アマプラ『シークレット・レベル』ダンジョンズ&ドラゴンズ編を解説してみた
毎話異なるゲームの世界を、独自の解釈も交えながら圧倒的ビジュアルで描く、アマゾンプライムビデオのショート3Dアニメシリーズ『シークレット・レベル』。
欧米圏のみならず、中韓の人気作品や、日本からも『アーマード・コア』『ロックマン』『パックマン』といった名前も連なる中で、その記念すべき第1話に選ばれたのが『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)です。
これまで当アカウントではD&D関連メディアを解説してきたのですが、今回も、「日本人を絶対に置いてけぼりにしない」という鉄の意思と鋼の強さで、作中に登場する各要素を解説しようかと思います。
当然本編まるっとネタバレするので、本編視聴後に読むことをオススメします。
2024/12/13 フォーゴトン・レルム、モーラの種族、謎バリアについて大幅修正
そもそもD&Dとは?
最近、シークレット・レベル以外にも、映画やコンピューターゲームなどでこの名前を耳にした方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、D&DはTRPG―「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム」、あるいは「テーブルトップ・ロールプレイングゲーム」と呼ばれる「システム」―すなわちルールの集合体です。
「シークレット・レベル」(隠しステージ)という名前など、デジタルゲーム専門かと思いきや、アナログ方面からも採用されたという訳です(同じくアナログゲームの『ウォーハンマー40,000』含め、直近に関連コンピューターゲームは発売されましたが…)。

TRPGでは、「ゲームマスター」(以下GM)と呼ばれる主催となるプレイヤーが状況を説明し、他のプレイヤーは自らのキャラクターとして、その世界の中での行動を説明する―この繰り返しで進行し、その成否が今後を左右するような状況では、GMはルールを基準に、サイコロのような乱数の出目や、キャラクターが持つリソースを消費することを求めるのです。
「それはある意味、皆でお話を作る試みのようでもあり、演出家はいても脚本のない演劇のようでもあった。」
TRPGという物が世に出る前に、内輪でのプレイの様子を目にしたある人物は、そう表現しています。
多くの場合、パラディンのモーラたち一行がプレイヤー、それ以外のすべてがGMが描く物―キャラクターなら「NPC」(ノンプレイヤーキャラクター)―にあたります。
少し余談ですが、その気になればGMは簡単に「岩が落ちてきて全員死にました。ダイスで判定しようがしまいが変わりません」などと言うこともできます。しかし、あえてそうせず、協力しようとするところにTRPGという遊びの美しさがあるのだと、筆者は思います。
多くのTRPGの「システム」には扱う物語のジャンルがあります。D&Dでは、プレイヤーは「冒険者」となり、剣と魔法のファンタジーの世界―タイトルにもある「ダンジョン」に潜り「ドラゴン」を討ち、財宝を持ち帰るなどといった冒険―を繰り広げるのです。
『シークレット・レベル』の本話は、D&Dのシステム的な要素には言及せず、D&Dをプレイする中で描かれる物語の一部分をイメージしたものです。
余談:D&Dが第1話であることの意義
ここは歴史的な話なので、読み飛ばしてもらっても構いません。
ミニチュアを用いた戦争シミュレーションゲームのバリエーションとして誕生したD&Dは、その斬新なプレイ体験からアメリカを中心に一世を風靡しました。
パソコン=「パーソナル・コンピューター」の概念が浸透し始める前後、コンピューターゲームの黎明期にもD&Dの体験を持ち込もうとコンピューターゲームのRPGが誕生し、ここから『ウィザードリィ』や『ウルティマ』、そしてその先に連なる数々のRPGへと系譜が続いていきます。
一方で、日本へはコンピューターゲームとほぼ平行する形でTRPGやその派生の「ゲームブック」などが渡ってきています。
より詳しくは、その誕生から欧米圏の現在に至るまでの歴史が、公式サイトにて紹介されています。
