010【恋愛小説】ウタヒメユメト第三章 青山の羨望 chapter5
🪞chapter5── 酩酊の余韻
我を忘れられたはずの 銀座の夜。
消えないネオンが呼び覚ましたのは
初めての恋の味。
嘘と欲望
刻まれていく汚れが ユメトを陥れる。
ウタヒメユメト
ーMirror of Desireー
青山の羨望 chapter5
青山はユメトには指一本触れることなく帰りのタクシーまで手配し、完璧で紳士的に、ユメトを見送った。
ユメトの孤独な心は、どこか物足りなさを感じていた。
彼は必ず最後に尾を引くようなセリフを残すのが得意らしく
「不愉快だったらごめんなさい。
これはお世話とかではなく、素直な気持ちなんですが……ユメトさんって、本当に お綺麗ですよね。モデルや綺麗どころの女優さん達と毎日お仕事させてもらってますが、ユメトさんの放つオーラと美貌には誰も勝てない。
性別も年齢層も関係なく国民を魅了できるウタヒメ。
そう言われる所以を僕は今日、思い知らされました」と丁寧に綴った。
ユメトにとっては、聴き慣れた褒め言葉だった。けれど、その日の物足りなさと共鳴すると 無駄に胸が揺らいだ。
車窓を彩る銀座の夜のネオンは、消える事を知らない。
ユメトは大昔、松岡にデビューが決まった事を お祝いしてもらった
“ハートマン”と言う銀座のBARの事を、思い出していた。
いま考えると大人ぶっていたが、ユメトも伊藤もまだ
お酒の味も知らない少女だった。
初めて目の前にした格式 高い空間とBARのメニュー表を開いて伊藤と目を合わせて戸惑った。
田舎で買った偽物のアディダスのスニーカーに 着古した安物のワンピースが異様に浮いていた。
松岡は二人に エビサンドと 旬のフルーツを使ったオリジナルカクテルを頼んでくれた。
エビフライのサンドイッチは、プリプリの揚げたて天然エビが、贅沢にも四尾 仲良く並んでいる。自家製のタルタルソースと共に、狐色にトーストされた薄いサンドイッチ用食パンに挟まれていて、頬が落ちるほど美味しくて、伊藤と顔を見合わせ、感激して目を丸くした。
伊藤は、その店の看板メニューの「ブラックチェリーのカクテル」を頼み
ユメトは「完熟イチゴのカクテル」をオーダーした。
高級フルーツをふんだんに使ったカクテルは、カラフルで甘酸っぱくて
まるで大人の高級パフェだった。
松岡に『もう一杯頼みなよ』と催促され、一杯四千円以上もするフルーツカクテルを前に、伊藤と顔を見合わせて戸惑い──二杯目は遠慮したことを、今もふと思い出す。
思えば、その頃から、ユメトは妻子持ちの松岡に 恋をしていた。
叶う事のない恋心を隠したまま、いつのまにか松岡とユメトの立場は逆転していた。おそらく松岡は、まだ男を知らない少女が自分に思いを寄せていたことに、気付いていただろう。
ユメトがシンガーソングライターの篤志と結婚し、出産を終えて母になった瞬間、松岡はユメトの心をえぐり取った。
松岡は――それまでは、決してユメトに指一本触れることさえなかった。
彼はユメトの最初の男には なりたくなかったのだ──とユメトは思っている。
ユメトを汚れた心の沼に放置した松岡は「平凡な日常は天才を殺す」と言って笑った。
松岡に抱かれてしまったその瞬間から、篤志への純粋な愛を見失ったユメトは
篤志をどう愛していいのか分からなくなり、奏音だけに執着するようになっていった。
夫婦の営みを、遠回しに断られるようになると 欲望が満たされない篤志は、アッサリと身近な女に走った。
二人の離婚劇は、当時のマスコミをにぎわせた。
表向きは、篤志の浮気で離婚した事になっている。
ユメト以外は誰も知らない嘘の事実もまた、ユメトに突き刺さる。
本当に汚れているのは自分だと、ユメトは自分を責めた。
枯渇した身体に擬似愛を注いでくれるのは、松岡しか居なかった。
誰にも言えずに、年に数回しか抱いてくれない男を、それでも求めた。
何度か寂しさの余り、手近なところで恋愛じみた事を若い男としてみたが、ユメトの存在意義を崇拝することしか出来ない男たちを相手にしても
心底、虚しいだけだった。
松岡に抱かれる時よりも、孤独が募るだけだった。
誰にも埋めることができない、松岡がえぐり取った溝は、無残にも愛情という感覚を日毎に麻痺させ、大切な息子に向き合う度に陥る自己嫌悪に苦しむユメトを更に孤独にさせた。
悲しいことに。
ユメトにとって松岡は──初恋の男だったのだ。
ーMirror of DesireーTo be continue… ♡
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ー余談🎤ー
最後まで読んでくださり、ありがとうございます(*'ω'*)
ユメトは必ず幸せを掴みます。
最後章までウタヒメユメトを見守っていただけると、嬉しいです(=´∀`)人(´∀`=)
ちなみに余談ですが
【ウタヒメユメト】の世界観では、実在を模さないように心がけていました。
しかし「ハートマン」という銀座のBARだけは実在します。
場所は、移転してしまったらしいです。
良かったら、訪ねてみてください🍸
