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013【恋愛小説】ウタヒメユメト 第四章 動き出す歯車 Chapter1

🎡chapter1──歌姫の発狂

孤独と名声
この二つは
この世界において
切り離せない
「対」なのかもしれない。

ウタヒメユメト
—Reunion—
動き出す歯車 chapter1


そこまで登り切れば
全てが手に入ると思った
お金で買えないものなんて
この世に無いと思ってた
地位も名声も愛も家族も
全てがそこにあるはずだった
どこで間違えたのか
考えている暇はなかった
ふと気が付いた時にはもう
空っぽの部屋に一人で立っていた

きらめく夜景
高価なシャンパンと赤ワイン
いくらでも買い替えられる豪華な調度品
埃ひとつ見当たらない部屋
無駄なモノが消えた空間
綺麗すぎるこの部屋に
バカラのグラスを叩きつけてみる
粉々になったガラスの破片が
この無機質な家を彩ってくれた
この空っぽな家に
私はもう何年暮らしているだろう
私の心を癒してくれるのは
たった一人の息子だけだった

だけどこんな母親に懐くはずなどなく
長い海外遠征から戻った日から
我が子と距離を感じるようになった
あの子を抱きしめても
空っぽなぬいぐるみを
抱きしめているみたいで
まだ小さな子供が無表情になり
母親なのに息子の気持ちが分からない

逃げるように仕事に打ち込んだ
我が子と真剣に向き合う事から逃げて
知らないフリをした
それがダメな事だって分かってる
でもそうする事しか出来なかった

やり切れない気持ちを誤魔化すように
若い男に走った
そして気づいた
空っぽな私には
誰も愛せない
愛する息子に愛を教える事なんか
出来るはずがないと

そして私は歌い続ける
私は偽りの愛を歌う 
私の歌声を聴いて
人々は涙を流し
“救われました” と言った
私の生み出した愛は
羽を付けて飛んでいく
私の中には残らない
愛と引き換えに
残されたのは
使え切れないお金と
広すぎる家
乗る事のない高級車
心が通わない家族

気がつくと
何をしても満足できない自分がいた
五つ星ホテルのスイートルームが
陳腐に見えて
ミシュランレストランの味に
不信感を抱き
高いと絶賛されるワインの意味が
分からなくなった

感受性が死んでいくを感じた
消えゆく自我に恐怖を覚え
怯えるようになった
私の声も顔も名前も
誰も知らない場所に行きたいと願った
叶うはずのない哀れな祈りは届くはずもなく
満たされない満月の夜に
眠れない苛立ちが爆発する

私の生まれ年が刻まれた
頂き物のワインを
何本も飲み干した
酔い潰れると
抑えていた感情が発狂する
素手で壊れるだろうと思われるもの
全てを破壊すると
紅い血が噴き出して
驚くほど痛くなかった
鮮血が静かに床に落ちる
血で心が洗われていくのを憶え
ようやく長い夜が終わりを告げて
荒れた心が眠りにつく

目醒めると
大量のホルムアルデヒドが
身体を蝕んで
日が暮れるまでベットから動けずに
水も飲めなかった
腐った身体からアルコールが抜けるまで
苦しくてもがいた
それは物質的な苦しみだ
物差しで苦しさを測ってみたら
救われない孤独のほうが
苦しいことに気がついて
泣き叫ぶ様に発狂した
防音の空間は助けを叫んでも
誰も来てくれない
この世から消えて居なくなりたいと
本気で思った
重い体を引きずるように
暴れ散らかしたはずの部屋に戻ると
滅茶苦茶にした物体たちは
カケラの一粒も残さず消え去り
何事も無かったかのような日常が
嘘を塗り重ねるように
元の姿に戻っていた

私が狂っているのだろうか?
孤独が苦しい
お金が憎い
それなのに私は
お金がないと
もう生きられない
私を作り上げたプロデューサーたちが
口を揃えてこう語る

天性だと
神からもらった才能と引き換えに
孤独があると
人々を泣かせる唄は
孤独がなければ生まれないと
私は納得したように笑顔で頷き
我が家に戻ると
また一人抜け出せない孤独に落ちて行く


