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012【恋愛小説】ウタヒメユメト第三章 青山の羨望 chapter7

🪞chapter7──深層心理

ユメトにフラれることによって
突き付けられた、もう一人の青山。

“ホンモノ” とは、なんなのか。
忘れかけていた “ホンモノ愛” が
青山を走らせた。



ウタヒメユメト
ーMirror of Desireー 
青山の羨望 chapter7


ロシア系を連想させる滑らかな白い肌に、艶やかに流れる長い髪。
大きすぎず小さすぎない幅の二重には、ふっくらとした涙袋が並ぶ。
絵に描いたように尖った小さな顎と、形の整った大きめの鼻が小顔を更に小さく見せる。
唇はほんのり厚みを持ち上品に重なっているが、笑顔がこぼれると綻び、整った歯並びが、真っ白に輝く。
華奢な体型に、細長い手足が伸びているが、身長は百六十センチほど。
どこか少女のような名残を残すあどけない容姿が、彼女の聡明なイメージでバランスを崩す。
それらの全てが恵まれた、天性の才能でもある。
“一流芸能人” と言う肩書きがなくとも、誰もが彼女を振り返るほどの美貌。
青山は、憧れの女性ユメトを羨望の眼差しで見つめた。

「ユメトさん、僕と付き合ってくれませんか?」

ユメトは、なんとなく予測していた。
青山の気持ちに「なぜ?」と問いを投げる。

「ユメトさんの事が、好きなんです」

真っ直ぐに誠実に、ユメトを見つめる青山の言葉には嘘はない。
しかしユメトは青山の誠実感満載な鋼鉄のイメージの奥を、模索した。

「ごめんなさい。私はたぶん青山君を好きじゃない。それに、青山君も私を好きじゃない」

ユメトは熱い視線を向ける青山から目を逸らし、赤ワインのグラスをテーブルに置いた。青山は動揺する。
そして心なく、血のように赤いナパ・ヴァレーを回した。

「えっ?  僕は、ユメトさんが好きですよ? だから、交際を申し込んでいる訳だし…え? どういう事ですか?」
若い青年は、憧れの女性の発言を理解できない。
当たり前だ。間違いないはずの、純粋な気持ちを、否定されたのだから。

ユメトは廻る赤い液体を横目に、ワイングラスに付着した真っ赤な口紅の跡を、物憂げに眺めた。

「違うの。多分、それは違う。青山君と居ても、私は空っぽなままなの。青山君も、そう。私が青山君に見せる笑顔は “ニセモノ”
この意味、分かる?」

最後の「分かる?」には、ユメトの隠れた憎しみが籠っている。
だが、憎しみの本体は別の場所に居る。青山に向けられたモノではない。と青山も理解した。

「分かりません。ユメトさんは魅力的な人です。想像していた通りだった。完璧な女性です」

ユメトは物憂げな視線を青山に移した。情熱的な赤い唇が、不機嫌に動きだす。

「それ、それなの。私は完璧なんかじゃない。青山君が見ているのは、世間が作り上げたニセモノの私で、ホンモノの私じゃない。青山君が悪いわけじゃないの。私自身が、青山君の描くユメトに応えようとしてしまう。わたし、青山君の前だと、本当の自分になれないの。青山君が私に向ける眼差しが、私を “ユメト” にする。でも、気づいてしまったの。“ユメト” は、私じゃないって。私は、“ユメト” を演じてる。って」

吐き捨てるように言い切ると、ユメトは残りのワインを感情的になった喉を宥めるように飲み干した。

そして青山は、ようやくユメトの意図を飲み込む事を決意する。
「分かりました。前にも、そんな様なこと言っていましたね」
青山は、ユメトにフラれた事を認めた。

しかし、青山は何も感じない。
“負けた” という感覚だけが、青山を支配していた。
皮肉な事に、ユメトに完全にフラれる事によって、この恋心の本質がただの “ステータス” だったと、青山は気付かされる。

青山は、次の言葉を繋げなくなった。

「確か青山君、世間のイメージを演じる事が “ホンモノの役者” だって言ってた。それが事実なら、青山君の “ホンモノ” はどこにいるの?」

突き付けされたユメトの最後の一言で、自分が自分の中に居ない事を青山は知る。
「 “ホンモノ” はどこにいるの?」 と言う問いに、なにも答えられなかったのだ。

青山自身の理想のイメージと、世間の反応が混ざり合う。
もう長い事、好青年を演じてきた。
自分が何者なのか? なんて考えた事もなく、世間の羨望に忠実に応え続けた “時” が、青山陵を作ったのだ。