D&Dはすべての「ロールプレイングゲーム」の元祖であると同時に、後世のありとあらゆるエンターテインメントに影響を与えたと言っても過言ではなく、その事を称え、『シークレット・レベル』でも第1話に抜擢されたのでしょう。
主要設定
世界観
ダンジョンズ&ドラゴンズはGMの創造性を尊重し、半ば汎用ファンタジーシステムというレベルで、世界観の自由度を広くとっています。そのため、まずは取り上げられている世界観を説明する必要があります。
作中にはオリエル、ロイヤル・フューリーなどの固有名詞が登場しますが、これらは『フォーゴトン・レルム』や『ミスタラ』など、D&Dで公式に出版されたどの世界観にも属さない名前です。(2024/12/13追記)オリエルを除き、過去の『フォーゴトン・レルム』に関する固有名詞やシンボルがいくつか登場していました。私の知識不足をお詫びします。
『フォーゴトン・レルム』
「ドラゴン教団」やトーム神に関する言及(いずれも後述)など、『フォーゴトン・レルム』の世界観に関する用語が多数登場します。
『フォーゴトン・レルム』の歴史は古く、D&Dのルールに関わる各種書籍以外にも、『ダークエルフ物語』や『シャドウデイル・サーガ』などの小説や、『バルダーズ・ゲート』シリーズのコンピューターゲームなどでも人気と設定を築き上げた世界観です。
近年ではD&Dを代表する世界観として公式にプッシュされ、映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』の世界観にも採用されました。
多元宇宙とオリジナルの世界観
ただ、「バルダーズ・ゲート」や「ミンスク」などといったフォーゴトン・レルム固有の有名なランドマークやキャラクター名に言及がなく、一部設定を借りただけのオリジナルの世界観という可能性も捨てきれません。
D&Dの世界は多元宇宙であり、様々な”物質界”―あえて語弊がある表現をするなら「現実」―から、いわゆる「天界」「地獄」「精霊界」的な観念的な世界まで、様々な世界があるとされています。
この中にはフォーゴトン・レルムのような、公式に出版される世界観はもちろん、GMが考えたオリジナルの世界観も含まれます。事実、公式の世界観も、元はどこかのプレイグループで使われた物が始まりなのです。
遊ぶグループオリジナルのジェネリックなファンタジー世界から始まって、自分達だけの物語が生まれていく―それもまたD&Dの楽しみ方です。
色彩竜と金属竜
ここから先を説明する前に、本話の裏側にある、多元宇宙を股にかけ対立する、2種類のドラゴンを説明しなければなりません。
D&Dの真竜―一般的な翼と手足を持つドラゴン―のうち、その多くは邪悪な色彩竜と善なる金属竜という、2つの大きな血統ないし派閥に属しています。
一般に、
色彩竜はレッド、ブルー、グリーン、ホワイト、ブラックの5色の鮮やかな鱗のいずれかを、
金属竜はゴールド、シルバー、カッパー(銅)、ブロンズ(青銅)、ブラス(真鍮)の5種の金属光沢を放つ鱗のいずれかを持ち、
それぞれの王にして神である「竜の女王」ティアマトと「白金竜」バハムートは永遠の対立を続けているとされています。
ティアマト
冒頭の星座に始まり、本話中で大きく取り上げられる色彩竜の女王、ティアマト。
先述の色彩竜それぞれに対応した5つの頭を持ち、火、電撃、毒、冷気、酸のブレスを吐く巨大なドラゴンです。
現行の設定でバハムートと共に多元宇宙が分断される以前の原初の世界を生み出したとされる存在です。
現在は地獄に封印され、蘇るためにその強大な力をもって物質界に影響を与え続けています。
ドラゴン教団
本話中では、一行はティアマトの生け贄を取り戻そうとする「ドラゴン教団」(訳によっては「ドラゴン・カルト」とも)と敵対します。
『フォーゴトン・レルム』の世界観におけるドラゴン教団は、特定の邪神などではなく、悪のクロマティック・ドラゴン全般や、アンデッド化したドラゴンを崇拝するカルト教団です。
D&Dの世界におけるドラゴンは子供でも手練れの冒険者に匹敵する強さを持つ、強力な存在です。それほどの存在となれば、崇拝の対象となるのは想像に難くありません。
戦士たちのリーダーらしき人物がリッチ(後述)である事は、『フォーゴトン・レルム』のドラゴン・カルトの開祖がリッチである事とも関係あると思われますが、同一人物かは判断材料がありません。
ドラゴン教団は大規模なため、リーダーではない上層の構成員である可能性も考えられます。
