拐かし。火付け盗賊改め③ラフマニノフ&スカルラッティの情感とSOUL-JAZZ.GROVE!ハモンドオルガンの夜の帳.🩷💜💚❤️💛

雨には、あまり良い思い出はない。
所謂、雨女という事になるのかもしれない。
私は、ここぞという時には、いつも雨が降ってしまう。
いつだったか、あの人と約束した日にも、どしゃ降りで下駄の鼻緒が切れてしまい、立ち往生した事もある。

そんな時、あの人は新しい下駄を買ってくれるどころか、鼻緒を直してもくれなかった。
そこへ、しばらくして、何歳ぐらいだろうか……
見るに見かねて、自分の草履を私に手渡そうとした少年がいた。
なんて、健気な…….
私は、その草履を受け取るわけには行かないので、その少年に草履を返し、代わりに胸元に入れていた飴玉を少年に手渡した。
その飴玉を取り出す際、胸元が少しだけはだけてしまいそうになったのだけれども、子供だからとあまり気にもとめず、はだけそうになりながら飴玉を一つだけ、渡した事がある。
その時に、私の目を見て、一瞬強張った表情となり、飴玉を受け取りもせず、そのままどころかへ走って行ってしまった。
何か悪い事をしたのかしら…….
子供のする事なんて、所詮、そんなもの……
況してや、大人になると、わけのわからない感情に振り回される事になり、ろくなものじゃない。
その少年が飴玉を受け取らなかったせいで、私の胸元ははだけたまんまで、元通りにシャキッと直したかったのだけれど、裸で歩くわけじゃなし、雨も酷いし、もう、そんな事はどうでもよくなった。

「おい、いつものところで雨宿りでもするか?」
あの人はこんな時に限って、お金もないのに、高い「出合い茶屋」へと行こうとする。
あそこの出合い茶屋は、どうも不気味な感じがしないでもない…….
何か、気のせいだか、誰かに見られているかの様でもあり、落ち着かない。
私は、嫌ともなんとも言えないままに、黙ってついて行く事になった。
その時、出合い茶屋からは、庄内流しの音が…….。
常磐津の師匠なら知ってはいるけれど、庄内流しの方は、あんまり知らないので、黙って右から左へと聴き流すしかない様だ。
その「出合い茶屋」は、川に近いところにある為、厳密には船宿という事になる。
船宿には当然、船着き場があり、ちょいと「イナセなお兄さん」が船頭姿….である事も、たまにではあるのだけれど、あるにはある。
そんな時には、あの人には悪いけれど、こっちの人の方がいいなと思ってしまう事もある。
それは、見た目の問題だけではなくて、一生懸命に汗水垂らして働く姿に、つい、ホロリと来てしまうからである。
船頭さんの腕には、黒い布が巻かれてある事が時々あり、その黒い布が何を意味するのかを、私は知るはずもなかった。
その黒い布を無理矢理にでも剥ぎ取ってしまいたいとも別に思わないので、考える事もなかったのだ。

「おい、入らないのか?何をしてるんだ?」私はぼんやりと考え事をしていたので、雨の中、入口で立ち止まってしまっていた。
だから、かなり雨に濡れてしまい、びしょびしょになり、着物が体に張り付いてしまっていた。
入口では、使用人らしき人が、意地悪な目付きで盥を持って来た。
これで、脚を綺麗にしてもらわないと、店には入れないと……。
なんて、融通のきかない根性悪なんだ。
少しぐらい、濡れてたっていいじゃないか。
どうせ、そこでもて弄ばれた後には、又、風呂に入り濡れてしまうのだから、どっちみち、同じ事である。

盥に入れて持っては来たものの、脚を拭く大判の手拭いを持って来てはくれず、根性悪が根性悪い事をすると、こういう事をするものなのか….と嫌になった。
私は、脚を洗っても、ベチョベチョのままで畳の上に上がる事となり、気持ちの悪い事といったら、ありゃしない。
こんな時に、ちょっとした心付けでもしておけば、こんな事にはならなかったのかもしれない。
私は自分の不甲斐なさと、あの人の甲斐性無しのところに、この時ばかりは嫌という程思い知らされた。

私は、出合い茶屋にてあの人との時間を過ごした後、窓から外を眺めてみた。
相変わらず、雨はやまない。
雨の中を、急いで歩く人、薬売りの旗を背負って歩く人、髪結い箱を手にぶら下げて歩く人、横たわったお年寄りを板に乗せて運ぶ人…….
そこには、色々な人生が、雨に湿らされていた。
そんな時、掛け軸の奥からは、カタンという音が確かに聞こえたのである。
掛け軸の方へと駆け寄ってはみたけれど、何も変わった事はなさそうだったので、あれは何であったのかは、わからなかった。
あの掛け軸……

