新書大賞2025 第4位にランクイン!4か国の学校で教える作文の「型」から分かる“論理的思考”の違いとは。社会学の視点で紐解いた書籍が話題!
教育やビジネスシーンなどあらゆる場面で必要とされる「論理的思考」。その定義はすごくあいまいで、難解とも言えます。そんなモヤモヤを社会学の視点で紐解いた新書『論理的思考とは何か』(岩波新書)が2024年10月に発売され、5万部発行のヒット作となっています(25年2月現在)。著者である本学教育発達科学研究科の渡邉雅子教授に、論理的思考に関する研究内容や研究を始めたきっかけなどを聞きました。
アメリカの大学で洗礼を受けた「見えない文化衝突」
書店にずらりと並ぶ、論理的思考に関する指南書。そのほとんどは「冒頭で結論を述べて、そのあとに根拠を示す」と書かれていますが、渡邉教授は「これはあくまで“アメリカ式”の論理的思考にすぎない」と指摘します。広く知られるこのアメリカ式は、論理的思考の一つのパターンであり、文化や目的などによって論理的思考の考え方が異なることを、35年以上にわたる研究調査で明らかにしました。
渡邉教授の論理的思考に関する研究はニューヨークでスタートします。コロンビア大学に入学し、初めて提出したエッセイ(小論文)が“評価不可能”として却下され、何度書き直しても「よく分からない」「説明しなさい」と差し戻されたそうです。そのときに知ったのが“アメリカ式の書き方”でした。その型で書くと評価は一気に上がりました。「書いている内容は同じなのに、作文の仕方を変えただけで評価が変わるなんて――」と、雷に打たれるような体験をしたのを機に、論理的・非論理的であることの違いや、論理的思考は何に起因するものなのかを研究することになりました。

子どもたちの作文や授業を観察、教科書を分析して各国の思考法を探る
まずはアメリカと日本を比較するため、それぞれの学校で作文実験を行いました。子どもたちが同じ絵(4コマ漫画)を見て、どのように絵を説明して理由付けるのかを調査するという内容です。このほか、国語と歴史の授業や教科書を分析し、作文教育が子どもたちの思考や表現にどのように影響を与えるのかを探りました。
コロンビア大学で博士号を取得した後は日本に帰国し、東京大学社会科学研究所と国際日本文化研究センターで研究を続けます。その中で、フランスにも独自の思考と表現のスタイルがあることを知り、比較対象に加えることになりました。フランスに15年ほど通い、小・中学、高校の授業を観察し、フランスでの調査がまとまると、次にイランを第4の比較対象として調査に着手。「4つの国の国語と歴史の教科書は小学1年生から高校3年生まで読み、授業を観察しました」と、地道に研究を重ねてきました。



他国と比較対象できるまでには約5年かかったとのこと
論理的思考は文化、目的によって異なり、世界共通ではない
渡邉教授は、4つの国それぞれで教えられる作文の型をもとに思考と表現のスタイルをモデル化し、アメリカは「経済型」、フランスは「政治型」、イランは「法技術型」、日本は「社会型」と示しました。
アメリカ型は、主張を効率的に論証して相手を説得することを目的に置き、「効率的か否か」を重視します。フランス型は、あらゆる可能性を吟味して矛盾を解決して公共の福祉(利益)に生かすことを目的とし、「十分な審議が行われたか否か」を重視します。イランは真理の保持と規範の遵守を重視し、ことわざや詩を用いて宗教的・道徳的な結論を導くスタイルで、「真理か否か」を重視します。日本では小学校の読書感想文にみられるように、書き手の体験への共感と社会秩序の維持を念頭に置き「共感されるか否か」が重視されます。
こうした整理を踏まえ、渡邉教授は「論理的思考は世界共通のものでも、不変のものでもない。目的に合わせて論理を使い分けてほしい」と提起します。
多くの方からの要望に応え、出版された入門書
今回の新書は、2023年に刊行した学術書『論理的思考の文化的基盤―4つの思考表現スタイル』(岩波書店)を再編し、西洋の思考パターンも解説する入門書的な立ち位置。前作もWEBメディアで取り上げられ話題となりましたが、高価な学術書だったことから「多くの方に読んでもらえる形で出版してほしいという声があり、新書で発表した」(渡邉教授)とのこと。発売告知後すぐに予約が多数あり、発売前から重版が決定するヒット作となりました。
読者からは「目から鱗」、「日本人は非論理的と言われることが多く、モヤモヤしていたが腑に落ちた」といった感想が寄せられています。複数の大学で来年度から初年次教育の教科書としても使われるそうです。渡邉教授は「ポスト近代と呼ばれる新しい社会の形を示した上で、そこで求められる教育として、今回提示した4つの思考表現スタイルを小学校から大学という大きな教育システムの中で、どのタイミングで取り入れたら良いのか、提言書を書きたい。あとは新書のもとになった学術書を英語で出版したい」と、次回作の構想に思いを巡らせています。

