や温度が伝わります。

一方で、知りたい情報を後から探しにくいことがあります。

トップの発信には注目が集まります。

しかし、会社のすべてをトップ一人が説明することはできません。

だからこそ、オウンドメディアには役割があります。

トップの短い発言について、背景を詳しく説明する。

商品や技術について、担当者が具体的に解説する。

会社の判断について、経緯や理由を記録する。

SNSでは伝えきれない情報を、体系的に残しておく。

つまり、オウンドメディアは、トップ発信の代用品ではありません。

トップや社員の言葉を、深く、正確に、蓄積して伝える場所です。

この役割があるなら、オウンドメディアには意味があります。

反対に、トップが何も語らず、会社として伝えるべき考えも曖昧なまま、広報担当者が記事だけを量産しているのであれば、必要性は疑わしくなります。

必要なのは、メディアではなく「会社の言葉」

オウンドメディアをつくることは、それほど難しくありません。

サイトをつくる。

担当者を決める。

取材をする。

記事を公開する。

予算と人員があれば、形はつくれます。

難しいのは、その場所で何を語るのかを決めることです。

会社は何を大切にしているのか。

顧客のどんな問題を解決したいのか。

社会の変化をどう捉えているのか。

なぜ、その商品やサービスを提供しているのか。

失敗や批判に、どう向き合うのか。

それらを自分の言葉で語る責任は、広報担当者だけにあるのでしょうか。

会社を代表するトップにも、その責任があるはずです。

だから、オウンドメディアの必要性を議論する前に、まず聞いてみたいのです。

あなたの会社には、トップが自分の言葉で語るべきことがありますか?

あるのなら、その言葉を広報担当者だけに背負わせる必要はありません。

トップが語り、広報が整え、さまざまな媒体を通じて社会へ届ける。

オウンドメディアは、そのための場所の一つです。

もし、トップが語るべき言葉を持っていないのであれば。

新しいメディアをつくる前に、考えるべきことがあります。

この会社は、誰のどんなお困り事を解決するために存在しているのか。

オウンドメディアが必要かどうか。

その答えは、サイトをつくる前に、すでに決まっているのかもしれません。

このnoteでは、ニュースや仕事の現場で起きている出来事を、そのまま紹介するのではなく、

どこに問いを置くのか。
その問いによって、何が情報になり、どんな意味が見えてくるのか。

という視点で読み解いています。

今回の記事で扱ったのは、オウンドメディアの必要性ではなく、会社は誰の言葉で語るのか、という問題でした。

ほかの記事でも、身近な「それって、どういうこと?」を、仕事や社会の構造が見える形に変換しています。

気になるタイトルがあれば、ぜひ続けてご覧ください。

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