突然降ってきた香港④ | フルーツ市場、突然の真剣勝負
朝から十分すぎるカオスを体験したせいで、ふらふらと九龍寨城の壁に沿って歩いていた。気づけば公園の端まで来ていて、視線の先には野菜の袋を持ったおばちゃん。市場が近いに違いない。あれだけ真剣に考えさせられていたスラム街や歴史のことは、一気に脳裏から吹っ飛んだ。左右を確認して、勢いよく道路を渡る。市場の匂いを頼りに、そのまま奥へ進んだ。
あった。
気分はルンルンだ。早速、物色を開始する。あちこちにお目当てのフルーツが並んでいる。ポケットの中の現金が頼もしい。神様ありがとう。
市場では、ここからが真剣勝負だ。店が多すぎると、選ぶのが逆に難しい。
だが、ルールは二つ。人が群がっている店を選ぶこと。もう一つは、手前より奥の店の方がだいたい良い。
値札を見比べながら歩き回る。さっきまでの思考の重さが一気にどこかへ消えて、今はフルーツだけが人生の焦点だ。ずんずん進むと、マンゴーもライチもすぐに見つかる。ドリアンもあるが、丸ごとはさすがに無理だ。あのトゲと強烈な匂いを思うと、持ち歩くのは危険すぎる。と思っていると、今度は剥いてあるものまで出てくる。それも悪くないが、いくらリュックに押し込めたとて、バスに持ち込めば確実に周囲の空気を変えるやつだ。この場で食べちゃおうと、一瞬考えやめる。
一軒だけ、人だかりができている店を発見した。当たりだ。目指すは量より種類。台湾マンゴー、グアバ、人参果、レンブ。それぞれ少しずつ選ぶ。価格も鮮度も悪くない。リュウガンもライチもドリアンも欲しいが、また今度だ。気づけばフルーツが4種類も揃っていて、もはやお土産というより戦果だ。買い物を終えた途端、急に体が重くなった。暑くて埃っぽい道を歩き回ったせいで、汗で服が肌に張り付いている。
もう、いったん戻ろう。
無気力にGoogleマップを操作し、空港行きのバス停へ向けて、ぼそぼそと歩き出す。不意に通りの空気が変わった。派手なパッケージ、ぎっしり積まれた調味料、タイ語だらけの看板。
なんだここ。
一気に目が覚めた。吸い寄せられるように店へ突入する。見たことのないジュース、謎のスナック、聞いたこともない調味料、どう調理するかもわからない野菜。体力はゼロに近いのに、脳だけ急にフル回転し始める。その時だった。鮮やかな緑と白の層になった千層糕(チンチョンゴウ)が視線に飛び込んでくる。
あった!!!
日本ではなかなか見かけない。しかもこれは手作り系で、店によって当たり外れが激しい。思わずじっくり見てしまう。ちゃんと、ぷるぷるしている。甘い香りもする。妙にうまそうだ。気づけば現金を手渡していた。待ちきれず、その場で一口。……おいしい。ココナッツの甘い香りと、パンダンリーフの独特な風味が口いっぱいに広がる。最高に幸せだ。4切れ入りだったのに、気づけば1切れ消えていた。
今度こそ完全に電池が切れた。
クーラーが欲しい。椅子が欲しい。静けさが欲しい。
バスよ。早く来てくれ。
👣ふらりマップ
🛍️ 九龍城街市及熟食中心
🛍️衙前圍道
📍もう少しだけ、香港を歩く。
香港編⑤
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