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僕とニャンゴスターが結んだ悪魔のトレード 第2話 「腐った感情」【全10話】

🎧 サントラ小説
再生できる方は、本文と一緒にお楽しみください。


【僕とニャンゴスターが結んだ悪魔のトレード】
第2話
腐った感情


お父さんは朝早く仕事へ出て、しばらくするとお母さんも仕事へ行く。
僕は朝食後に三十分以上ベッドで休んでから、勉強机に向かう。

今日の課題は算数と習字。
十時からオンラインで算数の授業がある。
そのあとは復習として算数のドリルを片付けて、十二時にお母さんが用意してくれた昼ご飯を食べる。

午後は再びベッドに戻って、ニャンゴ君と軽く昼寝をしてから習字の課題を片付けた。
漢字三文字、好きな言葉を書いていいとのことだったから、僕は「野良猫」と書いてニャンゴ君に見せてあげた。

ニャンゴ君は目を細めて僕の書いた「野良猫」を見ると、思いっきり知らんぷりした。
きっと恥ずかしいんだろう。
僕だって、友達が僕の名前を書いたら恥ずかしい。

今日の天気は晴れ。
冬の間、土の中でくすぶっていた種が目覚め、新しい葉っぱが芽吹く。
緑色の始まりの季節。

お隣さんの庭に植えられた、薄いピンク色の八重桜が今年も満開だ。
僕んちの芝の庭にも、八重桜の花びらがたくさん落ちている。

四月のカレンダーが、もうすぐめくられる。
世間は来週からゴールデンウィークだと騒いでいて、でも僕には、これまでもこれからも関係なかった。

春になるとウキウキした気持ちになると、本に書いてあった。
ウキウキした気持ちって、どんなだったかな。

梅雨の時期はジメジメして、気持ちもジメジメするとか。
僕の気持ちはずっとジメジメ。
晴れていても雨が降っていても、何も変わらない。

夏になると身軽になって浮かれてしまうって、誰かが言っていた。
同じ年頃の子たちは夏休みになると、家族みんなで飛行機に乗って遠くへ遊びに行くらしい。
青いプールも、白い砂浜も、森でのキャンプも。
浮かれられない僕には縁のない場所。

僕は秋が大好きだ。
僕の心みたいに葉っぱが暗い色に変わって、地面を埋め尽くす。
どこか寂しい感じが、僕の心を少しだけ癒してくれる気がした。

僕の街に雪はあまり降らない。
だから冬の楽しみはクリスマスくらいしかない。
でもサンタさんは僕のお願いを叶えてはくれなかった。
だから、もうサンタさんに手紙を送るのは去年からやめにした。

お母さんが「お願い事じゃなくて、おもちゃとか“物”じゃないと、サンタさんも届けられないんじゃない?」と言っていた。
確かにその通りだ。

でも、欲しい物なんかない。
欲しい物が、もう思いつかない。

文字が書けるようになってから、僕が毎年サンタさんにお願いしたこと。
「毎日、学校に行きたい」

別に特別なことをお願いしたわけじゃない。
みんながしている当たり前のことなのに。
ただそれだけなのに。

雨に濡れるニャンゴスター


夕食の時間。
今日は珍しくお父さんも早く帰ってきて、一緒にご飯を食べた。

今夜のメニューは、お母さんの手作りハンバーグ。
ソースは醤油と砂糖とにんにくを使った、ガーリックソースの和風ハンバーグだ。

半熟の目玉焼きがのっていて、甘辛いハンバーグにからめて食べる。
焼いたきのこ、ブロッコリー、にんじんは、そのままだと美味しくないけど、ガーリックソースをたっぷりかけると食べられる。

僕は先に嫌いな野菜を片付けて、ハンバーグは最後にいただく。

ハンバーグをひとくち食べたところで、お母さんが言った。
「今年から家庭教師の先生に来てもらって、お勉強を見てもらったほうがいいんじゃない?」

「家庭教師なんかいらないよ」
僕はお母さんの意見を投げ捨てた。

「でも来年は六年生でしょう? 今まで遅れてきたぶんも、しっかり復習したほうがいいでしょう?」

こんなとき、お父さんはお母さんの味方だ。
「そうだよな。お母さんの言う通り。家庭教師の先生なら中学の予習だって教えてもらえるかもしれないだろ?」

「最近はオンライン授業も充実してるし、一人でできるから。これまでだって僕一人で勉強してきたんだ。それに……」

中学にだって、どうせ登校できないんでしょ?
とは言えなくて、唾を飲んだ。

お母さんが僕の異変に気づいて繋ぎを探し出す。
「暖かくなってきたし、また登校許可が下りるかもしれないから。お母さん、来週の診察で先生に相談してみるね」

まただ。
お医者の先生からの登校許可なんかいらない。
意味がない。だって無理なんだ。

僕はあの遠い教室まで、どうせたどり着けない。

学校まで、お母さんが車を出してくれたとして。
校門から広い校庭を横切って、昇降口までの数段の階段を登る。
下駄箱で靴を履き替える。

それから五年生の教室までの長い道のりが、一番長い。
五年生の教室は三階にある。

その途中できっと胸が苦しくなって、結局僕が運ばれるのは保健室なんだ。
名前も知らないクラスメイトが、みんなで僕を見ている。

正義感たっぷりの先生たちが、
「無理するなよ」
「頑張らなくていいぞ」
って、また言ってる。

無理しなきゃ。頑張らなきゃ。
僕はあの遠すぎる机までたどり着けないのに。

重たくなった空気を誤魔化すみたいに、お母さんが話を変えた。
「あ、そうそう。去年、小児病棟で一緒だった和也くん。和也くんのお母さんから今日連絡があってね。今年度からお父さんのお仕事の都合でアメリカに行くらしいの。ぜひアメリカまで遊びに来てねって」

