#6. ミネソタかミズーリ
ネガティブな発言
私の悪癖のひとつに「ネガティブな発言」がある。
自覚はしているものの、なかなか止められない。
どうも人よりもずっと頻繁に「大変だ、どうしようもない」と口走るようだ。
しかし、心の奥底は存外ポジティブだと思っている。
「何とかなるだろう」と根拠のない自信は常に隠し持っていたりする。
乱暴な話
少々遠回りをしたが、話を「#1. なぜ私」の2022年の春に戻す。
ギョロメ社長に
「タロイモ、お前アメリカに行くことになったぞ」
と言われ、にわかには信じられなかった私は、
「アメリカのどっちですか?」
と聞いてみた。
ヤマト株式会社(仮称)の技術系社員のアメリカ赴任はYamato Sauce, Inc.(仮称)のシカゴ工場かサンフランシスコ工場のどちらかしかなかった。
「どっちでもないわ。ミネソタだかミズーリだか、その辺や」
今振り返っても乱暴な話であるが、一方の私自身も、そのふたつの州の違いもよく判らなかった。
「中国系の食品会社を買収したそうや。そこの立ち上げや」
そんな話は聞いたことがない。
やはり社長の冗談だ。
「行くやろ?」
はい、はい。
「私は異動ありきで会社に雇われていますから、行けと言われれば、『はい』と言います。どうする?と聞かれれば、『ノー』と答えます」
と、社長の冗談に付き合って、何となく返答した。
「で、家族はどうやねん?連れて行くんか?」
「アメリカなら行きたいって言うと思いますけど。ぶっちゃけ、ミネソタもミズーリも全く情報を持ち合わせてないですし・・・」
と言い終わるか言い終わらないうちに、社長はかぶせ気味に
「よっしゃ、決まりや。栄転やで。お前がそんだけ見込まれたってことや。本部長に返事しとくわ」
と言って帰り支度を始めた。
話は終わったようだ。
冗談でもなかったようだ。
親父の金言とは裏腹に
あれ、ひょっとして断っても良かったのか?とぼんやり考えたのはその日の晩に床についてからであった。
帰宅後、妻に話す。
「やっぱり、海外か。あんたは海外は100%無いって言い続けてたけど、私は信じてなかったよ。子供たちの転校がかわいそうだけど、まあ付いていくよ」
え?
海外赴任が無いって信じてたのは、私だけだったの?
「海外行きたかったんでしょ。本音では」
と妻。
「マジでそれはない。けど、少なくともオレは行くしかないやろ」
と言いながら、私の一番の理解者である妻がそう言うなら、実はずっと海外に行きたかったのかな、などと考える。
高1の長男、
「絶対行きたくない」
中1の二男、
「メッチャいいじゃん。オレ行きたい」
年長の長女、
「友達と別れるの嫌だ」
それぞれに思うところがあるらしい。
「オレの時代は日本国内で評価されれば、それなりに生活できる最後の世代。
オレは何とか逃げ切れそうだけど、お前たちの時代はそうじゃない。
日本は人口も減り、衰退していく。
海外に出ていかないと肩身の狭い思いを抱えて生きることになるから、お前たちは世界に出ていけ」
家呑みでほろ酔い、気持ちが大きくなると、いつも子供たちに言っている親父の金言。
3人ともに言い聞かせてきたつもりだが、いざそういう状況になると、こうも意見が分かれるものか。
いや、待てよ。
なるほど、そうか。
酔うとこんな話ばかりするから、私に海外志向があると妻は誤解していたのか。
ちがうな。
私の悪癖のせいだ。
「海外に行きたくない」=ネガティブな発言
本音=存外ポジティブ=「海外に行きたい」
ということか。
まあ、いずれにせよ、私はアメリカには行かないといけないことになった。
わからないことはすぐにスマホで調べる二男が早速ググる。
「ミズーリのセントルイスってとこ、全米3位の犯罪都市だって」
・・・。
ミネソタかもしれないし、まあ、何とかなるだろう。
