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私立学校の「自主性」は「安全安心」より優先されるべきなのか

2025年3月、私立同志社国際高校の辺野古沖での研修旅行中に、高校生が水難事故によって亡くなる事故が発生しました。さらに、5月には、私立北越高校の部活動遠征中に高校生が交通事故によって亡くなる事故も発生しました。

これらの事故を受け、学校安全について、社会的議論が広がっています。

私が代表を務めるNPO法人School Liberty Networkは「学校内における子どもの権利侵害」に関する相談支援や当事者ネットワークづくりを行っています。

2023年の設立以来、私たちのもとには、私立学校に関する深刻な相談が数多く寄せられてきました。そこで私たちは「私立学校見える化プロジェクト」を立ち上げ、当事者へのヒアリングを実施、共通課題を明らかにし、昨年6月に文部科学省で報告書を公表する記者会見を行いました。以降、シンポジウムなどを開催し、問題提起を続けてきました。

調査では、以下のような課題が明らかになりました。
・相談できる公的な窓口が明確ではない
・実効力をもって介入できる公的機関が存在しない
・不適切な学校運営を行う学校に対するペナルティが十分ではない
・「私学の独自性」「教育方針」という名の下で権利侵害が容認されやすい
・閉鎖的な環境になりやすく、情報が表に出にくい
・児童生徒や教員の身分が不安定である特性上、意見表明権が阻害されやすい

なかには、いじめや不適切指導によって子どもを亡くしたにもかかわらず、学校から十分な説明も謝罪も受けられなかったという遺族の方々もいます。

しかし、こうした問題は、私立学校では極めて表面化しづらい構造があります。


私立学校では、なぜ問題提起が難しいのか

私立学校では、内部進学や推薦、懲戒処分の基準が不透明なケースが少なくありません。

中には、

「学校内で見聞きしたことを外部やメディアへ伝えた場合、退学や損害賠償も受け入れる」

といった内容を含む誓約書も存在しています。

このような状況では、生徒や保護者は不利益を恐れて声を上げづらくなります。

また、教職員側も、公立学校教員と異なり都道府県職員ではなく学校法人に直接雇用されているため、内部告発や問題提起がしづらい環境に置かれています。

結果として、学校内部で問題が起こったとしても、共有・改善されにくい構造が生まれています。

「私学の自主性」が、是正不能な構造を生んでいる

私立学校法第一条は、次のように定めています。

「私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによつて、私立学校の健全な発達を図ること」

本来、この法律は、先の大戦の反省から、私学が行政権力によって不当に統制されないためという崇高な理念からつくられたものでした。

しかし現実には、「自主性」の部分だけが強調され、「公共性」の議論が極めて弱くなっているように感じます。

その結果、学校側に重大な問題が発生しても、行政が十分に介入できないという構造が生まれています。

公立学校にはある「是正権限」が、私立学校にはない

公立学校では、教育委員会が校長・教員の人事権を持っています。また、学校教育法第十四条によって、必要に応じて命令を出すことも可能です。

一方、私立学校は教育委員会の管轄外であり、都道府県が管轄することになります。さらに、私立学校法第五条では、私立学校について学校教育法第十四条を適用除外としています。

私立学校法 第五条(学校教育法の特例)

私立学校には、学校教育法第十四条の規定は、適用しない。

つまり、都道府県の私学行政課などの管轄部署には、公立学校のような命令権限がありません

実際に可能なのは、

・事実確認
・助言
・勧告

など、行政手続法に基づく行政指導に限られます。

しかし、学校側が従わなければ、それ以上踏み込めないケースも少なくありません。

結果として、不適切な学校運営の改善は、学校法人内部の「自浄作用」に依存することになります。

そして、その自浄作用が機能しない場合、長期間に渡って安全対策が講じられなかったり、権利侵害を受けた児童生徒が長期にわたり救済されない状況が生じてしまいます。また、不適切指導等を行った教職員に対する十分な検証や処分が行われない場合、類似事案が再発する危険性もあります。

「市場原理で淘汰される」は、本当に機能しているのか

「問題のある私立学校は市場原理で淘汰される」という意見もあります。

しかし、現実はそれほど単純ではありません。

近年では、専門コンサルタント業者を活用した戦略的広報も一般化しています。

学校説明会や広報資料では問題実態が見えづらく、受験生や保護者が把握できないこともあります。

また、問題が報道されても、

・校名変更
・ブランド刷新
・広報戦略

によってイメージ回復が図られるケースもあります。

仮に淘汰されるとしても、数年単位の時間を要します。

その間、在校生は救済されません。

私立学校には巨額の公費が投入されている

現在、私立学校には巨額の税金が投入されています。

2025年度の私学助成金は約1,014億円。

東京都でも、約1,751億円が私学関連予算として計上されています。

私立学校無償化が進む中、私学はますます公共性を帯びています。

しかし、児童生徒への権利侵害や安全配慮義務違反を理由として、小中高校への補助金不交付等が行われた事例は、少なくとも私たちが調査した限り確認できませんでした。

私立学校法第百三十三条は、なぜ使われてこなかったのか

実は、現行法でも、都道府県は措置命令を出すことが可能です。

私立学校法 第百三十三条(措置命令等)

所轄庁は、学校法人が、法令の規定、法令の規定に基づく所轄庁の処分若しくは寄附行為に違反し、又はその運営が著しく適正を欠くと認めるときは、当該学校法人に対し、期限を定めて、違反の停止、運営の改善その他必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