作中に登場した戦士たちのように、下級の構成員は黒い服を着て、ドラゴンの頭を模した仮面やヘルメットを身に着けます。
「ロイヤル・フューリー」と手のシンボル
(2024/12/13追記)モーラが口にする「ロイヤル・フューリー」と、右手の篭手の聖印は、フォーゴトン・レルムの世界観における神の一柱・トーム/Tormに関するものです。それぞれ、「ロイヤル・フューリー/The Loyal Fury」は二つ名(固有名詞と思われたのかカタカナ表記ですが…)、篭手のシンボルはトームを表す聖印です。忠義、誠実さ、勇気、自己犠牲を司る神であり、モーラやソロンに微笑むのも納得です。
不浄なる暗黒の書
タリーからソロン少年のタトゥーが「『不浄なる暗黒の書』のようだ」と煽られていますが、これは多元宇宙に悪名高い伝説の書物の名前です。
多元宇宙の数々の邪悪なる存在の手に渡り、書き足されたとされ、あまりの邪悪さに、触れたあらゆる物を破壊し、わずかに覗き見るだけで災いを呼び人を悪の道に染めてしまうというのです。
ゲームの要素
種族とクラス
直接作中で言及される要素ではありませんが、キャラクターの説明の前提知識として説明させていただきます。
D&Dの多くの版において、プレイヤーは自らの分身となるキャラクターを作る際、「種族」と「クラス」という要素を選ぶことになります。
種族は生物的な出自を、クラスは自らの技術や経験に基づく能力―あえて語弊がある表現をするなら「職業」―を表します。
RPGの「職業」に関しては、下の記事でも詳しくその語義について説明しています。
さらに、現行の第5版ではそのクラスの中でもさらに細かい分類である「サブクラス」も存在します。描写の関係上、主要キャラクターのすべては特定できませんでしたが、キャラクターの方向性を決めるという点では重要な要素です。
主要キャラクター
モーラ
種族:ヒューマン or ゴライアスパーティのリーダー格であるモーラの種族はヒューマン(人間)で、これを読んでいるあなたと(よほどの事がない限り)同じ種族です。フェイスペイントはパラディンになる前、かつての略奪時代から使っていた物でしょうか。
(2024/12/13追記)ゴライアスは、巨人の血を引く人型種です。巨人よりは背は低いですが、ヒューマン(人間)よりかは高く、一般的に身長は2メートルを優に超え、祖先の巨人と似た肌の色を持ち、ヒューマンなら白目に当たる部分が黒くなっています。
クラス:パラディン
自ら「誓いを立てた」「聖騎士」(原文「paladin」)と発言している事から、モーラはパラディンのクラスです。
自らの大義や信念として「誓い」を立て、神聖魔法の力に変える、魔法と武器両方の扱いに優れたクラスです。
盾に取り付けられた篭手のシンボルは先述の通りトーム神の聖印であり、D&Dのルールにおいてはパラディンやクレリックは聖印を掲げて神聖呪文を発動します。
タリー
種族:ノーム
パーティの魔法使いであるタリーは、ドワーフよりも小柄で尖った耳を持っています。その特徴は「ノーム」のそれです。
人目を離れ住む、知性と好奇心に溢れた種族で、ドワーフなどより伝統的な西洋の「小人」像に近く、お調子者のような典型像を持っています。
クラス:ウィザード
D&Dの「魔法使い」系種族はいくつか種類がありますが、「レオムンズ・タイニィ・ハット」(後述)を使用できるメンバーがいる事、扉を開けるシーンで呪文書を持っている事などから、タリーはウィザードであることがわかります。
才能や契約によって魔法の力を得た他の魔法使い系に対し、ウィザードは自らの知識や技術として研究した魔法を扱います。
自らの呪文書に研究成果として呪文の使い方をしたためることで、多彩な呪文を扱うことができ、先述のレオムンズ・タイニィ・ハットのような細かい便利な呪文も多く修得できます。
ルズム
種族:ドワーフ
物静かなルズムはタリーのように身長が低いですが、横幅が広い体型のドワーフです。
国産の作品でもエルフなど程ではありませんがおなじみの種族です。
クラス:モンク / サブクラス:開手門
ルズムは他のメンバーとは異なり、徒手空拳で戦うモンクのようです。
モンクは鍛え抜かれた肉体と、生命の「気」を操るともされる繊細な技術で戦うクラスです。こういった格闘家に「モンク」という名前が当てられるのは、『ファイナルファンタジー』シリーズをご存じの方ならお馴染みかもしれません。