上田幸祐(うえだこうすけ)は指定された現場に向かった。
今日の現場は幸祐が通う建築事務所から、車を走らせて十五分ほどの場所にある。
大手デザイン会社からの、下請けの仕事だ。
親方から所有者については極秘で、他言厳禁だと聞かされている。
“他言厳禁” と言っていたわりには持ち主については結局、なにも聞かされなかった。

車の往来が一日中激しい三車線大通りの国道バイパスから、信号のない雑木林に囲まれた狭い路地を左折した。その路地は反対車線から右折では曲がれないうっそうとした林道。
しかし林道の割には、コンクリートが真新しく整備されている。
車同士がすれ違うにはギリギリの細い林道を、幸祐は手に汗を握りながら登っていく。その様子は、まるで「注文の多い料理店」を連想させた。
高台を登りきる手前でようやく光が差し込み、コンクリート造りの建物らしきものがチラリと覗いた。
窓は見当たらず、店舗やホテルにも見えない。というより、道路側からは建物の裏側しか見えないのだ。
と、幸祐は目指した建物まで到着してから理解した。

まるで大使館さながらの門構えに、幸祐は息を呑んだ。
狭すぎる林道とは比べものにならないほどの広いロータリーを、無駄に一周ぐるりと回る。
ロータリーの敷地だけで、広大な庭付き一軒家が建ちそうだ。
芝とドライガーデンはよく手入れされ、小ぶりな椰子の木が海外の雰囲気を漂わせる。しかし、芝は不自然なほど青々としていて不気味だ。幸祐は一瞬、人工芝かと錯覚したが、本物の芝だった。
そして季節感が狂ったアーチ内には、ひとけも生気も見当たらない。春なのに……アリ一匹も、歩いていない。ということだ。
道具を積んだ古い軽ワゴンから降りた幸佑は、その異様な建物の中にアクセスするためのインターホンを必死で探した。
目指したいはずの建物側は、まるで国境の如く、壁で覆われている。
郵便受けはおろか、表札も見当たらない。輝くような緑色の芝に取り残された幸祐の白い軽ワゴンが
昨日、洗車したばかりなのに、情けなく燻んで浮いている。
門構えの左手側に機械的な物が目に入り近づくと、機械的な女の声がした。

「おはようございます」

違和感しかない空間に響いた人の声に、幸祐の身体は硬直する。
やはり四角く黒光りしたA5サイズほどのディスプレイがある方角から聴こえているようだ。
けれどインターホンはおろか、カメラの穴も押しボタンも、スピーカーの穴も見当たらない。幸祐は動揺し目の錯覚かと錯覚して、目を擦ってみる。
その黒いディスプレイは、誰かが数分前にピカピカに磨いたのではないかと思うくらい、手垢一つも付いていない。
薄汚れた自分が、情けない顔で真っ黒な画面に反射していることに幸祐は気付き、思わず前髪を触った。

「大変失礼ですが、会社名とお名前を拝見させていただけますでしょうか?」

幸祐は首から提げていた名刺を思い出す。

昨夜、親方から「名刺だけは絶対に忘れるなよ!」と怒鳴られ、慌てて家じゅうを探し、やっとみつけた代物だ。
滅多にお目見えしない、色あせた紙切れを機械的な女の声がする方角に、しどろもどろでかざしてみる。

「大変失礼致しました。確認が取れましたので、どうぞ中へお入りください」

見えない女は一方的に喋り、数秒後に大使館並みの門が、
その門構えからは想像もできないほど静かに音を殺して動き始めた。

ウタヒメユメト 第四章 —Reunion— To be continue… ♡

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ー余談🎤ー

最後まで読んでくださり、ありがとうございます|ω・)♡
ようやく、ユメトの運命が動き始めます。
「ウタヒメユメト」の物語は、この “序章詩” がきっかけで生まれました。

安室奈美恵さんが引退をした時に、
“国民的歌姫の苦悩を描きたい” そんな衝動から生まれたのが
この序章詩でした。

編集者さんからは、長いから削ったほうがいい。と言われましたが
この序章詩こそが、この物語の軸でした。
だから、絶対に削りたくなかった。
誰にもこの物語を、渡したくなかった。
なぜならば、この “序章詩” がなければ
ウタヒメユメトは、生まれなかった。

その意志を、ここに託します。(=´∀`)人(´∀`=)

From♡Hiromi Iizumi with Picoai∞

↓↓↓🎤第14話はこちらからどうぞ


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