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SF小説 Memory Banker Ghost Block編 第37話|事故の真実は何だったのか?父との対話と検査への一歩

玄関のドアが開く音がした。

「ただいま」

父の声。

はなはキッチンから顔を出す。

「……おかえり」

「いい匂いだな」

父は靴を脱ぎながら言った。

「カレーか?」

「うん。今日、わたしが早かったから」

「そうか。助かるな」

その声は、いつも通りだった。

変わらない調子。
変わらない温度。

はなは少しだけ、肩の力を抜いた。

テーブルに皿を並べる。

白い湯気が立ち上る。

父は席に座り、手を合わせる。

「いただきます」

「……いただきます」

スプーンですくい、口に運ぶ。

「……うまいな」

すぐに出た言葉だった。

はなは、小さくうなずく。

「チョコ、入れた?」

「うん。少しだけ」

「やっぱりな。この味だ」

父は、もう一口食べる。

その様子を見ながら、はなはスプーンを持ったまま止まっていた。

(いまなら……)

言うなら、今しかない。

そう思っているのに、言葉が出てこない。

父が顔を上げる。

「どうした?」

「……え?」

「食べないのか」

「あ、うん……」

はなは一口、カレーを口に運ぶ。

味は、いつも通りだった。

(おいしい……)

それでも、胸の奥は落ち着かない。

はなは、ゆっくりとスプーンを置く。

「……お父さん」

父が視線を向ける。

「ん?」

「ちょっと、話したいことがあって」

「いいぞ」

迷いのない返事だった。

それが、少しだけ救いになる。

はなは、息を整える。

「……メモリーチェーンの検査のことなんだけど」

父の表情が、わずかに引き締まる。

「検査?」

「うん。学校じゃなくて……専門のところで」

言いながら、自分の声が少し震えていることに気づく。

父はスプーンを置いた。

「どうして、そんな話になった?」

責めるような言い方ではない。

ただ、理由を確かめる声。

はなは、視線を落とす。

「……ちょっと、気になることがあって」

「気になること?」

「うまく説明できないんだけど……」

言葉が詰まる。

それでも、続ける。

「自分のこと、ちゃんと確認したほうがいいかなって思って」

父は黙って聞いている。

その沈黙は、重くなかった。

はなは、少しだけ勇気を出す。

「……それで、検査を受けるには、保護者の同意が必要って言われて」

父の視線が、まっすぐに向けられる。

逃げ場がない。

でも、逃げたくなかった。

「だから……お父さんに、話しておこうと思って」

言い終えると、急に静かになる。

時計の音だけが聞こえる。

父はすぐには答えなかった。

少しだけ考えるように視線を落とす。

そして、はなを見る。

「……そうか」

短い言葉。

でも、その中にいくつもの感情が混ざっていた。

「怖いか?」

はなは、少しだけ間を置いてからうなずく。

「……うん」

正直に答えた。

父は、小さく息を吐く。

「そうだよな」

否定しない。

軽くも扱わない。

その言葉に、少しだけ安心する。

はなは、続ける。

「それと……もうひとつ」

「なんだ?」

「……お母さんの事故のこと、聞きたい」

空気が、少しだけ変わる。

父の表情が、わずかに固まる。

はなは、その変化を見逃さなかった。

「……どうして、今それを?」

「検査のことを聞いたときに……関係あるかもしれないって言われて」

父は視線を落とす。

しばらく、何も言わない。

その沈黙は、さっきとは違っていた。

重さがあった。

はなは、待つ。

急かさない。

父はゆっくりと口を開く。

「……事故は、車だった」

静かな声。

「LQの車が、制御を失ってな」

はなは、息を止める。

「……お前も、一緒にいた」

その言葉は、はっきりしていた。

曖昧さはなかった。

父は続ける。

「突然のことだった。避けきれなかった」

簡潔な説明。

余計な言葉はない。

はなは、さらに聞く。

「……わたしは?」

父はまっすぐにはなを見る。

「助かった」

その答えは、揺らがなかった。

はなは、ゆっくりとうなずく。

それ以上は聞かなかった。

聞けなかった、のかもしれない。

テーブルの上のカレーが、少し冷めている。

はなはスプーンを取り、もう一口食べる。

さっきと同じ味。

でも、少しだけ違って感じた。

理由は分からない。

それでも。

「……検査、受けたいと思ってる」

はなは、もう一度言う。

父は少しだけ考える。

そして、うなずいた。

「分かった」

短い言葉。

でも、それで十分だった。

「一緒に行こう」

その一言に、はなは顔を上げる。

「……いいの?」

「お前一人で行かせるわけないだろ」

いつもの口調。

それが、嬉しかった。

はなは、小さく笑う。

「……ありがとう」

父は何も言わず、カレーを一口食べる。

はなも、続けて食べる。

静かな食卓。

でも、さっきまでとは違う静けさだった。

少しだけ、前に進んだ気がした。

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