モンクのサブクラスは「門派」として、技の派閥で表現されます。
打撃で敵を押しやる描写などから、サブクラスは「開手門」でしょう。
肉体を極限まで鍛え上げ、自在な格闘戦と自己治癒のような肉体強化を得意とします。
アホカル
種族:オーク
大きく牙の突き出たアホカルは、オークの種族と思われます。
日本でも獰猛な蛮族、略奪者のイメージで描かれる事は多いですが、海外では『Warcraft』シリーズのプレイアブル勢力として、戦闘民族なりのヒロイックさをもって描かれたことで人気を得たと筆者は認識しています。

ファンからはその聖人ぶりをイエス・キリストに例えられる。
この「オーク」像は『指輪物語』ほかJ.R.R.トールキンの作品群を由来としていますが、国産の作品で時折登場する、豚の頭を持つ種族を「オーク」と呼ぶ風潮は、初期のD&Dのルールブックのイラストの「豚のような鼻と牙」という発注をイラストレーターに「豚の頭」と勘違いされた事に始まり、それをファンタジーの文脈に明るくない日本人が何も知らずにそのまま自身の作品に使ってしまった事が始まりではないかと私は考えています。

David C. Sutherland IIIによる。
クラス:ドルイド / サブクラス:月の円環
イノシシに変身する事から、アホカルは「自然の化身」の能力を持つ、つまりドルイドであると考えられます。
あまり聞き馴染みのない名前かもしれませんが、D&Dにおけるドルイドとは自然と心を通わせ自然の魔法を使う存在です。彼らは往々にして文明とは離れた社会を持ち、それぞれのグループ=円環を通して文明以前の古き教えを守り続けています。
さらに、アホカルは作中の描写から、「サブクラス」も特定できています。
ドルイドのサブクラスは先述の「円環」として表現され、アホカルは「月の円環」に属していると思われます。「自然の化身」の能力を大きく強化するもののため、そちらの項で紹介します。
ソロン
種族:ヒューマン
一行が回収した呪われた少年も目立った特徴がなく、ヒューマンのようです。
物語上の立ち位置から、プレイヤー操作の冒険者ではなく、NPC―ノンプレイヤー・キャラクターにあたる存在のようにも見えます。
(クラス:クレリック)
終盤に力を使った際、タリーから「クレリックだったんだ」(吹き替え)という発言があったため、彼にはクレリックの才能があったようです。
クレリックはいわゆる「僧侶」のクラスであり、パラディンよりは武器戦闘に関しては劣りますが、パラディンよりも高レベルの神聖呪文を扱うことができます。
パラディン同様、聖印を用いて呪文を発動するため、タリーの発言だけでなくモーラから受け取った聖印で力を使った事もクラスの証明になっています(タリーもこれを見てクレリックと判断したのでしょう)。
やや余談ですが、作中では拾われたままなので裸でしたが、D&Dのクレリックは軽装・中装・重装の3段階の鎧のうち、中装(選択肢次第では重装)まで問題なく着用できます。僧侶が比較的重めの鎧を着ることができるのは衝撃的かもしれませんが、9世紀フランスの戦士にして司祭であったバイユーのオドや、叙事詩『ローランの歌』における大司教テュルパンなどをモデルとしているからです。
その他キャラクター、モンスター
巨大動物(イノシシ、コウモリ)
アホカルが変身するイノシシや、リッチが偵察などに使うコウモリは、人一人乗れる大きさの巨大なサイズです。
巨大な動物は古くは伝承から続くファンタジーの鉄板ですが、こういった巨大イノシシや巨大コウモリもD&Dのルール内に登場します。
リッチ
ドラゴン教団の大ボスとして、死体のような姿をした、冷気(欧米では死と関連付けられる)の力を操る魔術師が登場します。
ゾンビのような姿でありながら、魔法を操る高い知性を持っている事から、彼は「リッチ」なのでしょう。
「リッチ」という名前はは国産のRPGでもたまに登場するため、馴染みのある方もいるかもしれません。ですが、D&Dにおけるリッチは単なるアンデッドではなく、儀式によって箱などに魂を封じることで不死性を得た存在です。
『ハリー・ポッター』におけるヴォルデモート卿のようなもの、と言われれば馴染みのある方はいるかもしれません(D&Dの歴史的にはこちらの方が間違いなく先なのですが)。
