003【恋愛小説】ウタヒメユメト第一章 政界の蜘蛛の巣 chapter3
🕸️chapter 3 ── 正直者は救われない
蜘蛛は風の強さを読み、
何度でも巣を張り直す。
人もまた、欲と恐れで同じ巣を編む。
政界の糸が張り巡らされる中、神は静かに笑う。
──「正直者は救われない」と。
ウタヒメユメト
─ The Spider’s Web ─
政界の蜘蛛の巣 chapter3
もう、降参の合図が出された。
「まさか、政治のイロハも分からない小娘に本気で政治ができると思っているのかい?
ユメト君は、我々が用意した椅子に座ってくれればいいだけの話。
学歴なんか誰も気にしていない。
頭のいい人間なら分かる問題だ。
返事は来週まで待とう。……確か、今月末に新曲を出すとか言っていたね。おめでとう。
無事に発売できるといいが……。
我々に逆らうのか、大人しく従うのか、一週間、もう一度ゆっくり考えて返事をくれたまえ」
勝敗は決まった。
しかし敗北の真相を、ユメトは言葉にできずに青ざめる。
二人は成宮幹事長の部屋から退陣する。
何も知らない伊藤が、不機嫌に呟いた。
「何? あの古ダヌキ。急に強気に出てきて、一体なんなのよ。
ユメト、あなたいま付き合ってる人いるの?」
ユメトは、忍び寄る恐怖の色を隠せないまま、小さく呟く。
「……いまは……いない……」
伊藤はユメトの不安を汲み取れないまま、別の行き先に向かい出した。
「青山陵は独身だし、まさか幸祐さんの存在に気づいてるとか?
いや、だとしても幸祐さんだって既婚者とはいえ、奥さんはもういないから関係ないか……。
昔の男のことでも引っ張り出すつもりかしら? なにか心当たりはある?」
「いや、ないけど……。
それに青山君にはこの前、告白されてお断りしたの。
だからもう会う予定はないよ?」
事実を都合のいい事実だけで上塗りすると、ユメトの心は少しだけ軽くなった。
「だよねー。あのクソダヌキ、一体何をでっち上げるつもり?
あー、マジで腹立つ〜。ムシャクシャしてきた。
ユメト、帰ったら飲み直しね。
今日のところはクソダヌキの手下から見張られているかもしれないし、さっさと帰るわよ?」
──壮大に張り巡らせた蜘蛛の巣は、獲物を捕えるための蜘蛛にとっての命綱。
彼らは巣を張る前に風の強さと風向きを計測し、
まず初めに三角の網の輪郭をつくり、放射状に糸を張り、
最後に渦巻き状に組まれた糸を紡ぐ。
懸命に作り上げる精巧な網目状の六角形は、誰が教えたわけでもなく、
自然の摂理によって六角形と決まっている。
しかし獲物はそう簡単にはかからない。
美しく張った巣は、風と夜露で努力むなしく壊滅すると、
蜘蛛は翌日もまた同じ場所、同じ時刻に、同じ型の巣を張るのだ。
我々人間もまた、同じ生き物だ。
目的の獲物がかからなければ、新たな巣を張り、待ち構える。
それは本能であり、人類の文明の成り立ち。
貪欲に欲しいものを追いかける。
獲物を捕らえ、食い尽くす。
食うか喰われるか。
頂点までたどり着いたあかつきに待ち構えているのは、血生臭い争い。
そして神は言った。
──「正直者は救われない」と。
第一章 ─ The Spider’s Web ─ END
