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【構造】海賊船は善か悪かーーシステムが生みだす「歪み」という名の調整機能

18世紀の「海賊船」は、驚くほどに、現代のどの企業よりも民主主義的だった――。そう言われたら、皆さんは信じられるでしょうか。

映画などで描かれる海賊は、粗暴で、ルール無用の無法者集団というイメージが強いかもしれません。しかし歴史を紐解くと、当時の「海賊の黄金時代」における彼らの船内統治は、驚くほど先進的で、徹底された民主主義体制をとっていました。

彼らのリーダー(船長)は完全な投票制で選ばれ、無能であればいつでもクビにできる「罷免権(ひめんけん)」が乗組員にありました。略奪品の分け前も、船長だからといって独占することは許されず、一般乗組員のせいぜい1.5倍から2倍。さらに、戦闘で手足を失った仲間のために、世界初とも言える明確な「労災補償」の仕組みまで完備していたのです。

なぜ、そんな無法者の集まりが、現代のどの組織よりもフェアでフラットな組織を作れたのでしょうか。彼らが善人だったからではありません。そうしなければ全滅してしまうという過酷な海の上で、生き残るために生み出された「生存戦略」であり、社会の歪みに対する自動調整機能だったのです。


1. 始まりは、国家による「都合の良い外注」

彼らが爆発的に増えた背景には、当時の国家(上位システム)側の極めて冷徹な都合がありました。

17世紀から18世紀初頭、イギリスやフランスなどの大国は、覇権を争って激しい戦争を繰り広げていました。しかし、正規の海軍を常時維持するには莫大なコストがかかります。予算をケチりたかった国家が目をつけたのが、民間の荒くれ者たちでした。

国家は彼らに「敵国の船を襲って富を奪っていい」という許可証(私掠免許)を与え、戦争を外注(アウトソーシング)したのです。表立って動けない平時にも、彼らを裏で泳がせ、ライバル国の流通網をボロボロに荒らさせました。他国から抗議されても、「あれはうちのコントロールが効かない無法者の犯罪だ」と言い逃れをする、いわば「トカゲの尻尾切り」の道具として、海賊は不可欠な存在でした。

しかし、戦争が終わると国家は手のひらを返します。 用済みとなった彼らを、今度は「世界共通の敵(悪)」として徹底的に駆逐し始めたのです。

国のために汚い仕事を担わされ、ある日突然システムから弾き出されたプロの海の男たち。彼らの行き場を失ったエネルギーが、既存の社会システムへの反発反応として暴発した姿。それこそが、徹底的な民主主義を掲げた「海賊船」という名の調整機能の正体でした。

他者を暴力で奪う彼らは、法と被害者の視点から見ればまぎれもない「悪」です。しかし、人間を奴隷のように使い潰す国家権力という巨大な「悪」に対して、生存権をかけて立ち上がった対抗秩序という視点から見れば、彼らは「正義(善)」でもありました。

見る角度によって姿を変える、善悪の重ね合わせ。
それが海賊船の本当の正体だったのです。

2. あなたの会社で起きる、まったく同じ「因果のループ」

この「都合の良い外注と切り捨て」の構造は、現代の企業組織でも全く同じように、形を変えて日々繰り返されています。

例えば、組織の立ち上げ期や、大きなトラブルの発生時を思い浮かべてみてください。 多くの経営陣やマネジメント層は、「今はルールなんか後回しでいいから、とにかく泥臭く突破して売上を上げてくれ」「グレーな部分があってもいいから、個人の馬力で解決してくれ」と、特定の優秀な人材によるゲリラ的なスタンドプレーを黙認し、重宝(外注)します。

しかし、組織が成熟し、安定期や規律重視のフェーズへとシフトした途端、組織は手のひらを返します。 「これからはコンプライアンスと仕組みの時代だ」と、かつて組織を救ったはずの功労者を「ルールを守れないお荷物」や「組織の輪を乱す異端児(悪)」として扱い始めるのです。

システム側の都合で歪められ、行き場を失った彼らのエネルギーは、やがて社内での「不満分子のコミュニティ」の結成や、「派閥争い」、あるいは「エース人材の突然の離職」という形のアウトロー(調整機能)として暴発することになります。

3. 因果のループの入り口を確認する

社内で起きるトラブルや反発、あるいはルールに従わない異端児の存在を、単に「個人の人間性の問題」や「排除すべき悪」として切り捨てるのは簡単です。しかしそれは、歴史上の国家がやったトカゲの尻尾切りと何も変わりません。目先のアラートを消音したところで、組織というシステムが内包している根本的な歪みは何も直らないからです。

ここで私たちは、もう一歩深い問いを立てる必要があります。

「なぜ、その調整機能(トラブルや反発)は、この組織に現れなければならなかったのか」

海賊船が生まれたのは、当時の地上社会が「人間を奴隷のように使い潰す」という致命的な歪みを放置し続け、そこから逃げ出すための受け皿を必要としたからです。

同じように、社内で急に反発が起きたり、エースが辞めたりするとき、それは彼らが我が儘だからではありません。組織のどこかに「そうせざるを得ないほどの不条理(無理な負担、評価の不平、方針の矛盾)」が蓄積しており、システムが自らを壊さないために、必死に歪みを外に逃がそうとしている証拠なのです。彼らは身を挺して、システムの歪みを教えてくれるセンサー(検知器)に他なりません。

4. ノイズを除去した先にある、現代の座礁

海賊たちの黄金時代は、大国が圧倒的な軍事力によって彼らを「ノイズ」として徹底的に駆逐・除去したことで幕を閉じました。システム側の歪みを根本から直すのではなく、力で抑え込んで蓋をしたわけです。

ですが、現代においては、国家が海賊を大砲で追い払ったようにはいきません。絶対的な上下関係は消え去り、今や国家や企業という上位システムそのものが、あの海賊船と同じ「民主主義」というフラットな構造のうえに成り立っているからです。

そのような時代において、現場から漏れ出る不満や反発を「排除すべきノイズ」として強引に消し去った先には、一体何が待っているでしょうか。

かつて、海賊たちの世界には、規約を破り、組織の信頼を失った者を無人島に置き去りにする過酷な掟がありました。その際、孤独と絶望に耐えかねたときのためにと、一発の弾丸が込められた拳銃だけが手渡されたと言います。

もし、システムが発する小さなSOSをただの「ノイズ」として片付け、構造の歪みを放置し続けたとしたら――。

次にその歪みが限界を迎えて暴発したとき、組織という船を座礁させ、本当の意味で孤立して船を降ろされるのは、他でもない「リーダー」を名乗っていた自分自身かもしれないのです。

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