リッチと化した者は強大な力と魔術を研究する永遠の時間こそ得ますが、永遠の苦痛の中、生き続けたいという意思は、強迫的な力への渇望へと歪んでいくともされています。
オリエル(ゴールド・ドラゴン)
モーラが時折口にする「オリエル」とはゴールド・ドラゴンの名前でした。
先述の善なる「金属竜」の一体であるゴールド・ドラゴンは、名前通り金色の鱗を持つドラゴンであり、その多くは超然とした知恵者として知られています。
ソロン少年の優しさを理解し、その身を挺してソロン少年を救おうとした事も知恵者としての器なのでしょう。
呪文、能力、アイテム
自然の化身(アホカル)
全編を通してオークのアホカルが時折見せるイノシシへの変身。
これぞ呪文と並ぶドルイドの代表能力「自然の化身」です。
本来ドルイドはあまり強い動物には変身できませんが、先述の”月の円環”のドルイドはこの変身能力が強化され、より強力な生物に変身できるようになります。巨大イノシシもその一つです。
スクライング or クリスタル・ボール(リッチ)
巨大コウモリの目の情報を水晶玉に写し、一行を観察するリッチ。
これは疑いようもない、望んだ相手の動向を監視する呪文「スクライング」です。
水晶玉などを触媒として使用するほか、自身がスクライングを使えずとも、同様の効果を得られるクリスタル・ボールもあります。
ルール通りに解釈するなら、「スクライング」の呪文は一行ではなくコウモリを対象に使用していることになります。効果を望んでいない相手はダイスの出目で判定し、抵抗しなければならない上、そもそも存在を知らない相手でなければ使えないため、味方であるコウモリを中心に使用するというのは理にかなっています。
レオムンズ・タイニィ・ハット(おそらくタリー)
一行が野営に使っているエネルギーのバリア。
これは「レオムンズ・タイニィ・ハット」の呪文でしょう。
開発者である「レオムンド」(最初の一語がLeomund's)という魔術師の名を冠する呪文であり、発動する際にバリアを自由に出入りできる相手を選ぶことができ、中は明かりを自在に調節できる、快適な空間になるという、野営用の簡易的なテントとして使うことができる呪文です。
作中での描写も、半径3メートル(直径6メートル)の球状範囲というルールとも見る限り合致しています。
ウィザードやバードが使える呪文のため、タリーが張ったものでしょう。
癒しの手 or キュア・ウーンズ(モーラ)
ソロンに突き刺された傷に手を当て、光と共に治療するモーラ。
パラディンの「癒しの手」の能力、あるいは キュア・ウーンズの呪文でしょう。
どちらも触れた相手の傷を癒し、ヒット・ポイント(もちろんD&Dにもあります)を回復する能力ですが、細かい仕様が異なります。
ノック?(タリー)
魔法でオリエルの棲家の石の扉を開けるタリー。
扉にかけられた魔法を読み取った上で開けているのか、扉を強制的に解放する「ノック」の呪文で開けているのかははっきりしませんが、普段はすぐに燃やす事ばかり考えるタリーの、魔法学者らしい貴重な活躍シーンです。
ウィンド・ウォール(アホカル)
橋の上でドラゴン教団の追っ手を待ち構え、風の壁を作り出すアホカル。
文字通りのウィンド・ウォールです(元々D&Dの呪文名は内容の説明なのですが)。
この呪文は矢のような小さな飛び道具を防いでくれはしますが、ルール上は出現したタイミングでしかダメージはなく、人間大の相手の侵入は防げません。事実、この後壁を突破されてしまっています。
アイス・ストーム(リッチ)
巨大コウモリの上から氷の雨を降り注がせ、一行を攻撃するリッチ。
これはアイス・ストームの呪文と思われます。
ルール上は[刺突]ダメージではなく[殴打]ダメージという違いはありますが、氷の雨を降り注がせるという点で一致しています。
リムーヴ・カース?(オリエル)
ソロン少年から呪いを抜き取り、取り込むオリエル。
D&Dにはもちろんファンタジーの鉄板である呪いもあり、それを取り除く「リムーヴ・カース」もまた存在します。
しかし、原作のルールでは除去に関して作中のような長い過程は定義されておらず、ルールを見る限りはわざわざ取り込む必要も感じられません。呪い自体に特殊な性質があることをオリエルは知っていて、このような方法を取らざるを得なかったのでしょうか?