僕は黙った。

和也君……。
彼はどこか有名なサッカークラブのエースで、試合中に骨折して僕の隣のベッドに入院してきた。

同じ学年だったから、たまに一緒に勉強しただけで、別に友達じゃない。
和也君は中学生みたいに大きな身体で、真っ黒に日焼けしていて、真っ白な歯がキラキラしてた。

彼のところには沢山の友達がお見舞いに来て、僕より後に入院してきたのに、僕より先に退院していった。

お母さんは空気が読めない。
お父さんは気づいてるのか気づいてないのか、コップに残った泡なんか一粒も残ってないぬるいビールを黙って飲み干す。

「そういうの、もういいよ。
お父さんとお母さんに、僕の気持ちがわかるわけないよね。
もう、やめてよ……」

そのとき僕は吐いてしまった。
心にたまった毒を消化できなくて、吐き捨ててしまった。

僕はお父さんともお母さんとも目を合わせられなくなって、フォークを握る手をゆるめた。
僕のために懸命にこねられたハンバーグが、もう喉を通らない。
炊き立てだった白いご飯が、もう冷めている。

銀製のフォークが真っ白な外国製のお皿に当たると、悲しい音がした。

僕は下を向いたまま立ち上がって、「ごちそうさま」とだけ言った。
今できる精一杯の気持ちを振り絞って。

ニャンゴ君が待っている真っ暗な自分の部屋に、逃げるように戻った。
そして電気もつけずに、ベッドに倒れた。

ニャンゴ君がタワーから降りて来ない。
いつも僕がベッドに入ると必ず降りてくるのに、今日はいつまでも降りて来ない。

きっと僕の心が腐った毒に侵されていることに、ニャンゴ君も気づいてるんだろう。

忘れかけていた、忘れようとしていたはずの和也君の存在が、僕を毒の闇に落とす。
和也君は何も悪くない。
それどころか悪いところなんてひとつもない。
キラキラしていて、とても良い子だった。

そうだよ。
和也君が、いい奴ならいい奴なほど僕は腐っていく。



だって、そんな子たちと比べられるのが、この世で一番の苦痛だった。

お父さんもお母さんも、僕が退屈しないように欲しいものは何でも買ってくれた。
それなのに僕は、もうゲームもアニメも漫画も児童小説も動画も、全部飽きてしまった。

だって、思うんだ。
ゲームをしていて——こんな風に戦えたらって。
アニメを観ていて——こんな風に飛べたらって。
漫画を読んでいて——こんな風にスポーツができたらって。
児童小説を読んでいて——こんな風に友達と冒険ができたらって。
動画を見ていて——こんな風に自由に生きられたらって。

比べても意味なんかないのに、比べてしまう。
みじめで、苦しくて、つらくてたまらない。

だって、どれも僕には叶わない。
今までの僕にも叶わなかったけれど、これからの僕にも叶わない。

お母さんは「きっといつか」って何度も言う。
病院の先生は「希望はあります」って言う。
僕だって「きっといつかは」って本気で願っていた頃もあった。

でも、いつかは、いつまで経っても現れてはくれなくて。
僕の元に訪れるのは、希望じゃない。
絶望だけ。

何回も何回も絶望を味わって、僕は知った。
希望を持てば持つほど苦しいってことを。

だから、いつの日か諦めることを覚えて。
そしたらすごく楽になった代わりに、感情が消えてしまった。

子どもらしいとか、大人が言う感情が、どこかに埋もれてしまったんだ。

いろんなことがぐるぐるめぐって、久しぶりに涙が出た。
和也君と自分を比べてしまう。
再び突きつけられた絶望で胸が苦しい。

でも、苦しいのがつらいんじゃない。
悔しいんだ。

誰もわかってくれない。
わかるはずがない。
涙が止まらない。

忘れたいのに。
忘れたはずなのに。

涙で視界がにじんでいる。

今夜は満月。
高くのぼった月明かりが窓から注ぐと、キャットタワーの一番上で座っているニャンゴ君を照らした。

モフモフの毛が、大トトロみたいなシルエットを描いてる。

自然と涙が止まって、視界が鮮明になっていく。

ニャンゴ君の真っ黒な、まあるい瞳が僕をじっと見下ろしていた。
釣り上がった大きな目が、二つ。

次の瞬間。

月明かりがニャンゴ君の瞳に反射すると、二つの大きな目が突然光った。
光と共に、甲高い声が僕の頭の中だけにこだまする。

「お前、腐ってんニャ」

「え? なに? え? 誰?」

「俺だニャ。ボロ雑巾で悪かったニャ」

つづく🐾

↓↓↓ 第3話「トレード成立」



-もふもふ🐾余談-

ニャンゴスターはお上品にお座りしているとシルエットがトトロになります😳

大トトロの大あくび
キャットタワーのハンモックから激写

モッフモフのニャンゴスターは
白髭の中にレアな黒髭が何本か生えています。

手足と目の周りと唇は真っ黒🐾

次回予告…第三話

いよいよ、僕とニャンゴスターの悪魔のトレードが成立🐾します。
ニャンゴスターが少年とトレードするのは…👀です✨
えー、ドユコトー😳??


adiós♡

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