【境界戦姫:第二話】

血を吐き、倒れる土蜘蛛。
その上に乗る、謎のセーラー少女。

彼女を見上げる、ボロボロの少女。
視線を交わえる二人。互いに「誰だ」と問う。
上と下。静謐に満ちる空間。

先に沈黙を破ったのは、息も絶え絶えな陽子。


陽子「……テメェ。それ、アタシの獲物だぞ」
「なに横取りしてンだよ……」


左手で右腕を庇い、肩で息をする。

着ていた白シャツは燃えて無くなり、辛うじて残った下着(ブラ)が露わになっている。

下も、何とかスカートらしきものがかかっているが、脱げそうな状態。
ほぼ下に履いているスパッツしか見えない。

全身は痣・切り傷だらけ。至る所から出血。
しかし、致命傷には至っていない。

少女、笑顔のまま陽子を見下ろし、首を傾げ、空を見上げる。そしてボソリと。


命「──コレも、討滅対象なのでしょうか」
陽子「あァ……?」


話を聞いていないのか、返事になっていない少女の返し。
額に怒りの筋。「チッ」と舌打ち。
そして、全身を引きずるよう、前進。


陽子「まァいい、ぶん殴ってでも引きずり下ろして……」


そう言いながら左拳を握る、その時。

眼前にいた筈の彼女が右横に吹き飛び、地面に叩きつけられる。

グシャリと。
肉が裂かれ、骨が砕ける音。

陽子「ッ!?」

突然吹き飛んだ少女に、目を剥く。
すると、土蜘蛛から黒い「陰」が差し、ゴキゴキと動き出す。

陽子「……これ。しぶといとか、そんな次元じゃねェだろ」

土蜘蛛、頭は無く、足も残り二本のみ。
残された胴体を、二本の足で引き摺りながら陽子に向かう。

土蜘蛛「マ、まダ、死ネなヰィ……」
「わ、私ハね、子供を、殺されてるのよ、」
「源頼光に……!」

陽子、額から汗を流す。

土蜘蛛「焼かレなガら死んデいく子供たち……!」
「私ハね、可愛ィ我ガ子供ノ為に、仇を討たなきゃいけないの……!」

陽子、それを見つめながら。

(散々子蜘蛛を放っておいて、何言ってんだコイツ……?)

呆れたように思う。
土蜘蛛、吠える。

「──ダかラ私は、死ぬ訳にはいかない!!」「復讐! 復讐!!」
「その為にこうして力を……!」


命「あはは」


瓦礫の中から、少女の笑う声。

土蜘蛛「……え?」

次の瞬間、瓦礫の中から吹き出る黒い影。
それに包まれて姿を現す、血に塗れた少女の姿。

陽子、土蜘蛛。
その姿に、そして彼女の放つ圧に、身動きが取れない。


命「──あはははははははははははは」


少女、抑揚の無い笑い。
刀を横薙ぎに振るいつつ、一歩ずつ近づいてゆく。


一頻り笑い終え。「……それで、」


命「それが何故。あなたがこの世界に存在していい理由になるんですか?」


陽子の背筋が凍る。
彼女の雰囲気が、明らかに変わった。

土蜘蛛は、もはや声も出せずにいる。
少女、右手に持った刀の刃先を、左腕に当て、語り始める。 


命「あなたが本来いるべき場所は、現界《ここ》では無く地獄《じごく》です」

「死んだ者が送られる黄泉国でも、良い行いをした者が向かうとされる天国でも無く、ただの地獄」 

刀の切先から、少女の血液が流れ、地面を紅く濡らす。

「この世界は、あなたの存在を許可していません」

「(虚な目のまま)にも関わらず、あなたは現臨した」「誰の差金かは知りませんが──」

「この世にあなたの居場所は無い」

薄皮を斬り、プクッと溢れる血液を、少女は刀に一滴垂らす。
すると刀から「ドクンッ」と、心臓の音。

刀身はそのまま。
刃先が紅蓮に染め上げられ──三つ程、目玉が開かれる。

陽子(なッ──ンだよ、アレは……!?) 

口を開け、驚嘆の表情。
少女、紅く染まった刀の切先を、血に濡れた地面に刺し込む。ずぷりとした音。

すると、いつの間にか土蜘蛛の周囲には、黒い影が。
少女、土蜘蛛に一瞥の暮れずに告げる。

命「さようなら」

その後、黒い影から伸びる無数の紅い刀身が土蜘蛛を貫き、ブチブチと、黒い影に食われてゆく。

土蜘蛛、叫びながら消滅。

少女は、刀を地面から抜きながら。

命「……怨刀《おんとう》・禍刃祓ヰ《マガハバライ》。ヰ怪を殺し、地獄《ゲヘナ》に叩き込む事が出来る……大きな鍵みたいなものです」

それ以外ではただの刀です、と付け加えつつ、貼り付けの笑顔のまま、陽子の方を振り向く。


「知りたそうにしてたので」 

陽子「……ソイツはどうも」
苦笑いで答える。


少女、土蜘蛛を完全に祓った事を確認し、
「さて──」と一拍。


陽子、疑心の目で少女を見る、その直後。
今度は切先を、陽子へと振るい始めた。  

「危ねッ……!!」
陽子、寸前で避け、後方に飛び下がる。


陽子「……テメェ、何のつもりだ?」
声を低くし、威嚇。

命「何って……?」小首を傾げながら。
「ヰ怪を確実に祓うのが、私の役目なので」

陽子「ヰ怪……?」

自分が神と認識できていないのか?と、疑問を浮かべたその時。
既に彼女は肉薄しており、刀を振り下ろす寸前であった。

陽子「ッ!?」 

陽子、再び寸前で下がるが、二撃目の斬撃に対応できない。

(ヤベェ、やられ──)

