006【恋愛小説】ウタヒメユメト第三章 青山の羨望 chapter 1
🪞chapter 1 ── 憧れのウタヒメ
全国ツアーコンサートの最終日。
大物演歌歌手の北見五郎が
人生の成功者たちとともに
歌姫の登場を待っている。
そこに現れたのは
人気若手俳優 青山 陵。
ウタヒメユメト
— Mirror of Desire —
青山の羨望 chapter 1
応接室は、北見五郎様 専用の宴会場のごとく賑わっていた。
北見の他にも著名人が集まり、伊藤が事前に手配していた五つ星ホテルのオードブルと高級酒を囲み、歯の浮くような会話を繰り広げながら成功者たちはユメトを待ち構えていた。
「ユメト君に今回 紹介したかったのは、こいつなんだ」
そこには、人気急上昇中の 俳優がいた。ユメトも顔を見たことがある。
「はじめまして。俳優の青山陵(あおやま りょう)です。子供の頃から、ユメトさんの大ファンでした」
若く、高身長で 鍛えた身体に、面長で整った 女性的な顔立ち。
誰もが認める 美しい容姿を兼ね備え、自信に満ちあふれた青年は
「今日のコンサート、本当に感動しました。最前列を用意してくださり光栄です。ありがとうございました」
と、ユメトに向かって深々と誠実に頭を下げた。
青山の様子に北見は 意味深な笑みを浮かべ、紹介文を盛りつけた。
「青山はな、私の事務所でミュージカルもこなせる 歌って 踊れる 人気俳優なんだ。今どきの若者では珍しく 律儀で付き合いの良い奴でな。酒も強いんだよ。ユメト君の大ファンらしくてな。撮影で忙しい中、オフを取って今日は 駆けつけてくれたんだよ」
北見のエールに、青山は謙遜し 視線を一瞬だけ曇らせた。
「そんな僕なんか、お二人に比べたら……まだまだ これからです。
……それに、北見さんからの 夜のお誘いは 良い意味で 誰も断れませんよ。
でも、今日は特別です。この世界で いつかユメトさんにお会いできる日を、僕は 待ち望んでいましたから…」
青山は、北見と同じ 紅茶色のブランデーを飲んでいた。おそらく いつも目上の人物に 合わせるタイプなのだろう。
青山の素直な想いに耐えきれず、彼の手に収まる ロックグラスへ、ユメトは視線を逃してしまった。ユメトには、彼の熱い好意が眩しすぎたのだ。
いびつな形のロックアイスが、不規則に揺れるのをユメトは空返事で見つめた。
不可思議な沈黙に、北見が割って入る。
「ユメト君も なかなかの酒豪なんだぞ?
昔はよく朝までハシゴして、あちこち連れ回したんだよ。
それが今じゃ、彼女の方が大忙しだ。今度 三人で 酒を酌み交わしたいものだな」
「ぜひ、よろしくお願いします!北見さんと 渡り合えるなんて、ユメトさんは お酒が お強いんですね。僕なんか、最後はいつも お茶で誤魔化していますよ?」
ハキハキと饒舌なセリフを並べるように 語る美青年は、誰から見ても 国民的歌手のユメトに ご執心のようだった。
「大ファン」だと熱弁したのは まぎれもない事実なのだろう。
「このあとのスタッフ打ち上げに、私も ぜひ参加したいんだがね。今日は妻の誕生日なんだよ。申し訳ないが、今日のところはこれで帰らないといけないんだ。そこで青山君を 頼めるかな?」
お世話になった北見の提案を ユメトは断れるはずがない。
ユメトはニッコリと微笑んで、冷静に丁寧に対応する。
「えぇ、もちろんです。青山さんが 打ち上げにいらしてくれたら、会場も華やかになります。ダンサーの女の子や 女性スタッフも とても喜ぶと思います」
「ユメトさん、次は何を飲みますか?」
先ほど 出会ったばかりの青年が、ユメトに付き添い、手取り足取り 世話を焼いている。とは言え 美しい青年は 主役の歌姫とは 絶妙な距離感を守りながら行動しているようだ。
ユメトに話し相手が居れば 姿を消し、他のスタッフ達と親しげに会話して 場を盛り上げ、ユメトが一人になると すかさず駆けつけて 場を繋ぐ。
北見がゴリ押しする青山は、芸能界の大御所 北見五郎が「お気に入りの後輩」と称するほどの人柄だった。
空間 全てに気を配り、イヤミなく行動できる人物なのだ。
しかし、彼の時折 見せる野心が ユメトの心の潮を引かせる。
「青山君。どうもありがとう。私の事は 気にせず 楽しんで?」とユメトは青山に伝えたが、青山は「主役なんですから、ユメトさんが 心から楽しまないと。そうだ、僕のことを付き人とでも思ってくださいよ」
とユメトを誰よりも気遣った。
青山は 打ち上げが終わる少し前「それでは僕は お先に失礼しますね」と爽やかにユメトに別れを告げ、軽やかに立ち去ろうとした。
突然の彼の行動にユメトは “青山にお礼を言わなければ。”と急かされ、呼び止めようと彼の背中を追いかけた。
すると、青山は彼女の動きを 見透かしていたように振り返り「ユメトさんが良ければですが、北見さんからユメトさんの個人的な連絡先を 伺っても、いいですか?」と尋ねてきた。
青山の唐突な提案に、ユメトは困惑し 立ち尽くしたまま「…えぇ。そちらのマネージャーさんが良ければ 構いませんよ」と、見事に彼の思惑に捕らわれ 即答していた。
正統派イケメンの野獣的な一面に、ユメトの 頑なに守りつづけた 冷静さが 崩れる。
To be continued… ♡
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