見出し画像

SF小説 Memory Banker Ghost Block編 第10話|なぜ人格チェーンは二重に表示されたのか?ジャンク屋で見えたもう一つのパターン

土曜日の夜。
Cognitive Belt の通りは、昼間とは違う光に包まれていた。

ショッピングモールの明るい照明から離れると、街の色は少し暗くなる。
ネオンの光が、路地の壁に揺れていた。

はなは足を止めた。

細い路地の奥に、小さな店がある。

「ここ。」

隣で友達が言った。

はなは少し眉をひそめる。

「ここって……」

友達は肩をすくめた。

「ただのジャンク屋。」

二人は路地に入る。
表通りの音が、すぐ後ろで途切れた。

扉の上には、古いプレートが掛かっている。

Memory Junk

はなはその文字を見る。

「ジャンク屋って……」

友達が小さく笑う。

「Chain は売ってないよ。」

「壊れた断片だけ。」

扉を開ける。

店の中は暗かった。
照明は弱く、端末の画面だけが光っている。

壁一面のディスプレイに、小さなデータの一覧が流れていた。

Memory Fragment
Decision Log
Emotion Trace

カウンターの奥に、男が座っている。
年齢はよく分からない。

男はちらりとこちらを見る。

「学生か。」

友達が言う。

「見るだけ。」

男は興味なさそうに言った。

「好きにしろ。」

はなは店の中を見回す。

画面の中には、いくつものログが並んでいた。

Motor Reflex
Risk Pattern
Micro Decision

「これって……」

はなが言う。

「Fragment。」

友達が答える。

「人格の断片。」

はなは画面を見つめた。

「でも、Chain は……?」

「ここには来ない。」

カウンターの男が言う。

「Chain は Exchange だ。」

「ここはジャンクだ。」

男は端末を軽く叩く。

Deleted Log
Backup Residue
Broken Personality Fragment

「削除ログ。」

「バックアップ。」

「壊れた人格の部品。」

「それだけだ。」

そのとき。

男の視線が、一瞬だけ
端末ではなく、はなの方へ向いた。

「……珍しいな。」

はなはその言葉の意味を聞こうとしたが、
男はもう画面に視線を戻していた。

はなは黙ってディスプレイを見ていた。

そのとき。

端末の表示が、一瞬だけ揺れた。

画面の中のチェーンが、
ほんの一瞬だけ、二つに重なって見えた。

Personality Chain Monitor

Primary Chain : Active
Secondary Pattern : Detected
Overlap State : Transient
Signal Stability : Low

はなは瞬きをする。

画面はすぐ元に戻った。

Personality Chain Monitor

Primary Chain : Stable
Status : Normal

「どうした?」

友達が聞く。

「……ううん。」

はなは首を振る。

二人は店を出た。

夜の空気は少し冷たい。
遠くにモールの光が見える。

はなは歩きながら、自分の手を見る。

指を動かす。

遅れはない。

それでも。

ほんの一瞬だけ、
さっきの画面が頭に残っていた。

二つのチェーン。

まるで、

自分の中にあるものと
同じ形だった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集