個展『桜標』を終えて、写真と空間の話
個展「桜標」が終わって、ずいぶんと時間が経ってしまいました。
父の病気のこともあって、実家に帰ったり、東京で仕事をしたり、、、と気忙しい日々を過ごしております。
個展が終わった直後は、正直、ほっとしました。
初個展「写真小説」のような、多くのファンを持つモデルもおらず、
二人展「PARALLEL」のような、二人がどんな展示をするのかという期待性もなく、
個展「夢みるバタフライ」のような生誕100年という話題性や体験型という企画もなく、
ただ、淡々と身近な人や家族、自分の写真を展示する個展にどれだけの人が足を運んでくださるのか・・・?
ルデコの地下というややネガティブな印象を持つ人も少なくない会場でやる不安もあった中で、461人ものお客様をお迎えできたこと、感謝の気持ちでいっぱいです。
改めて、ありがとうございました。
今回は展示の内容そのものではなく、個展を終えて感じた私にとってのポートレートについて、そして、ギャラリートーク、ルデコ地下という会場について少し振り返ってみたいと思います。
身近な人を写す
個展の内容や想いについては、ひとつ前の記事に書いたので、振り返りでは省略しますが、多くの方が「家族や身近な人たちの写真を撮ろうと思います!」とおっしゃってくださったことは、本当に嬉しかったです。
時が経つのは恐ろしいほど早い。年を取ればとるほど、その速さはそよ風が突風に変わったように、びゅんっと早く感じられます。
今しか写せない表情や季節を感じられるもの・・・。
後で見返したときに思い出話に花が咲くような、そんな写真を撮り続けていけたらと思います。
モデルの様に一般の人を写す
日頃、俳優さんやモデルさんを仕事で撮っていますが、一般の人を撮るときも基本的には同じように撮ります。が、一般の人は“できたら撮られたくないけど、必要に迫られて”という方も多いです。そして、一種のルッキズムの呪いのような、“太っているから”、“シワがあるから”と、写真に撮られることにとても躊躇します。日頃からテレビや雑誌、SNSで美しい人を目にしていると、ついつい自分との差を気にしてしまう。比べる必要などないのに、若くて、細くて、綺麗であることが価値だと、私たちは長い間刷り込まれてきたのかもしれません。
そんな人たちに私が伝えることは、そのままのあなたが素晴らしいこと。そして、好きな俳優やミュージシャン(所謂、推しですね)や、お気に入りの音楽、大好きな食べ物・・・などの話をすると、みんな良い笑顔になる。
あとは、少しだけ角度を整えて、綺麗に光を当てて撮る。大事に大事に。
何なら、「後でレタッチでいくらでも整えてあげるから、細かいことは気にしないで~!」と言うと、みんな自然体になる。(結果として大してレタッチをすることもない)


16年の歳月が経っても、彼女の笑顔は素敵なまま。
苦労の連続だったことも、彼女の今に繋がっている。
誰かを撮るとき、私はその人を心から愛しているのだと思います。
その人がその人らしく、素敵に。
写真を渡すときに、「私じゃないみたい!綺麗!嬉しい!」と言ってもらえることは、私が自分で体験したいことなのだと感じます。
あなたは素敵だよと、特別な眼差しを向けることの高揚感は、撮る方にも撮られる方にも起こる体験です。
今回、展示させていただいた皆さまには、2L判にプリントしなおしたものを額装してお送りしました。最初は、「自分の写真なんて飾れないよ~!」と言っていた人たちも、届いた写真を見て、「飾ってみる!」と、嬉しいコメントが返ってきました。
素敵に写った自分を見て、今日も頑張ろうと思えるって、本当に素晴らしいことだなと思います。
そんな写真を撮り続けて行けたら、と思っています。
ギャラリートーク、盛り上がる
会期中には、尊敬するうつゆみこ先生とギャラリートークを行いました。
最初、1時間の予定で先生にお願いしたところ、「いや、、、話し足りないでしょう!(笑)」と、1時間半になりました。

うつ先生は写真の学校に通っていたときに、授業とゼミでお世話になった大好きな先生です。経歴はご覧の通りで、私にとっては雲の上の先生。
ご自身のご家庭のことや個展開催前ということもあって、トークをお願いするのは躊躇しましたが、今回のテーマで話をするなら先生しかいない!と思い切ってお願いしました。

ギャラリートークには約30人もの方にお越しいただきました。
たくさんのご参加ありがとうございました!
うつ先生の話に会場は何度も笑いに包まれました。
印象的だったのは、亡くなられたお父様の服を着て撮影した作品についての話でした。
私はてっきり、
「撮影を通してお父様への気持ちが変化した」
といった話になるのかと思っていたのですが、
先生は
「特にないです。ばばばっと撮って仕上げてるので」
と、あっさり。
会場が少しざわざわしたのを覚えています(笑)
個展会場でしんみり写真をご覧になっている方を見て、「しめしめ・・・と思ってるんですよ(笑)」と、うつ先生。
好きだった人に振られてしまい、一緒に行く予定だった動物園で撮ったセルフポートレートをZINEにして販売してしまう。
そのバイタリティも私はとても好きです。
何でもネタにしてしまう「写真家魂」。
私なら傷口を抱えてしまうような出来事も、先生は作品に変えてしまう。
悲しみも、失恋も、家族も、自分自身も。
それが写真家という生き物なのですね。
私のセルフポートレートについても、ある意味、写真家魂的なところがあるのかもしれません。
50歳でルッキズムの呪いを解放したくて始めましたが、個展で賛否、色々なご意見をいただいて、自分の中に確かな熱というのがあるのだと感じました。
ギャラリートークでも話題になりましたが、若さや顔の美しさではなく、時間と存在を写せたらな、と思います。
うつ先生が仰ったように、ブスだと言われ続けた毒を抜くには時間がかかるとは思いますが、その葛藤や揺らぎも含めて、写ってしまうのがセルフポートレートなのかもしれません。
60歳の還暦まで試行錯誤して、何か私独自の表現にたどり着けたらいいなと思いますし、今から還暦記念の個展がとても楽しみです。