斬られると思った直後。
少女は突然、全身から血を吹き出し、気を失うようにその場で倒れた。

陽子、突然倒れた少女に、「あ……?」と困惑気味に声を漏らす。

呆然とする陽子の背後から、男の声。

晴明「力を行使した時の副作用だよ」
「気にしなくていい」

やれやれ、とため息混じりの声。
陽子、声がした方を振り向く。

短く切り揃えた黒髪に、メガネ。
胡散臭さバリバリの笑み。身長は185cm程。
黒シャツ・紺ジャケット・白ジーンズ。 

男は、陽子を認めると「やっ♪」と声をかける。

陽子は、その男を知らない訳では無く、あからさまに嫌な顔を浮かべる。 

陽子「……安倍晴明、」
「その女、テメェの差し金かよ」

晴明「差し金って……酷い言い様だな」
晴明、「よっこらしょっ」と倒れた命を担ぎ込む。

そして、陽子に向き直る。
怒り剥き出しの視線を晴明に向けていた。
晴明、ふぅ、と息をつくと、親指で伊勢神宮を指し示し。

晴明「……色々と聞きたい事があるだろうけどさ、」「とりあえず、天照様のとこ行かない?」


 ※


皇大神宮内。
手当を受けた命。用意された布団の上で眠る。

他の全員は、椅子やソファーに座り、晴明の方へ視線を送る。
晴明、眼鏡のブリッジを中指で押し上げつつ、口を開く。 


晴明「さて……何処から話そうかな」

陽子「土蜘蛛。まずはソイツからだろ」


陽子、山﨑に手当を受けながら(包帯等)土蜘蛛についての説明要求。
「ありゃ何だ? なんであんな化け物が俺らの庭《三重》で闊歩してんだよ?」


晴明「? さぁ?」 
「誰かが地獄《じごく》から呼び寄せたんじゃないの?」(お茶飲みながら)

陽子「テメッ、ふざけてんのか!?」 

天照「まぁ待て陽子。落ち着け」

天照が嗜め、晴明をジロリと見る。

天照「……陽子が土蜘蛛と祓《や》り合っとる際に聞いてはおったが、」
「どうやら、此奴の持つ『予見の才』が、嫌なモンを捉えたらしくてな」

陽子「嫌なモン?」

陽子が聞き返す。晴明は「そうそう」と頷きながら、「ところで陽子ちゃん、」と前置き。

「ヰ怪って何か知ってる?」

陽子「アンタ、絶対アタシのことバカにしてんだろ!!」

バカにされてると思いキレる陽子。  
(怒りの余り、額から血が吹き出る) 
山﨑、慌てて抑える。


【──ヰ怪。
 現界には存在しない筈だった異形の総称。

 呪霊・妖怪・悪魔。
 時には天使すらも含まれる。

 数々の異形は、各々の位相《別世界》から産み出され、それぞれの生態系を持つ。

 留まる場所が既に決まっており、そしてそれは、現界に住まう人々にも同じ事が言える。

 しかし、時に現界と位相が繋がり合う事象が発生する事がある。

 現界と位相は、「境界」という世界の通路で繋がっており、希に発生する境界の乱れにより、干渉しない筈の世界同士がぶつかり合う。】


晴明「──ま、それによって妖怪やら悪魔やら、今で言う所のヰ怪が現界《こっちの世界》にやってきたりする訳だけど、」 

「数十年前に起きたクソみたいな事件のせいで、世界各地にあった境界が殆どぶっ壊されちゃってさ、」
「ヰ怪がめっちゃ出るようになってんの」

それは知ってるよね?と尋ねる。
晴明、陽子の正面、ソファに座り足を組む。

晴明「でもそれは、今に始まった話じゃない。本題はこっからでさ」

「東京や京都、大阪。その他日本国内でも、アレ《土蜘蛛》クラスのヰ怪が偶発的に発生してる」
「けどそれは、あくまでも下位・中位クラスのヰ怪の話だ」
「上位クラスとなると、話が変わる」

晴明、人差し指を立てて。

晴明「──これはね、明らかに人為的なものだよ。何者かが僕たちのいるこの世界をぶっ壊そうとしてる」

陽子「ぶっ壊すって……」

晴明「さっき説明した通りさ。境界は通路だけど、普段は扉が閉まってて行き来出来ない、」

「けどその扉がいまぶち抜かれてるせいで、行き来し放題な状況になってる」

「その謎のクソ野郎はね、この境界を取っ払おうとしてんの」


陽子「……?(意味わからん顔から、)
……ッ!?(ハッと、何かに気付いた顔)」

【境界は、通路としての役割もあるが、それぞれの位相が干渉しないよう(接触しないよう)にしてる「柱」としての役割も担う。】

山﨑「も、もしもそれが無くなったら……」

晴明「文字通りぶつかり合う」

「んでもって、現界は積み重なる位相の中心に存在する。柱が無くなれば、最悪潰されて終わり」

「──そしてそんな最悪な事態が、来年の2021年に迫ってるって話。理解できた?」

陽子「ふざけてんのか?」
晴明「大真面目さ」

空気も重くなる中、晴明はパンっと手を叩き、「そこで」と声を張る。

晴明「来るべき日に備えて、色々と準備しようぜ!……って、そういう話♪」

陽子、事態を飲み込み、理解する。
そんな彼女に、理解の及ばない話を、晴明が切り出した。

晴明「そういう訳だから、君、」

「僕らと一緒に東京行きね」

この子、と視線の先。
布団の上で寝息をたてる命。

陽子「……はっ?」


 第二話・了。



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