ユメトと別れ、青山は一人
銀座のショットバーでバランタイン三十年をストレートで煽った。
琥珀色の液体が喉を焼くたびに、封じ込めたはずの過去が、少しずつ融解していく。
――あの頃の自分は、まだ誰かを心から信じていた。



それは、まだ役者を目指すと決めて居なかった頃の事だ。
大学時代、付き合っていた彼女がいた。
彼女の名前は由樹。青山にとって三人目の親密になった女性だ。
青山が当時、一番に仲良くしていた男友達の彼女の親友。だった由樹は。地味でスタイルが良い訳でもなく、お世辞にも美人とは言えない普通の子だった。けれど話していると凄く楽だった。
男友達と話しているような、そんな友人関係から始まった。
由樹が自分に好意を寄せている事に青山は、なんとなく気がついていた。
とは言え 青山の周りには、キラキラ フリフリした女子達が努力せずとも集まって来る。青山は、由樹の気持ちに知らないフリをして過ごしていた。
当時、大学のミスコンで優勝するほどの美貌と才能を兼ね備えた彼女と付き合っていた。
しかし彼女は浮気をしていた。
“浮気” と言うに値するのかは分からないが、彼女は 青山に内緒で”パパ活” をしていたのだ。
「ゴハン食べるだけで、お小遣いくれるんだから、いいじゃない! 別に、そのおじさんとエッチする訳じゃない。擬似恋愛を提供してるだけなの。私だって、ブランドのバッグが欲しいの。陵に『 買って欲しい 』って、おねだりして買えるような値段じゃないのよ。そんな事で、私を責めないで!」
と。口論になった日の 夜の事だった。
ヤケになった青山は仲間たちと飲み明かした後、由樹にキスをしてしまったのだ。
憂さ晴らしでしてしまった行動だったが、“ケジメをつける為” と都合の良い理由を貼り付けると “パパ活彼女” とは別れ、由樹と付き合い始めた。
周りからは「青山とは釣り合わない」と、皆が口を揃えて話している事を知っていた。
そして青山自身も、そう思っていた。

しかし由樹と身体を重ねた瞬間から、青山は由樹に夢中になっていく。身体を重ねれば重ねるほど、由樹を求めていく青山。
説明の出来ない身体の反応に、青山は戸惑った。
由樹の真っ直ぐで健気な愛が、青山に降り積もるのだ。
それは、雪がしんしんと生命の邪気を吸い込みながら、真っ白に街を染めていくように。
そして気がついた。これが “ホンモノ” なのかもしれない、と言う事に。
青山は日々膨らんでいく由樹への愛情に、自身の処理能力が追いつかなくなって行った。
まだ若かったからだ。
“ホンモノ” とは時に憎悪を剥き出しにする事だ。由樹への嫉妬心で、支配され始めると青山の理性はコントロール不能になり、崩れ始める。
由樹と離れている時間が、苦痛で堪らなかった。
彼女の行動が、彼女が放つ一言が、胸を突き刺し痛い。
被害妄想が膨らみ、感情が抑えられなくなっていく。嫉妬の悪魔に取り憑かれると、彼女を信じる事が、出来なくなっていく。愛しているはずの由樹を憎いと、思うようになっていく。
青山は暴走を始める。
些細な事で、由樹と喧嘩が絶えなくなっていった。
最後は、苦しさの余り、自ら由樹に別れを告げた。
すべてが愛するが故の、自己防衛だった。


それから間もなく、芸能界にスカウトされた青山は、最初の朝ドラオーディションを受けた。
見事に朝ドラヒロインの旦那役をゲットした青山は、由樹との記憶を掻き消すように、演技に夢中に、なっていった。

──そういえば、あれからずっと。
あんな風に全身を掻き乱されるような恋愛に、溺れていない
──

次の瞬間、青山は由樹の元へ 走っていた。

 第三章 ウタヒメユメトーMirror of Desireー END

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青山の物語を最後まで、読んでくださり
ありがとうございます♡
この物語は最初から、ユメトの運命の相手は決まっていました。
青山はこの物語のなかで、ヒロインにフラれるイケメン俳優でした。
けれど、描きながら。
青山のキャラクターを見捨てられず、意図せず昇華させてしまいました。
しかし。結果的に、すごくお気に入りのシーンになりました|ω・)♡

――次回、第四章。孤独なユメトが、ようやく報われる章です。
めげずに、お付き合いください。(*ノωノ)♡ふごふご

↓↓↓🎤第13話はこちらからどうぞ


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