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🟡黄の章:砂漠の伝承 ― 古代の知恵を授けるもの 10


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第十章 託すもの 託されるもの

竜巻が消滅した今、彼らを支えるものは、何もない…

 レオンとホズミ、そして、左腕を失ったムヒの三人は、重力に従い地上へと猛烈な速度で落下を始めた。

「嘘だろ……! こんなの……!」

レオンは、眼下に広がる砂漠の砂を信じられないという表情で見つめていた。

砂漠の砂は、まるで硬い地面のように見えた。

 この高さから落下すれば、たとえ砂の上だとしても、命は決して助からない。
死が、すぐそこまで迫っていることを、彼の本能が叫び続けていた。

「レオンさん! どうしましょう……!」

ホズミは恐怖に震えながら、レオンに強くしがみついた。
彼の羅針盤は相変わらず沈黙したままだったが、彼の肌が、この地の空気が冷たい死の気配を帯びていることを感じ取っていた。

彼らの落下速度は、次第に加速していく。


風が、彼らの体を容赦なく叩きつけ、彼らの耳を劈く。
彼らは、もう自分の意志で動くことさえできなかった。

眼下に広がる砂の海が凄い速度で迫り来る!



レオンは、ホズミを強く抱きしめ、地面に叩きつけられる、その衝撃を覚悟した。

 彼の頭の中には、遠い昔ムヒから聞かされた、この砂漠の物語が走馬灯のように蘇ってきた。

ムヒが語った、この砂漠の厳しさ。
ムヒが語った、砂漠で生きる者の誇り。
そして、ムヒが語った、この砂漠の未来。

(……父さん……母さん……。
俺は……
この砂漠に、帰ってきたぞ……)

レオンは、心の中でそう呟いた。
彼は、故郷の掟に背き旅に出た自分を、許せなかった。
しかし、今この死を目前にして、彼はようやく、この砂漠に帰ってくることができた。
彼自身の誇りをかけて、この砂漠の未来を見つけるために。


 ホズミもまた、恐怖に目を閉じ、レオンに強くしがみついた。
彼の頭の中には、アルフレッドの姿が鮮やかに蘇ってきた。

『ホズミ。
君は、自分の羅針盤を自分の心の中に見つけるんだ。
そうすれば、いつか、また会えるかもしれない』

アルフレッドの優しい声が彼の耳元で響いた。


「アル様……!
わたくし……
まだ……
アル様に、お礼を言っていないのに……!」

ホズミは、そう叫び、アルフレッドの言葉を胸に死と向き合った。


そして、彼らが地面に叩きつけられる、その寸前だった。







ホズミの胸元から眩い光が放たれた。



それは、ホズミが大事に持っていたアルフレッドの大きな羽根だった。
あちこち焼け焦げボロボロの大きな羽根は、まるで、彼らの魂を優しく抱きしめるかのように、その光で彼ら三人全体を包み込んだ。

「これは……!」


レオンはその光に目を見開いた。

 光に包まれた彼らの落下速度がゆっくりと、しかし確実に弱まっていった。
彼らは、まるでアルフレッドの大きな羽根に守られているかのように、フワフワと砂漠の砂の上へと着地した。

「……助かったのか……?」


レオンは信じられない!という表情で、ホズミに問いかけた。
ホズミは安堵の息を吐きながら、レオンに力強く頷き

「はい…
また、アル様に…
助けていただきましたね‼️」


その光景を、ムヒは静かに見つめていた。

彼の表情は驚きではなく、まるでこの結末を、すべて見通していたかのような穏やかな笑みに満ちていた。

「……彼は、また、いつか、形を変えて、現れるかもしれんな」

ムヒはそう呟くと、静かにしかし力強く地面へと立ち上がった。

彼の左肩からは、相変わらず血が流れ出ていたが、彼の瞳にはこの地の未来を、二人の若者に託す強い意志が宿っていた。

レオンとホズミは、ムヒの元へと駆け寄った。

「ムヒ……!
左腕が……!
すぐに治さないと!」


レオンはそう叫び、ムヒの腕を掴もうとした。
しかし、ムヒはレオンの手を、そっと振り払った。

「心配はいらん。
この傷は、この地で生まれた者として背負わねばならん、宿命じゃ。
それよりも、お前さんたちに託さねばならんものがある」

ムヒはそう言うと、静かに、しかし確かな眼差しで、レオンとホズミの顔を交互に見つめた。

「レオン。
お前さんが触れた、あの岩は、『黄の何か』、すなわち、この砂漠の心臓じゃ。
そして、その心臓はホズミの【星図の石】に、その記憶をすべて託した」

ムヒはそう言って、ホズミの胸元にある【星図の石】をそっと撫でた。
すると、【星図の石】は、まるでこの地の鼓動と、一つになっていくかのように激しく、しかし力強く輝きを放ち始めた。

「この砂漠は、自らを守る力を失ってはならない。
故に、あの心臓の力は、この地に残さねばならん。
だが、その記憶はホズミと共に、次の旅路へと向かうだろう」

ムヒはそう言うと、懐から小さな【砂の羅針盤】を取り出し、ホズミの手にそっと握らせた。

「これは、わしからお前さんへの贈り物じゃ。
お前さんの羅針盤は呪いによって、壊れてしまったが、これがあれば、もう道に迷うことはない。
この砂漠の風が、お前さんをいつでも導いてくれるじゃろう」

ホズミは、その羅針盤を両手で強く握りしめた。
それは、ムヒからの贈り物であり、この砂漠の、新たな物語の始まりを告げる、大切な宝物だった。

そして、ムヒは次にレオンへと向き直った。

「レオン。
お前さんは、故郷を捨てたわけではない。
お前さんは、この砂漠の、新しい風を見つけるために旅に出たのだ。
そして、お前さんはその風を、この地へと連れ戻してきた」

ムヒは、そう言うと腰につけていた【キャンプ用ポーチ】を、レオンの手にそっと握らせた。

「わしは、もう旅には出られん。
だが、お前さんの旅は、まだ始まったばかりじゃ。
このポーチの中には、わしが旅をしてきた全ての知恵と、そしてこの地の風が詰まっておる。
さあ、行け!
お前さんの、新しい物語を見つけるがよい」

ムヒの言葉に、レオンは静かに、しかし力強く頷いた。
彼の瞳には涙が溢れていたが、その涙は悲しみではなく、ムヒへの感謝と、そして、この地の未来を背負う、強い決意に満ちていた。


ムヒは、そんな二人を静かに見守っていた。

「さあ、行け。
お前さんたちの旅は、まだ終わっておらん。そして……」

ムヒは、そう呟き、遠い空を見上げた。


「……砂漠の風は、またあの子らを迎えるだろう」

レオンとホズミは、ムヒに別れを告げ、新たな旅(緑の光)へと、出発した。

彼らの背中は、この砂漠の未来を背負う、希望の光のように、静かに、しかし力強く輝いていた。


🟡黄の章:砂漠の伝承 ― 古代の知恵を授けるもの   完結


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