矢止め(ルズム)
教団の戦士が放つ矢を受け止め、投げ返してしまうドワーフのルズム。
これがモンクの能力の一つ、「矢止め」です。矢のダメージを軽減し、0にすることができれば攻撃に転じることもできる、攻防一体の能力です。
疾風足(ルズム)
襲い掛かる教団の戦士を気のエネルギーを纏ったステップと共になぎ倒していくルズム。
わざわざエネルギーの表現があるという事は、何らかの能力に違いありません。そして、モンクの移動に関する能力といえば「疾風足」です。
自らの気への集中力を消費し、追加で移動することができます。
ガスト(アホカル)
軽い風を起こし、戦士を橋から突き落とすアホカル。
サプリメント(追加データ集)『ザナサーの百科全書』収録のガストでしょうか。ウィンド・ウォールより低レベルの、軽い風を起こす呪文です。
カウンタースペル(リッチ)
火を放とうとするも、リッチに指パッチンで消されてしまうタリー。
これはカウンタースペルの表現でしょうか。敵の呪文の発動を妨害し、無効化してしまう呪文です。プレイヤーならここぞというタイミングで使いたいものです。
(2024/12/13)D&Dのルールにおいては呪文 はMPのような数値ではなく、各呪文のレベルごとの使用回数で管理されています。カウンタースペルを連発したこのリッチ、割と回数の無駄遣いだった可能性があります。
開手の技(ルズム)
タリーに加勢しようとする前に現れた巨大コウモリを一撃で吹き飛ばしてしまうルズム。
「開手門」のモンクの能力「開手の技」の中に、近接攻撃の一部として、相手を押しやる選択肢があります。
ポリモーフ(アホカル)
呪文をなかなか発動できないタリーに迫るリッチを、魔法でカタツムリに変えてしまうアホカル。
相手を動物に変えてしまう、ポリモーフの呪文です。ポリモーフのように、一時的な無力化呪文は、相手次第では戦局を一変させられてしまいます。
バーニング・ハンズ(タリー)
橋の上を進むドラゴン教団の戦士に対し、両手から火を放ち一掃するタリー。
「両手の親指をつけて他の指を開く」という2014年版のルールの記述通りの、「バーニング・ハンズ」の呪文です。
火の呪文としてはファイアーボールが代表的ですが、ファイアーボールは爆発を起こすため、橋を破壊してしまう可能性があります。そのため、一直線に迫ってくる敵に放つという点も含め、こちらの方が理にかなっています。
ウォール・オヴ・フォース?(ソロン)
ティアマトがその5つの首から吐き出したブレスが一行に襲い掛かりますが、呪いが解かれたソロン少年は光のバリアで一行を守ります。
…正直、これ毎回どう説明しようか悩むんですよね。
この『シークレット・レベル』D&D編以外にも、映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』など、D&Dを原作ないしモデルとしたメディアでは、「範囲攻撃を見てからバリアを張る」という描写が度々登場するのですが、ルール上明確にそれらしい能力は存在しないのです。
まず、公式のルールの範疇に、クレリックが使用できて、エネルギーの壁を生み出す呪文はありません。一番近い物でウォール・オヴ・フォースがありますが、これはウィザードが使えるものです。クレリックにはプロテクション・フロム・○○という名前の呪文がいくつかありますが、これらはいずれも複数人を守れなかったり、ブレスすべてから守れなかったりします。
一応、これ自体は決して悪い事ではないとは思っています。
実現したい物語やシーンのためにGMやプレイヤーがオリジナルのルールやデータを作るという行為は、TRPGならやりやすい事ではあるし、公式のシナリオでも度々行われています。個人的にはこういった姿勢は応援したいなと思っています。
(2024/12/13追記)もしかすると、クレリックの「神性介入」的な表現なのかもしれません。自らの神に好きな頼み事を聞いてもらえる能力で、高レベルのクレリックしか使えない能力ですが、覚醒用の特別演出としてトームが微笑んだという事でゲームマスターにOKしてもらったと考えられます。
現在英語版が出ている2024年版の基本ルールでは2段階に分かれ、強さに制限があるバージョンも追加されましたが、それでも必要なレベルは10(レベルに関しては後述)な上に、クレリック呪文しか選べません。
小ネタ
一行はティアマトに勝てるのか?
