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神谷の解析、類似度 0.97|SF小説 Memory Banker #15

昼の光がカフェの窓から差し込んでいた。

都市の昼は騒がしい。Cognitive Belt の通りでは、人と物流ドローンが絶えず行き交っている。

佐倉は奥の席に座っていた。
テーブルの上には、携帯端末。

開かれているのは、例のログだった。

Akashic Observation Log
--------------------------------
Subject Monitoring Record

Motor Sync Drift
Reaction Delay : +41 ms

Shadow Pattern Overlap
Confidence : Low

数値は小さい。
だが人格チェーン観測では明確な異常だった。

影のパターン重複。

佐倉はログを見たまま、コーヒーを一口飲む。

通常の人格ログには存在しない項目だ。

彼は端末を閉じなかった。

代わりに通信を開く。

Secure Communication
--------------------------------
Destination :
MCR Oversight Authority
Digital Forensic Division

Status : Connecting...
Encryption : Enabled

呼び出し先は一人。

MCR監督庁デジタルフォレンジック班。

数秒後、画面が接続された。

Connection Established
--------------------------------
Remote Analyst :
Kamiya – Digital Forensics

Channel : Secure Video Link
Latency : 12 ms

男が現れる。

「久しぶりだな、佐倉。」

神谷だった。

二人は二十三年前、同じ案件に関わっていた。

Elysion Case。

富裕層の老人が Blank を購入し、人格チェーン移植を試みた事件。
制度が初めて大きく揺れた事件だった。

神谷が画面の向こうで笑う。

「Memory Banker がDFに連絡とは珍しい。」

佐倉は端末を少し動かす。

「ログを見てほしい。」

「仕事か?」

「個人的な確認だ。」

神谷は肩をすくめた。

「また厄介そうだな。」

佐倉はログを共有する。

Log Share Request
--------------------------------
File : Observation_Log_7731
Source : Cognitive Belt Node
Classification : Unverified
Transfer : Completed

数秒の沈黙。

神谷の視線が画面を動く。

Observation Log (Expanded)
--------------------------------
Motor Sync Drift
Reaction Delay : +41 ms

Shadow Pattern Overlap
Confidence : Low

神谷の表情が変わった。

「……これ、どこで拾った。」

「Cognitive Belt の観測ログ。」

「公式案件か?」

「まだ違う。」

神谷は少し考える。

そして画面を操作した。

「少し待て。」

数秒後、解析画面が開いた。

フォレンジックツールだ。

MCR Digital Forensics Tool
--------------------------------
Pattern Decomposition Module

Loading behavioral signatures...
Processing node logs...

神谷はログを展開する。

「Shadow Pattern……。」

「普通はノイズ扱いだ。」

「だが。」

神谷の指が止まる。

二つのパターンが画面に表示されていた。

Behavior Pattern Analysis
--------------------------------
Pattern A : Primary Identity
Pattern B : Secondary Trace

Similarity Index : 0.97
Deviation Range : Extremely Low

神谷は言う。

「この二つの行動パターン。」

「似すぎている。」

佐倉は黙っていた。

神谷は解析を続ける。

同期ログ。反応ログ。意思決定パターン。

Decision Pattern Correlation
--------------------------------
Motor Response Sync
Reaction Curve Match
Decision Tree Alignment

Total Similarity : 0.97

神谷がつぶやく。

「0.97。」

普通ならあり得ない数字だった。

人格パターンは必ず揺らぐ。
同一人物でも、完全一致は起きない。

神谷が言う。

「これ、影じゃない。」

佐倉は窓の外を見た。

昼の都市が広がっている。

神谷の声が続く。

「二つのパターンがある。」

「しかも……」

神谷は画面を拡大する。

Chain Origin Trace
--------------------------------
Pattern A : Genesis Reference
Pattern B : Genesis Reference

Result :
Multiple Origin Signals Detected

パターンの起点。

チェーンの最初の位置。

神谷は静かに言った。

「ジェネシスが二つあるように見える。」

佐倉はすぐに答えた。

「あり得ない。」

Genesis Block は一つしか存在しない。

人格の起点。
市民権の起点。
社会の前提だ。

神谷は苦笑した。

「俺もそう思う。」

「だからフォレンジックは嫌いなんだ。」

「たまに、あり得ないものが出てくる。」

沈黙が流れる。

佐倉はゆっくり言った。

「Ghost Block。」

神谷の眉が動く。

「……その言葉をどこで聞いた。」

「昔の研究室だ。」

神谷はしばらく黙った。

そして言った。

「もしそれが本当なら。」

「これは影じゃない。」

少し間があった。

神谷が続ける。

「孤立チェーンだ。」

佐倉は画面を見つめた。

Observation Flag
--------------------------------
Shadow Pattern Overlap
Confidence : Low

Interpretation :
Possible Isolated Chain Fragment

小さな記録。

だがその意味は重かった。

もし神谷の仮説が正しいなら。

人格チェーンは。

一つではない。


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