突然降ってきた香港 ⑦ | 15階から見上げる街
涼しいロビーでチェックインを済ませた後、案内されたのは、15階の部屋だった。各階、二室だけ。エレベーターを降りると、そこはホテルというよりマンションの廊下だった。ドアを開けると、青いソファが出迎える。部屋には柔らかな洗いたての香りが漂い、白と青でまとめられた内装が目に心地いい。
約54㎡。香港では十分すぎる広さだ。窓の外では街がせわしなく動いているのに、室内は驚くほど静かだ。ミニキッチンや冷蔵庫、洗濯機まで揃っていた。紅茶を淹れ、ようやくソファへ体を預ける。湯気を眺めているうちに、今朝買い込んだフルーツのことを思い出した。洗って皿に並べる。
紅茶を飲みながら、マンゴーの皮を剥く。マンゴーの香りがふわっと鼻に広がった。汁がしたたり、ティッシュを探す。まだどこに何があるのか分かっていなかった。ひと口食べると、凝縮された甘さが口いっぱいに広がった。温かい紅茶がよく合う。荷ほどきを終えた頃には、もう何ヶ月もここで暮らしているような気分になっていた。
広々とした水回りには、懐かしいイギリス式の洗面台があった。シャワールームのガラス戸にはチャップリンが描かれていて、そんな遊び心に、思わず頬がゆるむ。シャワーは上からも横からもお湯が飛び出す。最初はどこから水が飛び出してくるのか分からず、少し身構えた。出てきたのは期待以上の熱々のお湯だった。疲れと汚れが一気に流れていき、思わず息が漏れる。海外でありがちな“運試し”はどこにもなかった。大きくて分厚いタオルを体に巻く。膝下まで届くほどゆったりとしていて、その重みまで心地よい。
髪を乾かしながら、ふと窓の外を見ると、ミッドレベルのマンション群が広がっていた。急な坂がずっと上まで続き、見える建物全てが、競うように上へ上へと伸びていた。あんな高さ、一体何階まであるのだろう。向こうの窓から見下ろす景色を想像して、少しだけヒヤリとする。どの窓もカーテンを閉めておらず、日がゆっくり沈んでいくと、ぽつりぽつりと光がともっていく。誰も周りの視線など気にしていないようだった。無数の窓のどこかで、知らない誰かの夜が進んでいる。それぞれの窓では、どんな暮らしが続いているのだろう。少し退廃的なのに、どの窓にもちゃんと人の暮らしが詰まっている。そのアンバランスさが不思議で、どうしても現実の世界だとは思えなかった。窓ガラスに残った雨と埃の跡が、景色の輪郭をわずかに滲ませ、
そのちぐはぐさをいっそう深めていた。
ベッドに横になったまま、夜景をぼんやり眺めていたら、そのまま、深く眠ってしまっていた。いつの間にか、香港にそのまま住み着いてしまったらしい。
👣 ふらりマップ
🛏️ホテル マデラ ハリウッド
📍もう少しだけ、香港を歩く。
香港編⑧
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