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『オンラインの絆』第9章・第10章 7/9

第9章
 
 尚子の2度目の誕生日には、また先生がメッセージをくれた。
「マイ ベスト スチューデント 尚子さん、お誕生日おめでとう。今年も祝う事が出来てとても嬉しいです。2年前のイージートークで、英検のテストや数種類のレッスン、私の英語力による行き違いなど、いろいろなことを乗り越えましたね(笑)。数週間前、カナダ人の鍼灸師と話した時、英語を勉強してよかったと一番感じた瞬間だと言っていましたね。僕も嬉しかった。だから、僕の今年の抱負は、尚子さんが英語を勉強していることをもっと喜んでもらえるようにすることです。今年があなたにとって素晴らしい年になることを心から願っています。」
 確かに、この年は最高の年だった。それは英語のおかげでもあり、先生のおかげでもある。
 誕生日の2日後、家に帰ると小さな封筒がポストに入っていた。先生からだった。「え?なんで?なんで?」と開けてみた。小さくてカラフルなメモ帳が入っていた。「よかったら、使ってください」と手書きで書き添えてあった。先生の筆跡を初めて見た。
 早速レッスンを予約して、「どうして、住所知ってるんですか?」と聞いた。それがどうしても分からなかった。いろいろな可能性を考えた。娘と共通の友人がいるのを知っていたから、そのルートからかとも思ったがあり得ないと打ち消す。ネットのどこかに、住所がさらされている?それなら、そう言ってくれるはず。ずっと考えていた。
 先生は、最初もったいぶって言わなかったが、やっと事実を話した。2月に尚子が先生に英検の結果の写メを送った時、住所も写っていたらしい。先生は、去年の夏にメキシコに行った時に、このメモ帳を尚子の誕生日のプレゼントにと買ってくれていたらしいが、どうやって送るか考えあぐねていたところ、尚子が自ら住所を教えたので、ほくそ笑んだ。それを黙っているのは、たちが悪い。
 4月21日、先生が「部屋の片付けしていたら見つけたんですよと」、先生の小学生時代の写真を送ってくれた。賢そうな小学生だった。
 5月8日のレッスンの途中で、先生が突然言った。「尚子さんに会いに大阪まで行こうかな。」尚子は動揺した。先生は、「会えたら何します?」と聞いた。尚子は、「美味しいもの食べに行こう」「リアル英会話レッスンしよう」と答えた。もし、実現しなくても、十分だと思った。その気持ちだけで enough.十分、 映画「ラブアクチュアリー」の友達の恋人に片思いしているマークが告白して、キスされた時のシーンを思い出した。
 
第10章 
 
 7月に鍼灸師の集まりがあり東京へ行くことになった。先生にその事を告げると、その日先生も用事で東京に行くと言う。会えたら会いましょうよと先生は言った。本当に会えるとは思っていなかった。5月に先生が「会いに行こうかな」と言ってから、その話は発展しなかった。アメリカに住んでいた先生と実際に会う運命になるとは、全く期待していなかった。会うのが怖い気もした。画面で見ているのと、実際に会うのでは、印象は違うだろう。尚子は、今まで2年先生に抱いてきたイメージが、会う事で崩れてしまうことを心配した。先生にもそう思われてしまうのは、それ以上に怖かった。
 7月7日、新幹線で大阪から東京に行く。新宿に何時に着くか詳しく分かったら、LINEで連絡を取りあう事になった。尚子は、何を着ていこうか、まるで二十歳そこそこの娘のようにドキドキした。
 東京に着く30分も前に、尚子は先生にLINEを送った。「9時40分には新宿に着きます。」LINEは既読にならない。それは先生にはよくある事だった。しかし、とうとう新宿に着いた。尚子は東京に慣れていない。新宿のどこの出口にむかっていいのか分からない。山手線のホームのちょうど真ん中あたりで、先生からの返信を待った。30分が経ち、時間は、10時10分になった。もう一度、送ってみる。「ホームで待っています。」それから、1時間、11時を過ぎても、先生から返信はなく、尚子は途方に暮れた。先生に何かトラブルがあったのではないだろうかと案じた。尚子は先生の連絡先は、LINEしか知らなかった。携帯番号も聞いていなかった。あと10分待とう、あと5分待とうと何回それを繰り返しただろう。先生は、もう来ないんだと納得しようとした。そして、改札を出て、とりあえず、どこでもいい、お店に入った。ルノアールという喫茶店がすぐ通りを出た所にあった。中は広々としていて、人も少なくクーラーも効いていた。人混みのホームに2時間以上立ったままだったので、足が棒のようになっていた。先生が事故にでもあって、連絡できないのではないかとそれが気になって、観光どころではなかった。
 翌日の午後になって、先生からやっと連絡が来た。「尚子さん、本当に昨日はすみませんでした。朝、出ようとしたら、携帯をズボンのポケットに入れたまま洗濯機にいれてしまい、昨日全く動かなかったんです。今日乾燥させたら、動いたのでやっと連絡できました。早く来てもらったのに、申し訳ありませんでした。」
 尚子は、先生の無事が分かって安堵した。「心配していました。何もなくてよかったです。私の方は、全然気にしないでください。」と返信した。すぐに「本当にすみませんでした。尚子さんの携帯番号を聞いておけば、連絡する事ができたのに。」と返信が来た。尚子は、「お会いできるのを楽しみにしていたので、残念ですが、またの機会があれば、嬉しいです。」と返事をすると、「僕もとても楽しみにしていました。ぜひまた計画を立てましょう。」と先生は書いてきた。


 
#創作大賞

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