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接客業で身についた「世の中に期待しすぎない」スキル

接客業と聞いて連想することといえば、
「クレーム対応が大変そう」
というイメージではないだろうか。

実際に長年勤務していた立場から言わせてもらうと、「はい、その通り」である。
しかも低価格帯の商品を扱う場所ほど、厄介さは増していく。

同じ建物内であっても衣料品よりも食料品のほうが酷かった。
そしてマシだと思っていた衣料品ですらも、大きなくくりで見れば「総合スーパーの客層」だったと後から知ることになる。
現在勤める「百貨店の客層」と比べると別物だったのだ。

あまりの変わりように、「金持ち喧嘩せず」とはこういうことか、などと感心してしまった。

世の中には色んな考えの人がいる。
どんなにマニュアルを練って対策していても、
ベテラン従業員の想定すら軽々と超えてくるお客様は無限にいるものだ。

私としては、特に極端なケースを挙げたつもりはなかった。
それなのに百貨店の人に過去の話をすると、
「意味が分からない」と混乱させてしまう。
同じ接客業のはずなのにと、私も戸惑う。
そんなレベルの出来事が、日々の中で起きていた。

おかげで冷静に考えたらただの「普通のお客様」ですら、「メチャクチャいい人」に見えるようになっていた。
ましてや神対応なんてされてしまったら、
恋が生まれるんじゃないかっていうくらい好感度が爆上がりする。

このフィルターが掛かっていると、
世間一般では「感じが悪い」と思われそうな相手ですら、「普通の人」という感覚になってくる。

現在、百貨店に勤務することである程度解消されたものの、まだ「お客様ってこんなに優しいんだ!」と感動している有り様だ。

とはいえスーパーでの勤務を否定したいわけじゃない。大変であっても、こうして「期待しすぎない」スキルを磨けた。
これは人間関係において最強の武器だと今でも思っている。

当時は周囲がたくましくなりすぎて、
「もはや心臓に毛が生えてるからね」
と自称した人もいた。
その最たるものが集まった際に繰り広げられたのが
「いかに理不尽なクレームを言われたか」の自慢大会である。

きっかけは、まだそこまで染まっていない新人が、カスハラでヘコんでしまったことだった。

「私なんて『醤油臭い』ってクレームもらったからね」
口火を切った大先輩の鉄板ネタである。
言われた当時は、なんで上司はこんなクレームを本人に通したのかと皆で憤っていた。
彼女は無臭だったし、謂れのない内容だからだ。

「海外の人からしたら、日本人はみんな醤油臭いって言いますしね!」
もはや意味が分からなすぎて、フォローまで変なことになっている。
「そうよ。韓国なんてねえ、空港からもうキムチ臭いんだから」
韓流ファンが、韓国を道連れにしていた。

海外に行ったことがない私は、「へー」と思いながら聞いていた。
カスハラを受けた話から始まったというのに、何とも平和である。

当該の新人は、自分が受けたカスハラより凄い話を聞かされて、圧倒されている。
ちっぽけなことだから気にすることはない、という意図は存分に伝わっているようだ。
勤続年数がそこそこだった私でさえ「この人たちはもう別の次元にいる」と思った。

すると、そこへサービスカウンター担当のベテランが通りかかった。
「私なんて、『何で雨が降ってんのよ!』って怒鳴られたからね」
通りすがりとは思えない特大ネタをぶっこんで来た。
「仕方ないから、その場で一応『すみません』って謝っといたわよ」
そのまま高笑いしながら去っていった。

さすがクレームの窓口でもあるサービスカウンター。格が違う。
何年たってもこれを超える理不尽クレームはなく、王者として輝いている。
……まあ、こんな記録は更新しない方がいいに決まっているのだが。

こうして私たちは少しずつ「世の中に期待しすぎない」というスキルを身につけたのだった。


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