相沢ハルが死んだ日。⑬最終話【創作大賞2025】
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※この小説では、時間軸が過去に向かって進みます。
※最初から読んでも最後から読んでもストーリーをお楽しみいただけます。
【エピローグ】
2023年3月17日
燃えている。
赤黒く燃えている。
その炎は、夜の漆黒の闇へと繋がり、まるで闇宇宙に吸い込まれそうなほどの悲しみと叫びを湛えている。
予期せぬ死。
道半ばでの死。
誰も触れられない秘密。
それらをすべて隠し、焼き尽くすように天高く燃え上がる炎。
その時、何があったのか。
痛みも恐れも感じないほどに、記憶も定かではない数時間。
本当のことは誰にも分からない。
けれども、確かなことが一つ。
三名の尊い命が失われ、母子一組のみが生き残ったということ。
◇◇◇◇◇◇◇
ああ、どうか私を代わりに召してください!
彼らに何の罪があるというのでしょう。
もしも代わることができるなら、喜んで命を差し出します!
生きる意味のない人なんていない。
やり残したことがいっぱいあったはず。
時間よ、止まれ!
もしくは、戻れ!!
この炎がすべてを焼き尽くす前に、懺悔の時間を私にください!
それすらも叶わないというのなら、せめて私の命も共に焼き尽くしてください!
◇◇◇◇◇◇◇
きっと放火でも、一家心中でもない。
残された彼女が、あまりにも明るい。
「殺すわけない。だって、こんなにご家族のことを大事に思ってたんだから。ハルを見ていたら分かるよ。たとえ記憶が定かでなくても、犯人はハルじゃない。俺が証明してもいい。ハルは違うよ」
自分でも何の根拠もない、ということは分かっていた。それでも今、ここに生きているハルには、前を向いていてほしかった。
誰よりも壮絶な過去を背負っているはずなのに、そんな様子を微塵も見せない。
むしろ、明るく振る舞い、周りを和ますムードメーカーでもある。
そんなハルだからこそ、優弥は尊敬したし、彼女の心がパリンと音を立てて割れることのないよう、そばで見守ってやりたかった。
それにしても、同じような悲劇を経験したとしても、自ら死を選ぶ人と、生きる意志を見せる人の違いは何だろう。
ハルと接していたら、その答えが少し見えそうな気がした。
何か、春の陽だまりのような、柔らかな雰囲気。
「いつも前向きで素晴らしいですね」
はじめて出会った頃、病床のハルの姿に感銘を受けた優弥は、思わず声をかけた。
すると、ハルはふんわりと笑みを浮かべながら、こう答えた。
「愛しているんです。大切な家族のこと」
「そうですか。愛があれば、大抵のことは乗り越えられますか」
「おそらくそう思います。愛といっても、相手からもらおうと思うんじゃなく、こちらから愛のパワーを相手に送るような感じで」
意外な答えに、少し驚いた。
「自分が相手に愛のパワーを送るから、元気なのですか?」
「不思議なんですけど、そんな感じがするんですよね。今はもう会えないとしても、確かに愛すべき存在がそこにいる。離れてから尚更、それを実感するようになったというか」
ハルの言葉は、優弥の胸にポッと光を灯すような温もりをもって伝わった。
「少し分かるような気がします。僕にも亡くなった恋人や親友がいますし、今は意思疎通のできなくなった家族もいます。でも、彼らの存在や意識は消えてはいなくて、自分の一部に存在している、そんな感じもするんです」
「さすがですね。優しい雰囲気に満ちているから、きっと今まで優弥さんに出会ってきた皆さんも、幸せだったと思います」
なんだろう、この懐かしい感じは。
今まで別々の人生を歩んできたはずなのに、ハルには自分のすべてを見せられるような気がしている。
こういうのを縁とでも言うのだろうか。
不思議なめぐり逢いに感謝すべきなのか、運命のいたずらを嘆くべきなのか。
相沢ハルという存在が、松村優弥の心の中に、何の違和感もなくフッと入ってきた。
それは紛れもない真実で、他に何とも形容しがたい幸福感を含んだものであった。
優弥は自分でも驚くほど自然に、ハルに寄り添い、声をかけていた。
「今までのこと、何も分かってあげられなくてごめんなさい。でも、僕でよければ、いつでも話を聞きます。生きていれば必ず希望があるから」
この先の自分たちが一体どうなるのかは分からない。
けれど、願わくは幸せな未来へと繋がっていってほしい。
どんなに悲惨な過去があったとしても、すべてを受け入れ、護り、愛していきたい。
彼女が二度と、悲しまないように。
【完】
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