あの掛け軸の裏側には、隠し部屋でもあるというのだろうか…….
私は思いきって、掛け軸の裏側を捲ってみる事にした。
別に何も…….
ない……..
じゃあ、さっきの物音は何だったのだろう……..
もっと他にも隠し部屋でもあるというのだろうか。

私は、この出合い茶屋が何かしらの不気味さを醸し出している為、
あの人に、恐る恐る聞いてみた。
すると、怒った様な表情で、
「おまえは余計な事を考え過ぎなんだ。俺と会っている間は、俺の事だけを考えろ!」
そう言われてしまうと、返す言葉が無くなってしまう。
でも、確かに、掛け軸の裏側の方からは、何かしらの音が聞こえて来たのだから……..
でも…….
私の中には、何にもない……
私には、分け与えるものが、何にもない……
ただあるのは、この愛だけ…….
だから、何も言い返せなかった。
私は、この人の為に全てを投げうって、道端にでも転げ回ってもいいとさえ思っていた。
それぐらいに思っていたのである。

ところが、最近のあの人と言ったら…….
もう、私の事なんて、必要としていないのだろうか…….
憎らしい
あぁ、憎らしい!
針があったなら、その針で、あの目をつついてやりたいぐらいの気持ちにさせられてしまった。

帰る時間が迫って来た頃に、一階から何やら騒々しい音が聞こえて来た。
火付け盗賊改めの当番の御侍様が、何やらやって来た様である。
私は思わず、身を隠そうとした。
別に何にも、悪い事はしていないのだけれども、身を隠そうとした。
でも、私は、つい、すっ転んで、尻餅をついてしまったのである。
その時、腰を少し打ってしまい、立つのが辛かった。
そんな時にでも、あの人は私に、手を貸そうとはしなかった。

あの人は冷たい…….
私は、あの人を、少しだけ上目使いにて睨んでしまった。
あの人は、私を利用しているだけ…….
そう思わずにはいられなかった。
私に飽きたら、きっと、どこかに行ってしまって、もう、わざわざ会いにも来ないだろうと、思ってしまった。
火付け盗賊改めの場所に連れられて来て、あの時の事を私は思い出してしまった。
今居るこの場所は、藤堂蘭之介が用意をした、とある所にある保養所である。
蘭之介が、このままここに居るのか、別の場所に行くのかを私に聞いて来たけれど、「このまま、この場所に居たい」と申し出たら、蘭之介にとっては、都合が悪いからと言われてしまい、別のこの場所に連れて来られたのである。
その間、特別な黒塗りの籠に乗せられて……であった。
生まれてこのかた、こんな立派な籠には乗った事がない。
乗るとしても、今までなら兎に角、乱暴な担ぎ方であり、「口に布でも挟んで」いなければ、とてもじゃないけれど舌を噛んでしまう運ばれ方であった。
私は、これから、一体…….
その保養所である畳からは、真新しい畳の匂いが立ち込めており、思わず、身じろぎしてしまう心地よさでもあった。
その部屋に飾られた掛け軸には、沢山の蜘蛛の巣がかかっていた。
そこには蜘蛛の巣だけで、主である蜘蛛は、どこにも見当たらなかった。

「いらっしゃい。」
そう言われて、一杯の上等のお茶と珍しい干菓子が添えられていたのである。
干菓子と言っても、そんじゅそこらじゅうの干菓子ではない。
おそらく、お上御用達のしろものだろうという事が、何となくではあるけれど、伝わって来るものであった。

私は、普段目にする事も、口にする事もない干菓子を、思い切り豪快に口へ運んでみた。
そこには、今まで、味わった事のない、和三盆の香りが漂って来たのである。
窓の外を眺めて見るのに、全く何もない。
不気味なぐらい何もない。
ただ、あるのは、真新しい畳の香りが流れて来るだけであった。
そして、二杯目のお茶を急須から入れようとした時である。
そこには、丸まった、糸屑が入っていたのである。
私が、あんなに、待ち焦がれた、糸屑!
私は、その糸屑をまじまじと眺めながら、自分の置かれた立場を考えてしまったのである。

その時である。
みしっ、みしっと、奇妙な音がするではないか……
出合い茶屋の様に、この部屋の掛け軸の裏側にも何かあるとでもいうのか?
私は思い切って、蜘蛛の巣のかかった掛け軸を捲ってみる事にした。
いち、に、さん…….
そこには、思いもしないものが、隠されていたのである。
そして、さめたお茶と干菓子には、百足がめがけてにじり寄って来ている。
その部屋には、夏だというのに、冷たい風が纏わり付いていた。
つづく







🩷 秘密さん。ワールドへようこそ!🩷



🩷影の軍団!は、超お薦めです!私は、大、大、大好きです!🩷

それっぽい、音にはなっております。けれど……。でも、上手い!

⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️⚜️
