10年前に作ったExcelマクロが、いま20万行のAIシステムになるまで
夜勤明けの翌日に、うっかり無理な勤務を入れてしまいそうになったことはありませんか。
シフトを作る仕事をしたことがある人なら、一度はヒヤッとしたことがあると思います。
人が足りない日があります。
希望休があります。
土日のバランスがあります。
夜勤、明け、休みの並びがあります。
遅い時間の勤務の翌日に、早い時間の勤務を入れてはいけないこともあります。
表の上では、ただの文字の並びです。
でも、その文字の向こうには、実際に働く人の体があります。
ここを間違えると、現場はかなりきつくなります。
私は福祉の現場で働きながら、10年以上この表と付き合ってきました。
私が最初にExcelマクロを作ったのは、10年ほど前でした。
今思えば、すでにその時から、解きたい問題は変わっていませんでした。
10年ほど前に作った勤務表マクロ
当時の私は、Excelで勤務表を作っていました。
手作業でシフトを入れながら、何度も同じ確認をしていました。
この夜勤の翌日は明けになっているか。
その翌日は休みになっているか。
遅い勤務の翌日に、早い勤務を入れていないか。
夜勤明けから近すぎるところに、また夜勤を入れていないか。
土日の休みが、特定の人だけに偏っていないか。
最初は、目で見て確認していました。
ただ、目で見る確認には限界があります。
疲れていると見落とします。
急いでいると見落とします。
一度直したところを、別の調整でまた崩してしまうこともあります。
そこで、Excelマクロを作りました。
「夜」と入力すると、翌日に「明」、翌々日に「休」が自動で入るようにしました。
無理な並びを入力すると、その場で警告が出るようにしました。
遅い勤務の翌日に早い勤務を入れようとした時。
夜勤明けから近すぎるところに、また夜勤を入れようとした時。
そういう時に、Excel側が止めてくれるようにしたかったのです。
土日に休みを自動で配る機能も付けました。
もちろん、きれいなコードではありませんでした。
独学です。
本を読み、ネットで調べ、動いた部分を少しずつつなげていました。
今見たら、たぶん自分でも目をそらしたくなるコードです。
試行錯誤の跡だらけで、設計というより「どうにか動かした」という感じでした。
それでも、当時の自分にとっては大きな道具でした。
Excelの中で、少しだけ現場の判断を肩代わりしてくれる仕組みができたからです。
困りごとを、少しずつ道具に置き換えてきた
そのあとも、似たようなことをしていました。
たとえば、組んだシフトをもとに、職員の出勤を業務日誌の担当へ自動で割り当てる仕組みも作りました。
大きなシステムではありません。
ただ、毎回同じように確認していたことを、少しずつ道具に置き換えていきました。
現場の困りごとは、いきなり大きな改善になるとは限りません。
むしろ、小さな「これ、毎回やっているな」が積み重なっていきます。
その一つをExcelで拾う。
また一つをマクロで拾う。
そんなことを続けていました。
派手さはありません。
でも、現場の業務改善は、だいたい泥くさいところから始まるのだと思います。
独学Pythonの壁
その後、VBAの延長でPythonも触るようになりました。
時間をかければ、簡単なプログラムは書けます。
ファイルを読み込む。
表を整える。
小さな画面を作る。
入力した内容を保存する。
そういうことは、少しずつできるようになりました。
ただ、それで「エンジニアです」と名乗れるかと言われると、まったく違います。
私は現場で働きながら、必要に迫られて道具を作ってきただけです。
体系的に学んだわけではありません。
設計の作法も、セキュリティの考え方も、最初から分かっていたわけではありません。
分からないことにぶつかって、調べて、直して、また壊して、また直す。
その繰り返しでした。
なので、自分で書けるものには限界がありました。
作れるとしても、小さな道具です。
一つの困りごとに対して、一つの処理を書く。
そのくらいが現実的でした。
AIと組んだら、作れる規模が変わった
転機になったのは、生成AIを本格的に使い始めてからです。
最初は、ちょっとしたコードの相談でした。
ここでエラーが出る。
この処理を分けたい。
この画面を少し見やすくしたい。
そんな小さな相談から始まりました。
でも、やり取りを重ねるうちに、作れるものの規模が明らかに変わっていきました。
一人で書いていた時は、途中で止まっていたものがあります。
分からないエラーがあります。
直すと別の場所が壊れる不安があります。
AIと対話しながら進めると、その壁を一つずつ分解できるようになりました。
気づけば、20万行を超えるコードが現場で動いています。
そのコードを書いたのは、私ではなくAIです。
ここは、勘違いされたくないところです。
私は、20万行のコードを書ける人間になったわけではありません。