しかし、2014年の法改正以降、措置命令が実際に発動された事例は、以下の3件(2法人)のみです。

・学校法人住吉清水学園(大阪府、2018年)
 ―補助金私的流用

・学校法人南陵学園(静岡県、2022年・一つの法人に1年間で2回発動)
 ―教職員給与遅配等

いずれも、財務・経営問題によるものです。

児童生徒の安全面の問題や権利侵害を理由として措置命令が発動された例は存在していません。

なぜ安全面の問題では措置命令が使われないのか

背景には、2014年の通知があると考えられます。

文部科学省の通知では、措置命令を発動する際の条件の具体例として、

・資産不足
・理事会機能不全
・財産損害

など、財務・経営問題を中心に例示しています。

私立学校法の一部を改正する法律の施行について(通知)
26文科高第21 号 平成26年4月2日

第三 留意事項
1.所轄庁による必要な措置の命令等
(1) 今回新たに設ける措置命令は、「学校法人が、法令の規定、法令の規定に基づく所轄庁の処分若しくは寄附行為に違反し、又はその運営が著しく適正を欠くと認めるとき」に行うことができると定めている。この措置命令を行うことができる場合については、その基本的な考え方や具体例とし、例えば、次のような場合を想定しているものである。

① 学校の運営に必要な資産の不足により,教育研究活動へ支障が生じている場合
(具体例)
・学校法人の所有する土地・建物が競売により売却され,必要な校地・校舎の一部が保有されていない
・教職員の賃金未払いが生じ,必要な教職員数が不足している など

② 理事会において必要な意思決定ができず,教育研究活動への支障や,学校法人の財産に重大な損害が生じている場合
(具体例)
・理事の地位をめぐる訴訟により,必要な予算の編成や事業計画の策定がなされず,教育研究活動に支障が生じている
・理事が,第三者の利益を図る目的で学校法人の財産を不当に流用し,学校法人の財産に重大な損害を与えている など

学校保健安全法は、「加害行為」も対象にしている

一方で、学校保健安全法では、学校の防止すべき責務として「加害行為」も含めています。

学校保健安全法 第二十六条

学校の設置者は、児童生徒等の安全の確保を図るため、その設置する学校において、事故、加害行為、災害等(以下この条及び第二十九条第三項において「事故等」という。)により児童生徒等に生ずる危険を防止し、及び事故等により児童生徒等に危険又は危害が現に生じた場合(同条第一項及び第二項において「危険等発生時」という。)において適切に対処することができるよう、当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

さらに、通知では、加害行為について「いじめ」も含まれることを示しています。

学校保健法等の一部を改正する法律の公布について(通知)
20文科ス第522号 平成20年7月9日

第二 留意事項
第1 学校保健安全法関連
三 学校安全に関する留意事項
(8)学校安全に関する学校の設置者の責務について(第26条)

3 「加害行為」とは、他者の故意により、児童生徒等に危害を生じさせる行為を指すものであり、学校に侵入した不審者が児童生徒等に対して危害を加えるような場合等を想定していること。また「加害行為」には、いじめや暴力行為など児童生徒同士による傷害行為も含まれるものと考えられること。この場合、いじめ等の発生防止については、基本的には生徒指導の観点から取り組まれるべき事項であるが、いじめ等により児童生徒等が身体的危害を受けるような状態にあり、当該児童生徒等の安全を確保する必要があるような場合には、学校安全の観点から本法の対象となること。

つまり、学校安全とは、単なる事故対策ではありません。

いじめや暴力への対応も、本来は「安全」の問題なのです。

必要なのは、「自主性」と「安全」を分けて考えること

私たちは、私立学校の自主性そのものを否定したいわけではありません。教育理念や特色ある教育は尊重されるべきです。

しかし、

・子どもの命や安全
・基本的人権

は別問題です。

「自主性」を理由に、重大な権利侵害や安全問題が放置されてはなりません。

私たちが提案したい制度見直し

私たちは、以下のような制度整備を提案しています。

① 私立学校法第百三十三条の運用見直し

経営面の問題だけでなく、事故、加害行為、災害等によって児童生徒の安全が著しく脅かされている場合や、再三の行政指導に従わない場合に、措置命令を発出できることを明確化する。

② 第百三十四条(収益事業停止)の拡張

安全配慮義務違反を放置した学校法人に対して、収益事業停止命令を可能にする。

③ 学校保健安全法第三章の見直し

より実効性のあるものとし、学校対応責任も含めた議論を進める。

子どもの安全に、「国公私立」の区別はない

私立学校無償化が進み、今後さらに私学を選択する家庭は増えていきます。

だからこそ、私学の公共性やガバナンスを、これまで以上に議論していく必要があります。

どの学校に通っていても、子どもの命と安全は等しく守られるべきです。

今回な悲惨な事故を風化させずに、以上のような問題意識に基づいて法整備を進めることで、私立学校に通う児童生徒の安全安心を守り、万が一悲惨な事案が発生してしまった際にも、遺族・当事者が泣き寝入りせず、適切な対処がなされると考えています。

どの学校に通っていても、子どもたちが安全安心な教育環境で学べるための法整備を進めていくため、私たちも当事者支援団体としてできることを進めていきます。

末尾となりますが、今回の事案をはじめ、私立学校における学校事故や権利侵害事案で亡くなった方々に心から哀悼の意を表します。


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