介護費用は結局どれくらい必要なのか 3 「介護パターン」で考える費用 後編
(3912文字)
今介護している方。
これから老後資金が不安な方。
その両方に向けた内容です。
介護の道筋とそれに伴う費用をお伝えするシリーズの後編です。
前回以下の3パターンをお伝えしました。
急変してそのまま施設利用:約1,992万円
じわじわ悪化して、最後は施設:約670万円
じわじわ悪化して、最後まで在宅:約565万円
今回は後編です。少し変則的なパターンをお見せします。
4.身体は元気だが、認知機能が早く低下する場合 約1228万円~約1300万円
5.がん末期や難病など、医療依存度が高い場合 (1ヶ月)約8~10万円
6.主介護者のダウンで突然介護の道筋が変わる場合 約1197万円
です。
なお今回も、シミュレーションのため条件をそろえます。
・介護保険 1割負担
・住民税 課税 世帯
4 身体は元気だが、認知機能が早く低下する場合
認知症先行モデル(10年間) 約1228万円~約1300万円
前編でお見せした「じわじわ悪化するパターン」と似ていますが、認知症が先行するケースは全く別物として考える必要があります。
なぜなら、身体が元気で動ける分、早い時期からサービスの利用量と費用が膨らみがちになり、家族が早期に限界を迎えて施設入所となるケースが多いからです。
「同じことを何度も言う」
「同じものを何度も買ってくる」
家族が「おかしい」と感じて病院を受診した頃には、すでに認知症はある程度進行しています。
体は元気で、自分で歩くことも着替えもできる。しかし、どこに物をしまったかわからなくなったり、時間や場所がわからなくなったりして、火の不始末などのリスクも出てきます。
家族が出勤してからデイサービスが来るまでのわずか10分間に外出して帰れなくなり、遠方で警察に保護された方も、実際にいます。

怖いのは、目が離せないのに身体が動くため、要介護度が低く出がちなことです。
【1年目:要介護1】
【2年目~4年目:要介護2】
身体が動く認知症の方は、デイサービスを、介護保険の1か月の限度額近くまで利用することも珍しくありません。要介護1で月21回、要介護2で月23回程度です。
これ以上サービスを増やすと、介護保険の限度を超えて自費になります。
家にいると、エアコンのコンセントを抜いてしまう、収納ケースを動かしてしまう。本人にとっては理由があってやっていることです。
家族は「デイサービスにほぼ毎日行ってくれているから、きついことを言わないようにするストレスに耐えられています」と言われます。
しかし、そのためのデイサービスの利用料は月約4万円です。
【5年目~6年目:要介護3】
さらに認知症が進むにつれ、排泄の失敗が出始めます。紙パンツの交換や汚れた衣類の洗濯が加わり、家族の介護疲れが蓄積してきます。ショートステイを利用し始めます。
介護期間が長くなり、排泄などの介護負担が重くなると、施設を考え始める家族が多くなります。
特別養護老人ホームにはすぐに入れるとは限りません。家庭的な環境で過ごせる「グループホーム」を選ぶ方もいます。
【7~8年目:要介護4・5】
グループホームに入所します。
グループホームの費用目安
・敷金:10万円として試算
・月額費用:約19万円(介護保険1割+ 家賃 + 食費 + 管理費 +日用品・雑費)
【9~10年目:要介護4・5】
「費用が抑えられる特養(月約16万円)」へ移るか、「環境を変えずグループホームで看取る(月約19万円)」か選択することになります。
費用面では特養が安くなりますが、「最期まで慣れ親しんだ場所で」とグループホーム継続を選ぶケースも少なくありません。

(専門職からのワンポイント解説:施設検索サイトの表示金額には注意)
施設検索ポータルサイトに最初に表示される「月額費用:○万円」という金額は、介護保険自己負担分や、実費(おむつ代等)が含まれていない場合があるので、注意が必要です
5 がん末期や難病など、医療依存度が高い場合
介護・医療処置 短期同時進行モデル(1ヶ月から数か月) 月額約9万円~10万円
これまで10年を例にしてきましたが、例外的に数ヶ月としました。
病気によっては、介護が始まってから数か月という短い期間に、医療と介護が集中する場合もあります。
例えば、がんの終末期や、肺や心臓の重い病気などです。
だるくて苦しくて、動きづらい。トイレまで何とか行っている。ところがあっという間に歩けなくなり、食べられなくなる。
排泄(カテーテル)・たんの吸引・点滴などの医療処置と介護が同時に必要になります。期間自体は短いことが多いものの、心身・金銭の負担が短期間に集中します。
ご家族が、「看護師さんが来るときに、衛生用品を出したり片づけたりする手間が大変だった」と言われたのが印象に残りました

