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突然降ってきた香港 ⑥ | 永遠に徒歩3分

おいしすぎる飲茶のおかげで、活力は完全に回復していた。元気よくトランクを引っ張りながら、ホテルへ向かう。レストランに着いたときは、食べ終わったらタクシーで移動しようかと思っていたのに、今ではその考えすらなかった。むしろ、このパンパンな胃袋は歩かせて消費するしかない。徒歩20分くらいなら、ちょうどいい。
だが、考えは甘かった。よく考えれば、朝からずっとGoogleマップに振り回されていたのに、あの飲茶で、脳ごと完璧にリセットされていたのだ。

駅から来た道を引き返しているうちは、まだ余裕があった。裏口から入ったのだから、変な道でも仕方ないと思っていた。景色はだんだんおかしくなる。きれいな歩道は消え、交通量の多い道路の脇にある、細い道へ追いやられる。トランクはただの邪魔物で、通行人の流れを妨げている。地面も妙に凸凹で、まっすぐ歩くことすら難しい。

これがずっと続くのはつらい。

どうしようかと周りを見渡すと、少し離れた場所に遊歩道を見つけた。駅からそのまま続いていそうな、いかにも“正解の道”だ。クーラーも効いていそうだし、道も平らだ。あそこを歩きたい。一度駅まで戻ることになるが、それでも構わない気がした。Googleマップの指示とは逆だが、知ったこっちゃない。そのまま歩道橋へ向かう。香港では道も建物の中を通るらしい。モールを抜けた瞬間、目の前にあのエスカレーターが現れた。


香港名物、ミッドレベル・エスカレーター。
これほど唐突に出現するとは。

確か、ホテルはこれの上だ。そう思った瞬間、勝利を確信した。もう迷うことはない。あとは運ばれるだけだ。脳内では勝手にフェイ・ウォンの『夢中人』が大音量で流れる。荷物はエスカレーターに乗せるだけでいい。もう引きずらなくて済む。完全に文明。気分はすでに香港人だ。

ゆっくり上がっていく景色を眺める。ビルの隙間、看板、細い路地。どこを切り取っても香港映画みたいだった。さっきまでGoogleマップに振り回されていたことなど忘れ、頭の中ではエンドロールまで流れ始めていた。順調にエスカレーターを2回乗り換えたあたりでふとiPhoneを見ると矢印が違う方向に進んでいる。

まさか!

もう遅かった......。立ち止まることも戻ることもできないまま、足元だけが勝手に上へ進んでいく。このエスカレーターは上にしか行かない。終点も見えない。ただただ、運ばれていくしかなかった。

守衛さんを見つけて、ホテルの場所を必死に聞く。香港の人はどんな状況でも構わず広東語で返してくる。一方通行のやりとりが続き、半ば諦めかけたところで通りの名前を口にした瞬間、守衛さんの顔つきが変わった。
指差しした先は、歩道橋の真下だった。ているのに、そこへ降りる道がない。場所は近いのに、ずっと遠い。

やっとの思いで地上に降り、もう一度Googleマップを開く。矢印は相変わらず自信満々にズレ、表示は永遠に3分だ。坂ばかりの道を前にして立ちすくむ。上がるか、下がるか。汗だくになりながら、最後の力を振り絞り、右へ曲がった瞬間、壁一面のマリリン・モンローたちが飛び込んできた。



👣 ふらりマップ

⬆️ミッド・レベルズ・エスカレーター


📍もう少しだけ、香港を歩く。
香港編⑦

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