見出し画像

薬を飲んでいるのに、なぜ悪化する?——レボドパの限界と、その先にある選択肢

父とドーパミン|#003



はじめに

父が飲んでいる薬は「ネオドパストン100」という薬だ。1回1.5錠、毎日服用している。
診断後にこの薬を飲み始めて、最初はある程度の効果があった。でも「薬を飲んでいるのに、なぜ進行している気がするのか」という疑問がずっとあった。
調べてわかったのは、レボドパという薬には構造的な限界があるということだ。今回はそれを整理する。


ネオドパストンとはなにか

ネオドパストンはレボドパとカルビドパの配合製剤だ。レボドパは脳内に移行してドパミンに変化し、不足しているドパミンを補う。カルビドパは脳に入る前にレボドパが分解されるのを防ぐ役割を担っている。
つまり「不足したドパミンを薬で補充する」という発想の薬だ。これは現在もパーキンソン病治療の中心であり、非常に効果の高い薬でもある。


「ハネムーン期」という言葉をしっているか

パーキンソン病の症状が現れてから3〜5年は「ハネムーン期」と呼ばれ、レボドパを飲むことで1日中安定した効果が期待できる。
問題はその後だ。


ウェアリングオフーー薬が「もたなくなる」現象

レボドパを何年も服用し続けると、飲んで2〜3時間もすると薬の効果が弱まってくるようになる。効果が薄れると体が動かなくなる、姿勢が前かがみになる、暗い気分になるなど、治療前の状態に戻ってしまう。これを「ウェアリングオフ」という。薬が効いている時間を「オン」、効いていない時間を「オフ」と呼ぶ。
なぜこうなるのか。病気の初期にはドパミン神経が比較的残っているため、レボドパから作られたドパミンを貯蔵庫に保存して必要に応じて使える。しかし進行するとドパミン神経が減り、薬と薬の合間にドパミンを使い切ってしまい欠乏状態が生じる。これがウェアリングオフの仕組みだ。


ジスキネジアーー今度は「効きすぎる」問題

さらに進行すると、逆の問題も起きる。
手足や肩などがくねくね動く、口がもごもぐ動くなど、自分の意思と関係なく体が勝手に動いてしまう症状を「ジスキネジア」という。5年以上薬を服用しているとかなりの確率で見られる。
つまりレボドパは長期になると、効かない時間(オフ)と効きすぎる時間(ジスキネジア)の間を行き来するようになる。


では次の選択肢はなにか

まず整理しておきたいのは、ウェアリングオフとジスキネジアは真逆の現象だということだ。
• ウェアリングオフ → 薬が「切れる」→ 体が動かなくなる
• ジスキネジア → 薬が「効きすぎる」→ 体が勝手に動く
厄介なのは、進行すると同じ人にこの両方が起きることだ。薬を増やせばジスキネジアが悪化し、減らせばウェアリングオフが悪化する。この綱渡りが患者本人にも介護する家族にも大きな負担になる。

ウェアリングオフへの対応

→ 薬の回数・種類の調整、DBS、持続投与療法

ジスキネジアへの対応

→ 薬の量を減らす、DBS(両方に効果あり)

両方/根本から直したい場合

→ iPS細胞治療(神経細胞そのものを補充)

それぞれ、具体的にどんな治療なのか見ていこう。

① 薬の調整・追加
まず試みられるのがここ。レボドパの服用回数を増やしたり、効果を長続きさせる別の薬を追加する。

② 脳深部刺激療法(DBS)
脳内に電極を埋め込み、電気刺激で運動症状をコントロールする手術療法。ウェアリングオフにもジスキネジアにも効果があるとされ、進行期の重要な選択肢のひとつ。次回詳しく掘り下げる。

③ 持続皮下注療法・経腸用液療法
ポンプで24時間持続的に薬を投与し、血中濃度を安定させる方法。飲み薬では対応しきれなくなった進行期に有効。

④ iPS細胞治療
失われたドパミン神経細胞そのものを補充する再生医療。薬で「補充する」のではなく、神経を「再生する」という発想の転換だ。2026年3月に日本で世界初の条件付き承認が下りたことは、第1話で紹介した通り。


まとめ

• ネオドパストンはレボドパ+カルビドパの配合薬で、パーキンソン病治療の中心
• 飲み始めて数年はよく効く「ハネムーン期」がある
• 進行するとウェアリングオフ(効かない時間)やジスキネジア(効きすぎ)が出てくる
• この2つは真逆の現象で、同じ人に両方起きることがある
• 薬の限界が見えてきたとき、次の選択肢を知っておくことが重要


次回は「脳深部刺激療法(DBS)とは何か——手術で症状が改善される仕組みと、最新のデータ」を取り上げる。父にいつかこの選択肢が必要になるかもしれない。その前に、きちんと理解しておきたい。


#パーキンソン病 #難病 #介護 #患者家族 #レボドパ #ネオドパストン #ウェアリングオフ

いいなと思ったら応援しよう!