モロッコ人、天皇皇后両陛下にお手振りをいただく ~本編~

2025年は阪神・淡路大震災から30年の年である。
1月に、慰霊のために天皇皇后両陛下が神戸を訪問されることがわかった。

私「ベンさん!天皇皇后両陛下に会えるかもしれんよ!一対一ではないが」
べ「びっくりした」
私「天皇皇后両陛下の乗った車が通るルートで待てば、多分見られる!」
べ「びっくりした」

一瞬かもしれないが、ものすごい至近距離で天皇皇后両陛下を見ることができる可能性のある、ベンさんにとってまたとない機会。
前出のくまモンのように踊りの練習をする必要もない。

夢は実現可能かどうかは別として、口に出すことが大事なのだと思う。
なぜなら、ここまで来ると私もベンさんの願いを叶えてあげたいという気持ちになっていたからである。
ベンさんに、天皇皇后両陛下の出(?)待ちをさせてあげたい!
2025年最大のミッションである。

まずは、天皇皇后両陛下訪問中のスケジュールを調べることから始めた。
神戸市内で交通規制がかかるエリア・時間帯やネットニュースを確認する。
両陛下はどうやら海沿いのホテルに宿泊し、翌朝そこを出発し何箇所か巡った後、某災害防災学習施設に立ち寄るようだ。
ホテルは道路に囲まれた立地で、出口も複数あることから出待ちするのはベストではない。何よりベンさんは朝が弱い。
学習施設はだだっ広い幹線道路沿いにあり、車で向かうにはその道を通るしかない。時間帯も昼過ぎ。さすがのベンさんも、何が何でも起きて向かうだろう。

当日は平日ということもあり、私は仕事を休めない。
「とにかく~時頃に施設前の大通りに向かって。そこに両陛下を待つ人たちがいるはず。彼らが小さい日本国旗を持っていれば間違いないから、その人たちに混ざって待っていれば大丈夫だと思う」と伝えた。

注意点として帽子をかぶらないほうがいいと伝え、両陛下を乗せた車(御料車)はこんな感じだと画像を共有しておいた。
私にできるのはこれだけだ。グッドラック、ベンさん。あとはベンさんが自身でなんとか現場にたどり着き、失礼のない態度で両陛下の車を待たなければならない。

ミッション当日は私も何となく仕事が手につかなかったが、夕方頃、ベンさんから御料車からお手振りされる天皇皇后両陛下の写真が送られてきた。
ミッション大成功!バンザイ!

現場に到着したあとは一体どんな様子だったのか詳細を尋ねた。

指定の場所にたどり着いたベンさんは、慌ただしく動き回っている人たちを見かけたのだが、それが自分が混ざるべき集団か確信が持てなかった。
そこで翻訳アプリで
「I want to see the emperor. わたしは天皇に会いたいです。」
と表示させ、そのうちの一人に見せたのだそうだ。
いきなり近づいてきたゴリゴリアラブ系の見た目の男にその一文だけを見せられ、困惑するお兄さんの姿を想像するとめちゃくちゃシュールである。
どうやらその人は両陛下のお出迎えのために動員されていた施設スタッフだったらしく、「ここじゃなくてもっとあっちの方!」と教えてくれたそうだ。ありがとうお兄さん。

ようやく両陛下をお迎えする人たちの集団に合流したあとは、スタッフらしき人の指導で、手や旗の振り方のリハーサルを何度かしたとのこと。
あ、来た来た!あの車かな?…違った!
を何度か繰り返し、ついに両陛下の御料車が近づいてきて…ベンさんは、天皇皇后両陛下にお手振りをいただき、夢を叶えた。

「天皇皇后両陛下が自分の目の前を通り過ぎて行った時、どう思った?」と聞いた。

周りの人たちがおとなしいことにまず驚き、
・「ワ~~~」「天皇陛下~」「雅子様~」と声を上げている人たちはいたが、誰一人叫んでいなかった。
・モロッコでは、王族の乗った車が通ろうものなら、その通りは全てカーニバル状態。何ならブラスバンドも出動する。

御料車がマジで通り過ぎただけだったことに驚いた。
・両陛下が途中で車から降り、自分たちと触れ合うものだと思っていた。
・モロッコの王族は降りてきて国民と触れ合うことも珍しくない。
・建物の前で車を降り歩いて入っていくのかと思っていたけど、車で中まで入っていってしまった。

とのこと。2人でお互いに「文化と感覚の違いだね~」と笑いあった。

そのあとしばらくベンさんは、会う人全員に「僕は日本のエンペラーとエンプレスに手を振ってもらった!」と自慢しまくっていたようだ。ほとんどの相手は写真を見せるまで信じてくれなかったとのこと。そりゃそうだと思う。
遠い北アフリカから来たベンさんの夢の実現の手助けをできて光栄だった。

ちなみにモロッコには、
「国王に自分のIDカードを手渡すと金持ちになれる」
という言い伝えがあり、国王の乗る車に向かって沿道から飛び出していき、開いた窓の隙間から自分のカードを投げ入れる猛者が時々現れるのだそうだ。
ベンさんにそのハプニングの一部始終を捉えた動画を見せてもらったが、その猛者はカードを投げ入れた後は走って逃走していた。車の警護にあたっていたSPらしき人も走って追いかけており、なんともシュールな光景だった。


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