自宅療養では訪問診療・訪問看護・訪問介護・訪問入浴・介護ベッド・エアマット、衛生用品(おむつ、処置用品)などをフル活用します。
このパターンの場合、期間もサービス量も幅がありますが、集中的に利用した場合を試算しました。
【医療・介護サービスを集中的に利用した場合のモデル】
通常月:約8万円
看取り月:10万円超となることもあります。
この段階では、特養、老健、一般的な有料老人ホームなどは医療処置に対応できないことがあります。訪問看護などを併設した住宅型有料老人ホームや緩和ケア病棟などを選ぶことになります。
入居した場合、上記のサービスに、家族が担っていたおむつ交換などの介護費用 + 賃料・管理費 + 食費(食べられるかによります) + 洗濯代などの実費が加わります。

自己負担割合、期間などによって大きく異なります。
(専門職からのワンポイント:医療処置可能な施設)
医療処置の中でも、特に受け入れ先が限られるのが「たんの吸引」です。吸引が必要になると、入所できる施設が一気に少なくなります。そのため立地や費用だけでは施設を選べなくなることもあります。
「どこか入れるだろう」と思わず、担当のケアマネジャーや病院の相談員へ早めに相談することをお勧めします。
6 主介護者のダウンで突発的に施設移行する場合
主介護者の突発的離脱モデル(10年間)約1197万円
本人は少しずつ悪くなっていました。でも、何とか生活できていました。
それを支えていたのは、一緒に暮らす配偶者(もしくは子ども)です。
ところがある日。その主介護者が入院した。その瞬間に在宅介護は続けられなくなります。
老老介護や認認介護では、起こりやすいケースです。介護の道筋そのものが変わってしまうのです。
突然始まる「明日から入れる施設探し」
ここまでの経過は、前編でご紹介した「少しずつ悪くなるパターン」と同じです。費用小計は約138万円でした。
しかし、主介護者が離脱すると、状況は一変します。
「今日から1人にできない」という緊急事態となり、空いているショートステイを数か所転々としながら凌ぎ、その間に次の入居先を探すことになります。
この場合も、特別養護老人ホームにすぐ入れるとは限りません。そこで、すぐ入居できる民間の有料老人ホームを選ばざるを得ないことがあります。
このパターンの最大の問題は、緩やかにステップを踏んで準備する時間がないことです。
事前の予算検討や施設の見学・比較をする余裕がないため、本当なら比較して選べたはずの施設を、急いで決めなければならなくなります。
高い施設を選んだのではなく、高い施設しか選べない状況になったのです。

【1~6年目:在宅じわじわ期】(約138万円)
前編のパターン2と同じように、要介護3までなんとか自宅で過ごす。
【7年目~8年目:主介護者が突然ダウン】
主介護者が緊急入院。本人はまず緊急で「ショートステイ」に駆け込む。
・ショートステイ利用(3カ月):月15万円 × 3カ月 = 45万円
【7年目(途中)~8年目:民間の有料老人ホームへ入居】
特養の空きを待つ時間がないため、空きがあった民間の有料老人ホームへ入居。
・有料老人ホーム(2年間):月30万円 × 21カ月 = 630万円
【9~10年目:特養へ移る】
有料老人ホームにいる間に特養の申請を出し、ようやく順番が回ってきて移る。
・特養(2年間):月16万円 × 24カ月 = 384万円
10年間の費用トータル:約 1,197万円

【もう一つのリスク:ダブル介護・医療費】
このパターンで絶対に忘れてはならないのが、「倒れた主介護者の医療費や介護費も、同時並行でかかってくる」という点です。
本人の施設費用を払いながら、倒れた主介護者の入院費や、その後の介護費用がのしかかってきます。家計全体の資金繰りが、一気に厳しくなる可能性があります。

介護の道筋は、途中で変わる
介護の道筋とそれに伴う費用、いくつかのパターンをお見せしました。
介護費用は、平均ではなく道筋で考える。前編ではそう書きました。
でも、その道筋は最初から最後まで決まっているわけではありません。道筋は途中で変わります。
だから介護費用を考える時は、一つの数字を用意するのではなく、いくつかの道筋を知っておく。そして、道筋が変わったら、費用がどう変わるかを考えることになります。
そして、介護費用は大切ですが、その前に確認しておいた方がよいことがあります。
次回はそれを取り上げます。
次回予定
介護費用の前に、本当に用意しておくべきもの
介護した方、している方、専門職の方、お話、ご意見、ご経験を聞かせていただけると、とても喜びます。
