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SF小説 Memory Banker Ghost Block編 第53話|ミライからの相談

翌週。

はなは学校帰りにHelix Experience Centerへ呼び出されていた。

先日のイベント終了後。

ミライから連絡があったのだ。

「少し相談したいことがあるの。」

理由は聞かされていない。

ただ。

Helix側から話があるらしい。

案内された先は一般エリアではなかった。

認証ゲートをいくつも通過する。

研究区画。

はなは緊張していた。

やがて会議室へ案内される。

そこにはミライと白衣姿の研究員が待っていた。

「突然ごめんなさい。」

ミライが頭を下げる。

研究員も続く。

「本日は確認したいことがあります。」

はなは席に座った。

研究員が端末を操作する。

VR SESSION REVIEW
VR体験レビュー
SUBJECT : HANA IGARASHI
対象:五十嵐はな

画面が表示される。

先日のアフリカ体験ログだった。

「イベント中。

少し気になる反応が確認されました。」

はなは首を傾げる。

「でも。

この前、Memory Bankerに検査してもらったばかりですよ?」

研究員は頷いた。

「ですが、Helixの解析設備は用途が異なります。

我々は人格構造そのものを観測します。」

はなはよく分からなかった。

研究員は別の画面を開く。

GENESIS BLOCK ANALYSIS
ジェネシスブロック解析
RESULT : ANOMALY DETECTED
結果:異常検出

「五十嵐さん。」

研究員は静かに言った。

「あなたのチェーンには。二つの起点が見えます。」

はなの表情が固まる。

研究員は続ける。

「正式名称ではありません。内部では。
” Ghost Block。
そう呼ばれています。」

部屋が静まり返る。

はなは何も言えなかった。

時折見る少女。

知らない記憶。

夢とも現実ともつかない断片。

心当たりがないわけではない。

研究員は資料を切り替える。

CASE FILE : ELYSION INCIDENT
事例記録:Elysion事件
STATUS : FAILED
状態:失敗

「過去。
富裕層の高齢者が、若年Blankへの人格移行を試みた事件がありました。
ですが、残念ながら結果は失敗です。
二つのジェネシスは共存できませんでした。」

画面が切り替わる。

RECOVERY PROGRAM RECORD
リカバリープログラム記録
CHAIN CONFLICT : DETECTED
チェーン競合:検出

「LQ患者救済の研究も行われました。
他者のチェーンを同期させる試みです。」

「最初は問題なく動作します。
しかし。時間の経過とともに拒絶反応が起きます。」

研究員は小さく息を吐いた。

「最終的には、元のジェネシスへ接続されたチェーンだけが残ります。」

はなは画面を見つめた。

研究員が言う。

「現在の理論では、あなたの状態は説明できません。」
「Helixにも前例がありません。」

沈黙。

研究員は真っ直ぐにはなを見る。

「だから我々は、知りたいのです。なぜ成立しているのか。」

「なぜ崩壊しないのか。その理由を。」

はなの手が震える。

自分でも理解していない。

理解できるはずもない。

研究員は続ける。

「研究協力をお願いできないでしょうか。もし理由が分かれば。
人格連続性を失った人々を救えるかもしれません。

重度LQ患者。
Blank移植患者。
身体を失った人々。

多くの人に希望を与えられます。」

はなは俯いた。

何も言えない。

自分が何者なのか。

それすら分からない。

「・・・考えさせてください。」

やっとの思いで言葉を絞り出した。

研究員は頷く。

「もちろんです。」

会談は終了した。

研究員が退室する。

ミライが立ち上がった。

「送るよ。」

二人はエレベーターへ向かった。

静かな下降音。

しばらく沈黙が続く。

やがて。

ミライがぽつりと呟いた。

「実はね。」

はなが顔を上げる。

「私。

男の娘なの。」

はなは目を丸くした。

ミライは少し笑う。

「驚くよね。」

エレベーターの数字がゆっくり減っていく。

「同じ悩みを持つ友達がいたの。二人で励まし合ってた。」

ミライは少し遠くを見る。

「ある日ね。
その子とカラオケへ行ったの。
その時。友達が急に。。
”友達の詩”っていう、
男の娘がノンケを好きになった・・
切ない恋の歌を歌ったの。」

小さく口ずさむ。

『てをつなげなくても
となりをあるければいい』

ミライは笑った。

でも。

少しだけ泣きそうだった。

「その時ね。

この子、本当に苦しいんだなって思った。だから聞いてみたの?
”どうしたの?好きな人ができたの?”って」

一拍

「友達は”そうだ”って笑ってた。でも。”本当の自分を知られたら嫌われるかもしれない。怖いね” そう言ってた。」

沈黙。

エレベーターが下り続ける。

「心と身体が違う。それだけなんだけど。
本当に・・なぜ・どうしてって。
苦しいの」

ミライは両手を握った。

「だから。Helixからはなちゃんの話を聞いた時。
希望を持っちゃった。もしかしたら。心と身体を一致させる方法が見つかるんじゃないかって。」

ミライははなの手を取る。

その手は少し震えていた。

「ごめんね。勝手だよね。」

ミライははなの手をはなした。

「でも。よく考えてください。お願いします。」

エレベーターが一階へ到着する。

扉が開く。

ミライは深く頭を下げた。

「お願いします。」

「よろしくお願いいたします。」

はなは困ったように笑った。

「そんなこと言われても・・・。何をされるかも分からないし。
少し考えてみます。」

そう言って歩き出す。

ミライはその背中を見送る。

「自分勝手かもしれない。」

小さな声だった。

「でも。あなたは、わたしの希望なの。」

はなは振り返らなかった。

そのまま出口へ向かう。

Helixの自動ドアが開く。

夕暮れの光が差し込む。

そして。

逃げるように。

はなはHelixを後にした。

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