[AIが仕事を奪う]の本当の意味を,僕らは分かっていない【前編】
2022年末頃に登場したChat-GPTをきっかけとした大規模言語モデル、いわゆる生成系AI出現によって世界は激変し、最近では数日で、関連する新しい技術が公開されています。
僕は学生の頃からIT業界に関わっており、ここ30年ほどのテクノロジーの進歩を見てきましたが、これだけのスピードは初めての体験です。僕の周囲の友人たちも言っていることですが、あたかも昨年1年がまるで今年の1カ月であるかのような速度です。
いわゆる[AI脅威論]への疑問
そんななか、すっかり現実味を帯びて語られる[AI脅威論]。いわく、AIが仕事を奪う、AIが世界を滅ぼす…。
ただ僕は、そうした脅威論に少々的外れなところを感じてもいます。
指摘される[ホワイトカラーの没落]
組織内での「2:6:2の原理」だとか「パレートの法則」といったことが、ビジネス書や経営論で語られています。
いわく、組織においては、最も優秀な上位層が2割、中間層が6割(その6を3:3に分ける場合も)、下位が2割というふうに能力がばらける。これは働きアリの組織でも見られることで…云々といったことです(それについて詳しく論じるわけでないので、何となく思い出していただくだけで構いません)。
AIによって超格差社会になるといわれているその根拠は、AIによる仕事の代替が進むと、持っていかれるのは「2:6:2」の中間にいる6割の人材の仕事で、その結果、その人材たちは上位層か下位層に行くしかなくなり、多くの場合は下位に行くことになると。
※ここで上位、下位、という表現がちょっと鼻につきますが、一般的なピラミッド型の組織図や、収入の多寡を尺度としたときの、ただの位置関係とお考えください。
経営陣は,賃金と設備投資を天秤にかける
さて、上位2割の人材がすることは、会社の経営を考える、企業同士の強みを活かした業務提携を提案するなどの意思決定です。データ分析はAIにできても、意思決定をしてビジネスを進めるのは人間です。
それが決定され、タスク化して割り振られる。本来それは、中間にいる6割の人材、いわゆる上~中位のホワイトカラーの仕事ですが、ある程度のスキルが必要となるそれらの仕事が、最もAIに代替されるといわれています。
分析もドキュメント作りも、AIに任せたほうがいいものができるとなれば、おのずとAI任せとなる。
ただその後、例えば製品が完成した際に必要な細かな手作業には、まだ人手が必要です。
経営者は、ロボット開発と人間が行う場合の人件費を天秤にかけます。今のロボット技術では、洗濯物ひとつたたむこともなかなかできない。それができるロボットを作るのにコストが掛かりすぎるなら、安価で働く人を採用したほうがいい。
その結果、柔軟な物理作業はやはり人間が行う。そしてその賃金は、安いままにとどまる。
つまり、上位2割には億円を超える収入を持つ人材が、下位2割には最低賃金で働く人材が集まり、そうした究極の二極化がここ10年で起きていくかもしれない。いや、起きつつある…。
ここまでは、よく指摘されていることです。
ホワイトカラーの没落で[人材を育てる]ができなくなる
現在、上位2割にいる人材、あるいはその候補となる人材は、生まれながらある程度のセンスや才能を持っていて、その能力の上に、失敗を含めた数多くの苦労や経験を積んできた人だと思います。
どんな天才でも、苦労や経験なしには、上位2割には行けません。つまりは、もともと才能のあった人が、数多くの実践を積んで、ほかの存在に代替されない実力を身に付けたから、上位2割の経営者、経営陣に成り得た。
このことが、僕の危惧する、一番大きな「AIに仕事が奪われる」問題であり脅威です。
つまりこうです。
今後、中間にいる6割の人材の仕事がAIに代替されると、どうなっていくか。そこから上位を目指そうとするホワイトカラーの、成長の機会が奪われていきます。
コンサルの世界ではすでに始まっている
例えば戦略コンサルタントの世界では、新人の頃は、先輩のパートナーについて客先に行き、会議の議事録を取りながら、上司がどのように顧客と話をしてるのか、問題解決をするのか、を聞くことで日々学びます。
毎日、ひたすらリサーチや企業調査といった仕事を行うことで企業の分析手法や、会社とは、経営とは、の基礎を学びます。
こういった仕事は実に単調。でも、その中で、上司に学び、顧客に学び、社会を経験し、そうして成長していくのです。つまり、その下働きすることで、若手は成長機会を与えられるのです。
お察しの通り、それらは最もAIに代替しやすい仕事です。AIは議事録も取るでしょう、リサーチもしますし、企業分析もお手の物。そういったルーティンワークは人より圧倒的にAIの方が早く正確でコストもかかりません。
上司が「部下でなくAIを使う」ようになった先には
そうなると、上司としては、あえて部下を、新人や若手社員を使うより、AIを使いたくなるでしょう。すると、若手が、単調な仕事から学び、非効率なことをしたりしながら失敗する、そういう「若手が育つ機会」が徐々に失われてくことでしょう。
本当に勘のいい人材なら、AIの仕事を見て学び、自己成長につなげて上位2割に行けるかもしれない。でもそれは中間の6割の中でもごくわずかでしょうね。数%もいないのでは、と思います。
【後編に続く】