そんな魔法の転職イベントは起きていません。
コードを書いたのはAIです。
私は、何を作りたいのかを伝えました。
どこが現場で使いにくいのかを伝えました。
どの動きは危ないのかを伝えました。
そして、出てきたものを動かし、確認し、違うところをまた伝えました。
その繰り返しです。
一人で抱えていた作業が、対話の中で形になっていく感覚は、正直いまでも不思議です。
いま作っているものも、始まりは同じだった
いま作っているものの一つに、シフトを自動で作る仕組みがあります。
10年ほど前のExcelマクロは、無理なシフトを見抜くためのものでした。
いま作っている仕組みは、シフト表を丸ごと自動で作ろうとしています。
規模はまったく違います。
でも、解いている問題は同じです。
夜勤、明け、休みの並びを守ること。
無理な連続勤務を避けること。
休みの偏りを減らすこと。
人が足りない日を見えるようにすること。
表の上では問題なく見えても、現場で働く人にとって無理がないかを見ること。
10年前にExcelの中で警告を出していた問題を、いまはもっと大きな仕組みの中で解こうとしています。
シフトだけではありません。
記録、確認、通知、マニュアル、日々の業務の流れなど、施設全体の業務を支える仕組みに少しずつ育っています。
ただ、根っこにある感覚は変わっていません。
現場で毎回困っていることを、道具に置き換えたい。
この一点です。
コードを書くのはAI。無理なシフトを知っているのは現場
最近、AIでコードが書けるという話をよく見ます。
たしかに、コードを書く力はすごいです。
自分では到底書けない量のコードが、対話の中で形になっていきます。
でも、AIだけでは分からないことがあります。
何が無理なシフトなのか。
どの並びが現場で負担になるのか。
数字上は足りていても、実際には回しにくい配置はどれか。
この日は人がいるように見えても、経験の偏りで危ないのはどこか。
そういう判断は、現場にいないと分かりにくいです。
コードを書くのはAIです。
「何が無理なシフトか」を知っているのは、現場に10年以上いた私です。
ここに、いまのAI活用の面白さがあると思っています。
AIがすごいから、人間の経験がいらなくなるのではありません。
むしろ逆です。
現場で長くやってきた人の判断が、形にしやすくなったのだと思います。
「これは普通、こうする」
「ここは気をつけないと危ない」
「この並びは、表では問題なく見えても実際はきつい」
そういう言葉になりにくい判断は、いろいろな現場にあるはずです。
シフトだけではないと思います。
書類確認でも、連絡でも、申し送りでも、在庫管理でも、日程調整でも、同じことがあるはずです。
長年、自己流でどうにかしてきた作業の中に、その人にしか分からない判断が入っています。
AIは、それを形にする道具になりました。
最初の一歩は、小さくていい
いきなり大きなシステムを作る必要はありません。
むしろ、最初から大きくしない方がいいと思います。
まずは、自分が長年こなしてきた作業を一つ書き出してみるだけで十分です。
毎回、何を確認しているのか。
どこで間違いやすいのか。
どんな時に「これは危ない」と判断しているのか。
どの作業を毎回手で直しているのか。
それを書き出して、AIにこう聞いてみてください。
「これ、仕組みにできませんか」
この一言だけでも、入口になります。
もちろん、すぐに完璧なものはできません。
AIも一回で全部分かってくれるわけではありません。
でも、会話しながら少しずつ形にすることはできます。
それに、AIとやり取りしていると、思わぬ収穫があります。
自分が毎回、どんな判断をしていたのか。
それが、あらためて見えてくるのです。
10年ほど前、私はExcelのセルに「夜」と入力したら、翌日に「明」、翌々日に「休」が入るだけでうれしかったです。
今見ると小さな仕組みです。
でも、その小さな仕組みが始まりでした。
道具は変わりました。
作れる規模も変わりました。
それでも、解いている問題は変わっていません。
現場で困っていることを、少しでも楽にしたい。
その感覚は、10年ほど前のExcelマクロの中にも、いまAIと作っている仕組みの中にも、同じように残っています。
次に読んでほしい記事
AIとの向き合い方を、基本から整理したいときは、こちらの記事から読んでみてください。
今さら聞けないAI入門①|プロンプトって何?AIへのお願い文から始めよう
そして、AIに少し慣れてきて、
「毎回同じような作業を、決まったやり方で頼みたい」
と思うようになったら、AIに渡す「作業手順書」という考え方も役に立ちます。
その考え方をまとめた記事はこちらです。
Claude Skills関連記事まとめ|結局どれから読めばいい?AIに渡す作業手順書の活用ガイド
ただ、こちらは今回の話より少しだけ難しくなります。
気になったときに、ゆっくりのぞいてみてください。
