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SF小説 Memory Banker Ghost Block編 第3話|“本物”はどう判断されるのか?人格を監査するという仕事

Memory Chainが社会基盤として採用された当初、
その目的は経済ではなかった。
人間の連続性を証明すること。

AIが人格を完全に模倣できるようになった時代、
「誰が本人なのか」を証明できなければ、契約も責任も成立しなくなった。

ブロックチェーンは通貨を守った。
Memory Chainは、人間そのものを守るために作られた。

出生時のジェネシスブロックから現在までを連結する。
改ざんできない存在の履歴。

それは医療と司法のための制度だった。

事故で人格の一部を失った者を救うRecovery。
証言の真正性を保証する記憶固定。
本人証明の絶対化。

当初、記憶の売買は禁止されていた。

転機は、予想外の場所から訪れた。

人間の意思決定ログが、AI学習において最も高精度なデータだと判明したのである。

感情。
迷い。
判断の揺らぎ。

それらは人工生成では再現できなかった。

研究機関は記憶提供者へ補償を始めた。

提供は報酬へ変わり、
報酬は市場へ変わった。

気づいたとき、記憶は資産になっていた。

人は様々な理由で記憶を手放した。

治療費のため。
家族のため。
忘れたい過去のため。
社会貢献のため。

そして社会は、それを合理的だと受け入れた。

連続していることが信用になり、
信用が経済になった。

だが市場が拡大すると、避けられない問いが生まれた。

「どこまでが同一人物なのか。」

国家もAIも、その判断を引き受けられなかった。

必要になったのは、独立した人間の判断だった。

Memory Banker。

人格連続性監査官。

Recovery申請――欠損した人格を同一人物として認めるかの審査。
Fork案件――人格チェーンの分岐を合法と認定するかの監査。

誤れば契約は崩れ、責任主体が消える。

だから彼らは国家から独立した。

弁護士と同等の資格。
絶対的守秘義務。
利益相反の禁止。

そして義務づけられた原則。

職業的懐疑心。

信じるために、疑う者。

佐倉慎一は、この職に就いて23年になる。

彼は驚かないことで知られていた。

完全な人格など存在しない。

連続性は常に揺らぐ。

だから監査が必要になる。

朝、監査端末が担当キューを同期する。

Audit Queue Sync
--------------------------------
Pending Cases : 18
New Log Entry : 1
Priority : Low
Assignment : Auto

その中に、新規追加されたログが1件あった。

通常なら新人が処理する案件だった。

佐倉は何気なく開く。

Case Intake Log
--------------------------------
Memory Activity Flagged
Genesis Layer Access Attempt
MCR Drift Detected
Subject Profile
--------------------------------
Name : Igarashi Hana
Residence Zone : Zenith Ring
Risk Category : Unclassified

指が止まる。

分類不能。

チェーンを展開する。

Personality Chain View
--------------------------------
Genesis
Block 1
Block 2
Block 3

滑らかすぎる。

自然な人格に存在するはずの揺らぎがない。

その感覚を、彼は知っていた。

23年前。

Elysion Case。

富裕層の老人が、若いBlankを購入し、自らのMemory Chainを移植した事件。

Blank――かつて人間だった存在。
記憶売却によって人格連続性を失い、社会的主体から外れた者。

老人は言った。

「私は連続している。」

ジェネシスは一致しなかった。
Quantum Signatureも異なっていた。

佐倉は否定した。

だが判定は覆された。

Case Resolution
--------------------------------
Decision : Recovery Approved
Archive Process : Executed

彼は署名した。

社会の連続性を守るために。

画面へ視線を戻す。

五十嵐はなのチェーン。

移植ではない。
削除でもない。

空白。

「起源が……存在しない。」

正式監査を起動すれば国家層が動く。

市場監視も連動する。

Memory Chainは信頼で成立している。

疑念は社会へ波及する。

彼は操作を止める。

Monitoring Directive
--------------------------------
Priority Monitoring : Level 2
Action : Observation Only

観察のみ。

それが許される限界だった。

秩序は守らなければならない。

だが彼は知っている。

秩序を守るたび、
どこかで連続性は選別されている。

端末を閉じる。

判断ではない。

保留。

新しいログが生成される。

Observer Log
--------------------------------
Observer Status : Active
Learning Mode : Expanded

Memory Chainは記録する。

そして学習する。

いま、

観測者自身が観測対象へ追加された。

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