社員は1人。でも会社には8つの部署がある。AIと会社を運営する仕組みを作った
株式会社SHIKAKERUの社員は、今も1人です。
僕しかいません。
ただし、会社には8つの部署があります。
秘書室。
開発部。
経理部。
営業部。
LP制作部。
戦略室。
発信部。
タブレット運用部。
さらに、作ったものを独立して確認する品質検証の機能もあります。
もちろん、8人を雇用しているという話ではありません。
それぞれの部署を担当するのは、役割とルールを与えたAIエージェントです。
社員1人の会社なのに、なぜわざわざ部署を作ったのか。
理由は、AIにたくさん仕事をさせたかったからではありません。
一人の頭の中に混ざっていた仕事を、責任ごとに分けたかったからです。
一つのAIに全部頼むと、会社の仕事が混ざる
AIを使い始めると、同じ画面で何でも頼みたくなります。
メールを書いてもらう。
売上をまとめてもらう。
コードを直してもらう。
新しい事業を相談する。
投稿文を考えてもらう。
一つひとつはできます。
ただ、会社の仕事として続けようとすると、問題が出ます。
営業の文章を書くときに守るべきことと、コードを直すときに守るべきことは違います。
請求書を作るときの確認事項と、noteを書くときの確認事項も違います。
すべてを一つの長い指示へ詰め込むと、どの仕事で何を優先するのかが曖昧になります。
昨日の相談内容に引っ張られて、今日の判断が変わることもある。
開発の速さを優先する感覚で、外部向けの文章まで急いでしまうこともある。
これはAIの性能だけの問題ではありません。
人間の会社でも、営業担当と経理担当へ同じ判断基準を渡したら混乱します。
そこで、AIの名前を増やす前に、会社の仕事を部署へ分けました。
8部署には、それぞれ違う責任を持たせた
秘書室は、予定や進捗を整理し、今日やることを絞ります。
何でもタスクに追加するのではなく、優先順位を決めるところまでが仕事です。
開発部は、プロダクトの実装、修正、デプロイ、監視を担当します。
不具合を見つけたときは、その場しのぎで隠さず、原因を特定して直します。
経理部は、売上、経費、請求書、資金繰りを扱います。
数字をまとめるだけではなく、二重発行や宛名間違いを防ぐ確認も仕事に含めています。
営業部は、誰へ何を届けるかを考えます。
数を増やすだけではなく、相手の会社に送る理由があるか、実績として書く数字に根拠があるかを確認します。
LP制作部は、ランディングページを作ります。
見た目を整えるだけでなく、誰に何を伝え、どこから相談してもらうかまで設計します。
戦略室は、新しい事業や迷っている判断を整理します。
何でも肯定する役ではありません。
調べた情報と自社の状況を照らし合わせ、進めるのか、止めるのかまで決めます。
発信部は、Xやnoteなどの対外発信を担当します。
ここには、同じ話を繰り返さないこと、経験していない話を作らないこと、数字を盛らないことを明文化しています。
タブレット運用部は、葬儀社向けタブレットの運用に専念します。
現場の書き込みやエラーを確認し、問題を分類する。コードの修正が必要なら、開発部へ渡します。
大事なのは、部署名ではありません。
「誰が、どこまでやるか」を分けたことです。
AI同士の連携より、仕事を渡す条件が重要だった
複数のAIを使う話では、AI同士が会話する様子に注目が集まりがちです。
しかし、実際の会社で重要なのは会話の数ではありません。
どの状態になったら、次の部署へ仕事を渡すのかです。
たとえば、タブレット運用部が現場の不具合を検知する。
発生した画面や条件を整理する。
コードの問題だと判断したら、開発部へ渡す。
開発部は修正して、動作を確認する。
その結果をタブレット運用部へ戻し、対応履歴に残す。
LP制作部がページを作った場合は、同じ担当が自分で合格を出しません。
独立した品質検証が、文章、画面、スマートフォン表示などを確認します。
経理部が請求書を作っても、そのまま顧客へ送ることはありません。
内容を人間が確認し、承認した後に次へ進みます。
この受け渡しが決まっていないと、AIを8つ置いても仕事は終わりません。
全員が「対応しました」と言っているのに、誰も最後の確認をしていない状態になります。
AIの人数を増やすより、完了の条件を決める方が先でした。
AIに任せないことも、先に決めた
部署を作るとき、担当業務だけでなく、やってはいけないことも決めました。
お金が動く契約や課金。
外部の人への新しい約束。
顧客へ直接影響する連絡。
サービスの廃止や大きな方向転換。
取り返しのつかない変更。
こうした判断は、最後に僕が持ちます。
AIは、情報を集め、比較し、案を作り、実行できるところまで進める。
しかし、誰かとの信頼や会社の責任まで引き受けるわけではありません。
「どこまで自動化できるか」だけを考えると、AIへ渡す仕事は際限なく広がります。
反対に、「どこから人間が責任を持つか」を決めると、AIへ任せられる範囲も明確になります。
僕が毎回すべての作業をする必要はない。
でも、会社として決めたことの責任は僕に残る。
この線は消さないようにしています。
ルールは、一度作っても古くなる
8部署を作れば、会社が自動で動き続けるわけではありません。
事業が変われば、担当業務も変わります。
使っているサービスが終了すれば、古い情報を消さなければいけません。
仕事で間違いが起きたら、注意するだけでなく、次から止められるルールへ変える必要があります。
だから、各部署の指示書は完成品として扱っていません。
判断を間違えた理由を書く。
再発を防ぐ確認項目を加える。
使わなくなった仕事を削る。
部署同士の境界が曖昧なら、担当を決め直す。
AIを賢くするというより、会社の運用ルールを更新し続けています。
AIは書かれていない事情を、都合よく理解してくれる存在ではありません。
曖昧な会社は、AIを入れても曖昧なままです。
むしろAIへ仕事を渡そうとすると、「うちでは誰が決めるのか」「何をもって完了なのか」という、今まで放置していた部分が見えてきます。
これは8人分の社員を置き換えた話ではない
社員1人、8部署。
この言葉だけを見ると、AIが8人分の仕事をしているように聞こえるかもしれません。
でも、そういう意味ではありません。
AIエージェントは社員ではない。
人と同じように現場を感じたり、顧客との関係を背負ったりすることもできません。
僕が作ったのは、人を雇わなくてよくなる仕組みではありません。
今ある仕事を、目的、担当、確認、記録に分ける仕組みです。
その結果として、一人で抱えていた調査や整理、下書き、監視、実装の一部をAIへ渡せるようになりました。
もし今後、人を迎えることになっても、この区分けは無駄にならないと思っています。
何を任せるのか、どこで判断してもらうのか、誰へ引き継ぐのかが見えるからです。
小さい会社ほど、採用の前に仕事を分けられる
会社が小さいと、部署を作るのは早いと思われるかもしれません。
僕は逆でした。
一人しかいないからこそ、仕事を分けないと、すべてが「社長の仕事」になります。
問い合わせに返事をする。
請求書を作る。
サービスを直す。
数字を見る。
発信する。
次の事業を考える。
一人で全部やっていると、どの仕事が止まっているのかさえ分からなくなります。
部署を作ることは、立派な組織図を見せるためではありません。
会社に存在する仕事へ名前を付け、責任の置き場所を決めることでした。
社員は今も1人です。
それでも、会社の仕事まで一人分にする必要はありません。
AIを導入したい会社が最初に作るべきものは、万能なAI社員ではない。
自社の仕事を分けた、小さな組織図なのかもしれません。