そして、その「写真家魂」の敵は、政治や戦争の存在なのだという話も印象に残りました。
バイタリティ溢れる先生でも、毎日のニュースに傷つき、思考を占められ、制作に集中できない。それは言い訳でもなんでもなく、とてつもなくピュアなことなんだと思います。
日常の中に起こる出会いや別れ、喜びや悲しみを表現することはできても、人が人を利益のために傷つける戦争や政治の下では、息ができなくなる。
ふと、昔、私が担当した「無言館展」のことを思い出しました。
無言館は戦争で亡くなった画学生たちの絵を展示している美術館です。
出征の直前まで絵筆を握っていた若者たちが、絵筆を銃に持ち替えて、戦地で散っていった。
写真家である私は、ふと、シャッターではなく爆弾のボタンを押す未来を想像してしまった。
芸術は日々を豊かにするもの。戦争のない世の中に。そして、日々が日々であるように。そんな政治になってくれるように、写真家として、私も「声」をあげて行かねば・・・。
前職の頃の私は「思想的なことは言わない」という感覚が強かったのも事実です。「職場や飲食店では政治や宗教、野球の話はするな」と言われた世代でもあります。
写真家として声を上げるという発想は正直ありませんでした。
けれど、芸術や表現を守るために声を上げることは、政治的な主張とはまた別のことなのかもしれない。写真家の末席にいる私も思いを新たにしました。
写真を撮れる日常が、当たり前に続いてほしい。
そんなことを改めて考えたギャラリートークでした。
【追記】
ギャラリートークは簡易スピーカーとマイクを使用しました。
30人くらい集まると地声ではなかなか聞き取りづらいので、あると便利だと思います。
ルデコの地下攻略
ギャラリー・ルデコの地下は企業ブースになったり、導線的に上の階からの流れも良くなかったりと、「ちょっとネガティブな印象を持っていました」というお声もいただきました。
私も、初個展は3階、二人展は6階で行いましたが、結論から言うと、地下は個展をやるのにベストな場所なのではないかと思っています。
メリットとデメリットを挙げると、
【メリット】
地下は他の階よりちょっと安く借りられる
※2027年の料金改定で統一となります
https://ledeco.net/?p=224903~6階より比較的直前でも予約しやすい
https://ledeco.net/?page_id=150263~6階の影響を受けない独立した空間
360度視界に収まる手ごろな広さ
窓がないためライティングのコントロールがし易い
バックヤードからすぐ出られてお客様を迎えられる
【デメリット】
地下独特の匂いがする
※空気清浄機設置あり、お香を焚くのもOK壁が固く釘が入って行きづらい
出入り口がEV側と階段側と2つあって、展示導線が作りづらい
※階段側を可動壁で封鎖することもできるバックヤードが他の階と比べるとちょっと狭い
※個展なら十分。備品も十分
というところでしょうか。
私にとっては、壁が固いことを除けば、メリットの方が大きかったです。
お香はお気に入りのものを日々変えていたのですが、お客様からも、いい香りで癒やされますねと好評でした。
今回、お客様にくつろいでいただきたくて、お茶のサービスをしたのですが、バックヤードからすぐに出られて、ご提供もしやすく、ストレスフリーでした。
私自身も真ん中のテーブルでお客様とお茶を飲みながらゆっくりお話もできたので、とても良かったです。

地下の壁にも電気のスイッチや通気口などがあるので、展示できる場所は注意が必要です。
慣れているルデコでも、一度、下見に行かれることをおすすめします。

スイッチや通気口を避けたレイアウトに。
2つの可動壁も壁に沿うようにし、
360度見渡せるようにしました。
3~6階は多くのお客様がいらっしゃるグループ展で
EVが混みあうことが予想されたので、
階段側の出入口に案内表示をし、
混雑時に使用できるようにしました。
今回も360°フォトグラファーのOsonoeさんがVRを撮影してくださいました!こちらもクリックしてぜひご覧ください!

外の桜が見られないのも寂しいなと思い、
生花の桜を飾りました。
最初はつぼみだった桜も会期を終える頃には満開に。
「地下は不利」と言われることもありますが、今回461人もの方にご来場いただきました。
結局のところ、地下かどうかよりも、どんな展示をするのか、どう人を迎えるのかの方がずっと大切なのかもしれません。
もし、ルデコで個展をと考えてらっしゃる方は地下、今年末までがねらい目です。
2027年からは料金改定で全フロア同額となり、地下も30万円になります。
現在の価格で借りられるのは今年末までですので、検討されている方は早めのご予約をおすすめします。
締めくくりに
個展『桜標』は終わりましたが、時間はこれからも流れていきます。
また誰かの人生の節目を撮り、身近な人を撮り、自分自身も撮りながら、
写真と時間について考え続けていきたいと思います。
そして、いつか還暦の個展で、今の自分を懐かしく振り返る日が来るのかもしれません。
ご来場くださった皆さま、ご協力くださった方々、本当にありがとうございました。
