Sunoが「楽器」になった日~30年前のMIDI少年が、気持ちでMVを作れる時代に思うこと
前回の記事では、Suno LabsのMILO-1080を触った第一印象を書きました。
「AIが楽器になり始めている」というのが、あのときの結論でした。
今回はもう少し、その先を考えてみます。

30年前のMIDI少年の話
1990年代前半、電子楽器に興味を持った少年たちには、
共通の「壁」がありました。
機材を買っても、音が出ない。
マニュアルを読んでも、
「マスター」「スレーブ」
という言葉の意味が、なかなか体感できない。

YouTubeもなく、詳しい人も周りにいない。
音が出るまでに、下手すると数ヶ月かかる。
しかも財力が足りない。
シンセ、音源モジュール、シーケンサーを
揃えるだけで、バイト代が消えていきます。

結果的に多くのMIDI少年がたどり着いたのが、
サンプラーでした。
犬の鳴き声に音階をつけて笑う。
レコードをDJっぽくスクラッチして遊ぶ。
それは「諦め」ではなく、
むしろ正しい生存戦略だったと思います。
仕組みは理解できなくても、遊び方は自分で発明できる。
あの頃の少年たちは、それを知っていた。
あの頃に積み上げたものが、今になって効いてくる
面白いことに、30年前の経験は消えていません。
MIDIのマスター/スレーブという概念。
「音は構造だ」という感覚。
機材をハックして遊ぶ発想力。
これらは、今のAIネイティブ世代が持っていないものです。
彼らはMILOを「便利なツール」として使います。
でもMIDI少年だった人たちには、
SunoAI MILOの裏側の構造が一瞬で見える。

この記事を図解してみた(無料)
MILOを1時間触って感じたこと
実際に触ってみました。
Suno Labs が公開した
「MILO(Model Integrated Loop Orchestrator)」
Ambient Dub、Dark Ambientなどジャンルを選び、キーとスケールを指定して「GENERATE IDEAS」を押す
最初の印象はシンプルでした。
「思ったより、普通に打ち込める」。
でも少し触ると、構造が見えてきます。
📷 SEQ画面とIdea Generator

右パネルのIdea Generatorは、ジャンルとスケールを指定すると、AIがビートとメロディのパターンを提案してくれます。
これは「プロンプトで祈る」のではなく、構造を渡してAIに補完させるという操作です。
📷MIXコンソール画面
Deep Kick、Rimshot、Bass Sub、Lead Pulse……トラック名がAIによって自動命名されている。MIXコンソールを見ると、16チャンネルにそれぞれ意味のある名前がついています。 AIが生成したトラックなのに、ミキサーとしての構造はDAWそのものです。
そして、画面の右上に小さく「↓ WAV」ボタンがあります。
つまり、ここで作ったものをファイルとして書き出せる。

📷Master FX画面
ハイパスフィルターとPhaserが積まれている。PhaserのパネルにピクセルアートのUFOと牛が描かれている。Master FXを開くと、ハイパスフィルターとPhaserが使えます。 フィルターのビジュアライザーが木の枝のような波形で、PhaserのパネルにはなぜかピクセルアートのUFOと牛がいます。

機能は本格的で、UIはおもちゃっぽい。
この絶妙なバランスが、MILOの個性だと思います。
「気持ち」でMVを制御できる時代
ここからが、本題です。
MILOには画面上部に「MIDI」ボタンがあります。
これはオプションではなく、設計の中心に置かれています。
MIDIは1983年に策定された、電子楽器同士が「演奏の指示」をやり取りするためのバイナリプロトコルです。この世界の規格の決定には、多くの日系企業が関わりました。
一部USBになったり、40年ぶりのV2.0などの変化はありました。
[0x90, ノート番号, ベロシティ]
40年以上不変でした
このMIDIを通じて、今やブラウザからMILOを操作できます。
ブラウザ(Web MIDI API)
↓ MIDI OUT
MILO(AI音源)
↓
リアルタイムで「意図のある音」が出る
さらに進めると、こういうパイプラインが現実的に設計できます。
マンガのネーム・テキスト
↓ AI(シーン・感情・テンポを解析)
構造データへ変換
・緊張感の高さ → BPM
・セリフの密度 → ノートの密度
・キャラクター → MIDIチャンネル
・ページめくり → 小節の区切り
↓ Web MIDI API
MIDIファイル/リアルタイム送信
↓ MILO
WAV書き出し
↓ 映像と同期
MV完成
マンガのネームを渡すと、シーンの感情がBPMになり、
キャラクターごとに異なる音色が割り当てられ、
ページのリズムがそのまま楽曲の構造になる。
これはもう、「気持ちでMVを制御する」 と言っていいと思います。
人間が打ち込むのではなく、物語の構造が音楽を生み出す。
30年前に「音が出ない」と悩んでいた少年たちが、
夢想していた何かに、ようやく近づいている気がします。
パイプラインに何を託すのか
技術の話ばかりしましたが、最後に少し違う角度から考えます。
パイプラインは、道具です。
道具は、使う人の意図を増幅するだけです。
MILOがあっても、渡す「構造」が空っぽなら、
音楽も空っぽになります。
30年前のMIDI少年たちが、音が出ない機材の前で悩んでいたとき、
本当は何をしたかったのか。
たぶん、それを思い出すことが、
このパイプラインを使いこなす最初の一歩だと思います。
AIが楽器になった今、
演奏者に問われているのは技術ではなく、
何を表現したいか、です。
次回は、実際にマンガのネームを
MIDIに変換する実験をやってみようと思います。

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