おばちゃんの想いと青年の再出発
影武者コピーライター|宮本真愿さんの記事のスピンオフを書かせていただきました。
長く、おまたせしました。
公開予定より早いですが、ご査収のほど、よろしくお願い申し上げます。
🍀🍀🍀🍀🍀
大阪のとある公園の近く
たこ焼き屋を営んでいるおばちゃんは、いつものようにたこ焼きを焼きながら思った。
……まったく、またフラフラしとるわ、あの子は。まだ若いのになぁ。毎日毎日、あそこで酒飲んで博打して…。あんたの親御さんが見たら、どんなに悲しむか。ええかげんにせんと、人生あっという間に終わってしまうで。誰か、あの子にちゃんと目をかけてやる人はおらんのか。まぁ、口で言っても聞かんやろけど、言わんと気が済まんわ。『ちゃんと働かなあかんで!』って、聞こえるように言うとこ
青年がたこ焼き屋の前を通り過ぎた。
「アンタ、また昼間っからフラフラしとるんかいな! まだ若いんやから、ちゃんと働かなあかんで!」
青年は軽く頭を下げると、何も言わず通り過ぎる。
……あの子にうちの気持ち、伝わってるんかな?
青年はいつものように仲間と酒を飲みながら博打をしている。
ある夜、公園のベンチで、青年がうずくまっていた。
……あぁ、またあの子、あそこで腹を空かせてる。かわいそうに…。いつも口では偉そうなこと言うてるけど、本当は寂しいんやろ。見てるこっちまで胸が痛いわ。うちも昔は、色んなことで苦労した。あんなふうに、誰からも見てもらえん苦しさはよう分かる
おばちゃんは涙ぐんだ。
……今日はちょっと多めに焼けたから、これ持って行っても、誰も気にせぇへんやろ。でも、真正面から『可哀想だから食べなさい』なんて言ったら、あの意地っ張りが受け取らんかもしれへん。余り物や、ってことにしとこか。その方が、あの子も気が楽やろう
おばちゃんは青年に近づくと、何も言わず紙袋を差し出した。
「あんた、これ食べ! 焼きすぎて余ったやつやけどな...ほら、熱いうちに食べんさい。こんな所で風邪ひいちゃあかんで」
おばちゃんは、それだけ言うと、すぐにさっと立ち去った。
……これでええ。これ以上、情をかけてもしつこなるだけや。あとは、あの子が自分で立ち上がるのを待つしかない。あんた、うちのたこ焼き食べて、もう一回、人の道に戻るんやで。この熱々のでっかいたこ焼き、しっかり食べて、あんたの心も熱くなれ
青年がたこ焼きを見ると、大玉のたこ焼きが8個。
たこ焼きから湯気が立ち昇り、こんがり焼けた表面と、中からとろけ出すような熱気が伝わる。
たっぷり盛られたかつお節は、とても香ばしさを感じさせる。
これは、まぎれもなく「ごちそう」だった。
青年は、人目を避けて、木陰に隠れて食べることにした。
……うっま……なにこれ、やばっ……
……なんで俺……たこ焼き食うて、泣いてるねん……
青年の目から涙が出てきた。
熱いたこ焼きより、熱いものが胸にじわりと広がった。
それから青年は変わった。
酒の量を減らし、博打をやめ、少しずつ働こうと動き出した。
あの時のたこ焼きの味を忘れない。
たこ焼きが青年の背中を押していた。
たこ焼きには、おばちゃんの想いがあった。
おばちゃんの人生が詰まっていた。
毎日、毎日、たこ焼きを焼きながら、おばちゃんは思っていた。
……みんな、毎日一生懸命やってるんやんな。疲れてるんや、きっと。せやから、うちのたこ焼き食べてる間だけでも、ちょっと幸せになってほしい。お腹も心も満たされて、明日も頑張れる活力が湧いてくれたら、それでええねん
「まいど!」
おばちゃんが店じまいする時がきた。
……年やなぁ、さすがにこの商売も体力的にきついわ。寂しいけど、店をたたむ時が来たんやろ。あの子、最近見いひんな。ちゃんと働けてるんやろか。もし、あのたこ焼きが、あの子の人生の忘れられへん味になってくれたなら、うちは嬉しいんやけどな。どこかで元気にやってるなら、それでええ
あの公園のベンチ。
青年がいつも座っていた。
……頑張りや。あんたのこと、うちがちゃんと見守ってるんやから
いつものように街は動いている。
人は流れ、それぞれ物語を抱え、つながり、そして、別れていく。
残るのは、思い出。
おばちゃんの想いは、青年に届いていた。
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