本編は一行がティアマトと対峙するシーンで終わりましたが、実際、彼らに勝てる公算はあるのでしょうか?システム的に踏み込んだ内容で考察していきますが、一部細かいルールの説明は割愛しています。
まずは一行のキャラクターレベルからです。
RPGではおなじみの「レベル」ですが、D&Dでは物語的な強さと直結するとされています。
D&Dでは全体で1から20まであり、その一つ一つが冒険者として大きな一歩となっています。おおよそ1が一般人より少し強い程度、20ともなれば多元宇宙の命運をかけて戦うレベルの伝説の英雄にあたります。
もちろん作中で明確に描写される事はありませんが、作中にレベルを推定できる要素がいくつかあります。
タリーが使ったと思わしきレオムンズ・タイニィ・ハットは呪文レベル3で、レベル5のウィザードかバードが使用可能。
アホカルのポリモーフは呪文レベル4で、レベル7のドルイドが使用可能。
アホカルの巨大イノシシへの変身はレベル6以上の”月の円環”のみ。
少なくともアホカルはレベル7で、他のメンバーも含め、クラスレベルが8以上である証拠はありません。それまでの冒険のスケール感からしても、大陸や世界1つを巡るスケール感と説明されている、キャラクターレベル11を超える事はないように思えます。
一方で、強力な神であるティアマトは、本編のように現れたとしても、あくまで本体ではなく、物質界における一つの具現体でしかありません。サプリメント(追加ルール集)『フィズバンと竜の宝物庫』掲載の具現体ですら、モンスターデータとしては最高の脅威度30―この数値はレベル20のプレイヤーキャラクター4人でも脅威―そしてGMの裁量次第では、データ記載の特性により実質2連戦となる可能性があります。
復活が不完全であれば弱体化していた可能性もありますが、強力なゴールド・ドラゴンの成体を元に、綺麗な姿で現れたため、かなり厳しいかもしれません。
あとがき
『シークレット・レベル』のいちエピソードとして、15分と短い内容でしたが、キャラクターの役割やD&Dの冒険の雰囲気が凝縮された濃密な作品だったと思います。
追記(2024/12/11)
公開から1日経ち、別所でも解説が公開され始めました。
いくつか見ていく中で、世界観設定は「ドラゴン・カルトがあるので『フォーゴトン・レルム』だろう」という見解やモーラの種族に関する解釈の違い、能力等によらない小ネタの見落としなど、いくつかの相違点がみられました。
大規模な映画のように公式に各種情報が公開されている訳でもないため、細かい解釈の違いは仕方ないと思います。
他にも日本語で解説されている方もいらっしゃいますので、YouTubeやnote、各種SNSなど「シークレット・レベル D&D」などで検索してご覧になり、解釈の違いを楽しまれてはいかがでしょうか。
追記(2024/12/13)
流石に『フォーゴトン・レルム』関連とゴライアスに関しては見落としが恥ずかしい上に、一部唯一の解釈であると勘違いさせてしまう可能性があったので追記させていただきました。
もっと見たいあなたに
D&D関連を見るのは初めてだったという方は、同じ「プレイ中に描かれる物語を映像化する」というコンセプトの
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』(ファミリーにオススメ!)や
『ヴォクス・マキナの伝説』(アメリカンなエログロだけ注意!)
もオススメです。どちらもアマゾンプライムビデオにあります。
また、私の記事ではD&D第5版を原作としたコンピューターゲーム『バルダーズ・ゲート3』についても軽く紹介しています。
さらに今後、D&Dに強く影響を受け、ゲームのシステムに深く切り込んで取り上げた漫画『異世界マンチキン』がアニメ化された際、そちらも元ネタを紹介する予定です。こちらもご期待ください(そしてヘビーでウェットな内容のせいで筆者の豆腐メンタルが砕け散らないようにお祈りをお願いします)。
宣伝
実際のプレイ風景が気になるという方は、自分のYouTubeチャンネルでも日曜午後9:30から、私自身のオリジナルの世界観でD&Dのプレイ風景を配信しています。
本記事公開当時は和風の地域を舞台とした継続グループの、次の章を準備中です。粗末な配信ですが、お楽しみいただければ幸いです。
(以下は第2章ですが、ここからでもお楽しみいただけると思います)

