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005【恋愛小説】ウタヒメユメト第二章 赤坂の誘い chapter2


🕸️ chapter2── 幹事長の思惑

赤坂の夜、成宮幹事長が
コバンザメを引き連れて現れた。
華やかな席に潜む思惑。
歌う事しか知らない歌姫への
政界からの招待状。



ウタヒメユメト
— Night in Akasaka —
赤坂の誘い chapter2


成宮幹事長は、秘書や議員仲間を五人ばかり引き連れ、大名行列のごとく現れた。
中身の入っていないお世辞が飛び交う。
歯の浮くような言葉を、ユメトはあしらうのが得意だ。伊藤はユメトのそんな特技を、いろんな意味で尊敬している。

議員秘書が、伊藤に訪ねた。
「ユメトさんの芸名は、マネージャーの伊藤さんが考えたそうですね」
「えぇ、そうなんです。けれど文字表記を考えたのは、私ではなくユメト本人なんですよ」
「ほぉ。どういう意味が 込められているんですか?」
ユメトは一息つくと、まるで台本を読み上げるように語り出した。
「唄は 一人で歌うものじゃないです。ファンが私の歌声を聴いて、唄と観客が一体になった時、その空間にだけ 同じ方向へ進む小さな世界が生まれて シンクロが起きます。その瞬間を大切にしたい と思って、YOU・ME・TOO── “ファンのみんなと私自身と共に” という願いをこの名前に託しました」

「ほぉ、素晴らしい感性ですね」
「どうなんでしょう? 当時は音楽事務所からもプロデューサーからも猛反対されましたし、デビューした頃は 曲名だと思われることが多くて、名前が 広く認知してもらえるまでは 苦労しました」

「実は 今日ここに居るメンバーに集まってもらったのはだね……」
話の盛り上がりのタイミングを見計らっていた成宮幹事長が口を開いた。

ようやく古狸が 本日の目的を語りだす。くだらない褒め合いは見せかけで、これが本題だ。

「私はね、以前から思っていたんだが、ユメト君の世界観を 政治に役立てたいと考えているんだ。君の果てしない創造力と 素晴らしい魅力で、日本を変える手伝いをしてくれないか?」

成宮幹事長の突然の要望に ユメトと伊藤は驚き、箸が止まった。戸惑う二人を無視して、成宮は続ける。

「ちょうど ユメト君の住んでいる神奈川四区の、次期参院選の国民党枠が空いているんだよ。我が国の投票率は 年々下がるばかり。ユメト君のような英雄が 政治の世界で輝いてくれたら、間違いなく投票率も上がり、若者の政治離れも 改善に向かうだろう。今の時代に必要なのは 政権交代だよ。ユメト君が仲間になってくれれば、間違いなく風向きは こちらに傾く。これからの新しい時代をつくる 日本のためでもある。君の顔を ひとつ貸してくれないか?」

ユメトは戸惑いの色を塗り替えるように 適切な返事を練り上げる。
「えっとぉ……。とても光栄なお話しですね。しかし、政治活動となりますと、事務所の社長とも、契約中の企業とも、レーベルとも相談しないとお返事できない案件になります。恐らく、契約している企業のイメージもありますし、現状は厳しいと思います」
と 曖昧に断りの意思表示を示したが、想定内とばかりに 余裕で頷く幹事長は、ユメトの意思など聞いてはいない。

「彼は、現党首の初投票時にも大活躍した、我が党の 大変優秀な秘書なんだ。彼を君の秘書に付けることで 話はまとまっている。難しい政治の仕事は すべて彼に任せれば、君は 歌の仕事を今まで通り 専念してもらって構わない。ユメト君の事務所の社長は、問題ないよ。彼と私は 30年来の付き合いだからね。私のほうから、君たちの社長には説明させてもらうよ。ユメト君の聡明なイメージと、世界に認められる素晴らしい才能は 日本の財産でもある。我が 国家民主党の強力なメンバーの一員として 是非とも迎え入れたいんだ。ユメト君を慕うファンの清き一票を、私たち政治家と国民に希望を与えてくれないか? 選挙は来年の秋だ。返事は急がない。ゆっくり 考えてくれたまえ」

そして、成宮幹事長は 口角を豪快に吊り上げ、
不自然なほどに真っ白なインプラントの歯を覗かせて大声をあげた。

「これからは、女性の時代だ。いずれユメト君には党首になってもらう未来も想定している。国民的歌姫が、総理大臣になる日には、きっと国民からの絶大な支持を仰ぐだろう。……なんて、妄想も。おもしろいだろう、諸君?
ガハハハッ!!」

静かな赤坂の夜に、
成宮幹事長とコバンザメたちの笑い声が、不気味に木霊した。

 — Night in Akasaka — END
006 第三章 ー青山の羨望ーにつづく…

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