芥川賞候補作「それは誠」を読んでみた
いい事も、悪いことも、それはただの偶然さ。
7/19に発表される芥川賞の候補作を読んでいます。
今回のnoteは、その候補作のひとつ、「それは誠」(著:乗代雄介)のブックレビューエッセイです。この芥川賞をより楽しむための記事になっています。
乗代雄介さんは今回で芥川賞4回目のノミネート。野間文芸新人賞と三島由紀夫賞は受賞しているので、今回の芥川賞受賞となれば純文学三冠王になります。
そんな実力派による「それは誠」です。
それではどうぞ。
「それは誠」あらすじ
おじさんに会いに行く。
なんでこうなったかわからない。ただ僕の中で何かが動き出したんだ。それで会話の潮目が変わった。それは間違いない。
修学旅行の真っ最中、皆が観光地を見に行っているときに、おじさんに会いに行くなんて、それはちょっと普通じゃないよな。自由時間だとはいえ、それはちょっと、いや、かなり変な話だ。
一人で行く。みんなはいかなくていい。
まあ、それは当然だよな。僕のおじさんに会いに行きたがるヤツなんていないだろう。しかもその日におじさんが家にいるかもわからないんだから。

元々この修学旅行のこのグループは、ただの寄せ集め。けっして仲が良いわけじゃない。
この修学旅行がなければ、このメンバーで話をして行動を共にすることなんてことはありえない。それに僕がグループのメンバーになったのも、たまたま学校を休んでいたからなんだ。
そうただの埋め合わせ。ただそれだけのこと。
それなのに、松だけじゃなく、蔵並も、大日向までついて来るっていう。
それってどういうことだろう。

でも大日向は思ってたよりいいヤツだ。
「佐田くんさ」、「修学旅行、同じ班だからよろしく」
あのヤツの言葉には特別な感じはない。でも、「佐田」って呼び捨てにするのはちょっと早すぎない?でもスクールカーストの上にいるヤツにしては気がきている。
「行くんだ?」
ウェーブも出ない肩にかかるまでの長さの髪になった小川楓が、大日向から面白くなさそうにGPSを受け取る。
学校の誰からも一目を置かれる小川楓からすれば、大日向は別としてその他はハズレ男子の寄せ集めなんだろう。
「だから、そういう相談には乗れないよ。よくわからないからね」
蔵並は学校の優等生で、特待生だ。その「特待生」という言葉には、「お前たちは含まれていない」っていうニュアンスを感じなくもないが、でも高村先生と電話友達だってことを伝えたら、あのヤツの顔色が一変したよ。
学校に内緒で計画を無視して行動するなんて、もしバレたら、その特待生が消えてしまうかもしれない。それなのについて来るっていう。本当によくわからないヤツだ。
「佐田くんが一番優しいって」
吃音がある松は、本当によくわからない。僕はそんな優しいヤツじゃない。ただ面倒なことを避けて、自分の感情を隠すだけだ。そんなことを隠すために優しい言葉を使っているだけさ。
それなのに、松がついて来るっていう。本当によくわからない。
東京駅で、みんなと一緒に長い乗り換え道を歩きながら、よくわからない旅が始まった。

小川楓の隣に座ったら、彼女はスマホを取り出してピースサインをした。
「佐田くんが笑っている写真。」
そう、いつもの知らないところで何かが起こっているんだ。

人間関係は偶然の連鎖
とある田舎の進学校の高校二年の主人公佐田誠の発言からこの物語は動く。だが彼はあくまで平然とし「一人で行く。ついてくるな。」という態度。
しかし、結果的にはなぜか彼ら4人全員でおじさんのところに行くことになった。ただの偶然。ただの学校の同級生。この時限りのグループだったはずの彼らの関係性は、誠の発言から代わり始めていく。
人間関係の発展は偶然な出来事が偶然に繋がっていくことが大半、何がそのきっかけとなるかはわからない。物語も直線的に進むのではなく、いくつもの偶然が連鎖している。
スクールカーストの問題、孤独感、劣等感、人を蔑む心といったネガティブなものでさえ、偶然のきっかけとなる。
これは純文学なのだろうか?
小説「それは誠」は面白かった。今回の候補作の中で物語としての完成度は一番高い。
ストーリー展開がしっかりしている。おじさんに会いに行く発言の時、おじさんの家に向かっている時、家についた時。次はどうなる? 最終的にどうなる?最後まで次の展開が気になってしまう。
その物語の中に引き込まれる。ストーリーがしっかりしているから。
でもそれは純文学なのか?芥川賞なのか?と言うと素直にそう思えない。
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