ジャズ記念日: 7月1日、1959年@ニューヨーク “Take Five”
“Take Five” recorded on July 1, 1959
by Dave Brubeck, Paul Desmond, Gene Wright & Joe Morello at 30th Street Studio, New York for Columbia (Time Out)
1分50秒に沸き起こる謎があるジャズ史上最大級のヒット曲として認定されているのが本曲です。アルバム名は、「変拍子」と「小休止」を掛けたもので、現代音楽に造詣の深いピアノのデイブブルーベックが、変拍子曲を交えたジャズを一休みのリラックスしたアフターアワーズ的に演奏する、といったような風変わりな企画盤です。
そして本曲名は日本語にすると「一休み/五拍子で演ろう」という掛け合わせの意味があります。作曲は尺八風アルトサックスを奏でるポールデスモンドで、ここでは4分の5拍子の変拍子にブルースの音階を使ったメロディー重視のソロを展開しています。
この曲での主役は冒頭から変則的リズムでリードを取り、中盤でもダイナミズムに溢れるソロを繰り広げるドラムのジョーモレロです。海外ツアーで聴いた異国風のリズムを習得して本作に繋がったというストーリーもあります。
デズモンドのアドリブは通常より更に最低限に絞り込み、ピアノもベースも終始同じパターンを繰り返すだけという徹底ぶり。そのリズムキープがあるからこそ、ドラムが終始アドリブ的に変則リフを挟んだ演奏を繰り広げるというユニークな楽曲となり、リズムの複雑さとは相反するメロディーの親しみ易さと相まって大ヒット曲が生まれたと言えるのかもしれません。

サックスソロが終わったあとの一分五十秒に謎が訪れます。私の手元にあるバージョンだけかもしれませんが、突拍子もなく急激に中低音が盛り上がり、逆に高音が抑制されて違和感を感じます。色々とウェブ上で調べたものの、その根拠は見当たりませんでしたが、2月15日紹介曲で触れた名プロデューサー、帝王マイルスや鬼才モンクの演奏にまで商業的な観点で手を入れたテオマセロによるテープ編集がここにも施されていると推測します。マセロによるブルーベック演奏のテープ編集の臆測については、こちらの拙記事もご覧ください。
マセロ本人がブルーベックのピアノソロは一切無いとインタビューで語っているから、この後にブルーベックのピアノソロがあったものをカットしてドラムソロに繋げたのでは無いだろうかと邪推してしまいます。一方で、マセロはブルーベックだけはテープに手を入れる事には厳しかったいう発言もしているため、断言するのは難しいところではありますが、皆さまは、どうお感じになるでしょうか。
この大ヒットも容易には誕生していません。先ず、バンドは収録日の約一週間前となる6月25日に40分にわたって20回演奏したが上手く行かなかった。そこでマセロが中断して7月1日に再トライ、ようやく完奏に辿り着いたそうです。そしてリリースしてからも二年間、まるで当たらなかった。ジャズ史上指折りの売り上げとなったのは、マセロが編集した三分足らずのシングルバージョンをシカゴのラジオ局にばら撒いたところから始まったそうです。そのシングルバージョンはこちら。短くてデズモンドのソロも別テイクで全く異なるアプローチであることが分かります。
こちらの短尺演奏は如何でしたか。ドラムソロがほぼカットされているのと、アルバムバージョン同様にデスモンドのソロの後に断絶があるように聴こえるので、それもテオマセロによるテープカット編集のように考えられます。

(ブルーベック公式サイト掲載)
マセロは、このシングル版では、その作曲者のデスモンドからアウトテイクを本採用されたとして、クレームの電話を受けたものの、「銀行口座を確認した?編集して売れたから良いよね。さよなら〜」と言って電話を切ったと、辣腕プロデューサーが売るためには手段を選ばないというエピソードを語っています。そこでは編集したとは言うものの、テープカットしているとの明言は無いので謎は解けませんな、この謎、どなたか答えをご存知でしたら是非教えてくださいませ。
さて、尺八スタイルサックスのデスモンドは、ソロ名義では基本的にギターのジムホールと組むパターンが基本となっていました。それはブルーベックとの契約の中で、自己名義の場合はブルーベック以外のピアノ奏者と演奏ができないことになっているから、という記事を読みました。事実は分かりませんが、確かにソロ名義ではジムホール伴奏のケースが多く、カルテットを解散した後にも最終的にはブルーベックとの再演に至っています。因みにソロ名義でのピアノとの共演は、オーケストラ付き等でジャズコンボの編成ではなかったり、エレキピアノだったりするので、確かに情報の信憑性はありそうです。
この音楽を収録したマンハッタンにあるコロンビアの30th Streetスタジオは、ジャンルを問わず数ある名作を生み出した聖地と言えますが、この年は特にジャズの当たり年で、あのマイルスの傑作、”Kind of Blue”もこの年の3月と4月に収録された場所でもあります。そしてそれもマセロの手によるもの。なんとこの半年でマセロと同スタジオはジャズアルバム史上売上の一位となる”Kind of Blue”と二位となる本作”Time Out”を世の中に送り出したという快挙を成し遂げています。
本作の印象に残るアルバムジャケットは、ハワイ出身の日系二世アメリカ人で第二次世界大戦中には強制収容も従軍も経験したニールフジタによるもの。こんな有名なデザインまで手掛けています。


ポールデスモンドとジムホールの演奏に興味を持たれた方は、こちらからご堪能ください。
最後に、前年のコロンビア30thスタジオに興味を持たれた方は、同スタジオ録音の名演奏とその解説をどうぞ。こちらは別の著名プロデューサー、ジョージアバキアンによるものです。
変拍子に溢れる楽しい一日をお過ごしください。
